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(何やってんのよ、みどり~!?)

 みどりがモテるのは昔から知っていた。学生の頃から、よく上級生や同級生に告白されていたのも。
 結婚を決めた以上、そういう男関係は、全て片をつけたと思っていたが。

 屈強な身体に似合わず、しょぼくれていた男をじっと見つめていた私は、そこでようやく乱入者の正体に気づいたのだった。

「あ、もしかして、和田山わだやまさんですか。ジムの常連客の?」
「ようやく思い出してくれましたか……」

 乱入者ーー和田山さんは今にも泣きそうな顔になっていたが、恐らく、和田山さんが言っているのと、私が考えている「思い出した」は別物だろう。

 和田山さんは、数年前から私がインストラクターを務めているスポーツジムに通っている常連客の一人だった。
 私はあまり関わりがないが、通い始めた頃より、筋肉が付き、身体付きが良くなり、年々逞しくなってきたと、インストラクター達の間で話題になっていたのを覚えていた。

「まあ、思い出したと言うか、なんと言うか……。でも、和田山さんには申し訳ないんですが、実は私は……」

 自分の正体について明かそうとしたその時、サイレンの音が近づいて来たかと思うと、すぐ近くで停まった。

「ま……みどり……!」

 パトカーの中からまろぶように出てきたのは、白いタキシード姿の芳樹さんだった。

「芳樹さん!」

 芳樹さんは私と和田山さんの間に立ちはだかると、「お前!」と和田山さんを指差したのだった。

「よくも、みどりを、誘拐してくれたな……!」

 まだ和田山さんが怖いのか、芳樹さんの膝は震えていた。
 そんな芳樹さんを和田山さんが睨みつけたのだった。

「なんでお前みたいな干物男が、みどりさんと結婚出来るんだ?」
「干物って……みどりさんが言ったんだ。『筋肉質に男よりも、僕の様に細身の男が好きだ』って」
「そんなことはねぇ! おれは確かに言われたんだ。『もやしみたいな男は嫌いだ』って。お前ももやしみたいなもんじゃねぇか!」
「そ、そんなことは無いぞ……」
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