3 / 9
死にかけて【3】
しおりを挟む
「扉を開けただけなら、どうしてここにいるんだ。この城に普通の人は入って来れない」
「普通の人は入って来れないって……?」
喉が詰まって咳き込む。まともな食事をしていない身体に長話は耐えられなかった。
私が咳き込んでいる間に、男はそっと離れると部屋から出て行く。
しばらくして戻って来ると、手には白い湯気が立つマグカップが乗ったトレーを持っていたのだった。
「白湯だが、飲めるか?」
私は頷いて男からカップを受け取ると、ふうふうと息を吹きかけて口をつける。
冷え切った身体に白湯の温かさが染み入ったのだった。
「温かい……」
ぽつりと呟いてから男に視線を移すと、トレーを置いて、隣の椅子にやって来たところであった
「沸かしたてだからな」
椅子に座った男の両手を見ると、何故か革で出来た不格好な手袋をつけていた。
「そういえば、まだお前の名前を聞いていなかったな」
「真白。真っ白と書いて、真白っていいます」
「真っ白? 真っ黒の間違いだろう。髪も目も黒なのに」
「それは日本人なので……」
「ニホンジン? 聞いた事ないな。この辺りの国の人間じゃないのか……?」
考え込んでいた男だったが、すぐに頭を振ると「いや、今はいい」と呟いた。
「おれはポラン。ポラン・ネルヴェ。この雪氷に閉ざされた国・ミュラッカの王だ」
「氷雪に閉ざされた国? 日本じゃないんですか?」
「ニホン? 何を言っているんだ。
ここは王であるおれが住むミュラッカの城だ。お前は城内の国王の自室に勝手に入って来たんだ」
「そんな筈はありません! 私は自分のアパートの部屋に入っただけです。
そうしたら、見知らぬ通路に出て、戻るにも入ってきた扉が無くなっていて、それで仕方なく明かりが漏れていた部屋に入っただけで……」
私の言葉に、男は、ポランは「だがな」と話し出す。
「毎年この時期は降雪が酷く、国民には国内外への外出を制限している。
特に今年は降雪量が多く、城の門も固く閉ざしているから、普通は誰も入れないんだ。……おれの命を狙う、他国からの刺客や暗殺者を除いてな」
「私は刺客でも暗殺者でもありません。どこにでもいる普通の会社員です!」
私の言葉にポランは溜め息を吐く。私はまた咳き込みそうになって、白湯を口にしたのだった。
「わかった。そこまで言うなら、もう一度、お前の……真白の話を聞かせてくれないか。どうやってこの城に現れたのかを」
「わかりました……」
私はまた白湯を口にすると、ゆっくり話し出したのだった。
「普通の人は入って来れないって……?」
喉が詰まって咳き込む。まともな食事をしていない身体に長話は耐えられなかった。
私が咳き込んでいる間に、男はそっと離れると部屋から出て行く。
しばらくして戻って来ると、手には白い湯気が立つマグカップが乗ったトレーを持っていたのだった。
「白湯だが、飲めるか?」
私は頷いて男からカップを受け取ると、ふうふうと息を吹きかけて口をつける。
冷え切った身体に白湯の温かさが染み入ったのだった。
「温かい……」
ぽつりと呟いてから男に視線を移すと、トレーを置いて、隣の椅子にやって来たところであった
「沸かしたてだからな」
椅子に座った男の両手を見ると、何故か革で出来た不格好な手袋をつけていた。
「そういえば、まだお前の名前を聞いていなかったな」
「真白。真っ白と書いて、真白っていいます」
「真っ白? 真っ黒の間違いだろう。髪も目も黒なのに」
「それは日本人なので……」
「ニホンジン? 聞いた事ないな。この辺りの国の人間じゃないのか……?」
考え込んでいた男だったが、すぐに頭を振ると「いや、今はいい」と呟いた。
「おれはポラン。ポラン・ネルヴェ。この雪氷に閉ざされた国・ミュラッカの王だ」
「氷雪に閉ざされた国? 日本じゃないんですか?」
「ニホン? 何を言っているんだ。
ここは王であるおれが住むミュラッカの城だ。お前は城内の国王の自室に勝手に入って来たんだ」
「そんな筈はありません! 私は自分のアパートの部屋に入っただけです。
そうしたら、見知らぬ通路に出て、戻るにも入ってきた扉が無くなっていて、それで仕方なく明かりが漏れていた部屋に入っただけで……」
私の言葉に、男は、ポランは「だがな」と話し出す。
「毎年この時期は降雪が酷く、国民には国内外への外出を制限している。
特に今年は降雪量が多く、城の門も固く閉ざしているから、普通は誰も入れないんだ。……おれの命を狙う、他国からの刺客や暗殺者を除いてな」
「私は刺客でも暗殺者でもありません。どこにでもいる普通の会社員です!」
私の言葉にポランは溜め息を吐く。私はまた咳き込みそうになって、白湯を口にしたのだった。
「わかった。そこまで言うなら、もう一度、お前の……真白の話を聞かせてくれないか。どうやってこの城に現れたのかを」
「わかりました……」
私はまた白湯を口にすると、ゆっくり話し出したのだった。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説

お飾り王妃の死後~王の後悔~
ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。
王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。
ウィルベルト王国では周知の事実だった。
しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。
最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。
小説家になろう様にも投稿しています。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
愛されていたのだと知りました。それは、あなたの愛をなくした時の事でした。
桗梛葉 (たなは)
恋愛
リリナシスと王太子ヴィルトスが婚約をしたのは、2人がまだ幼い頃だった。
それから、ずっと2人は一緒に過ごしていた。
一緒に駆け回って、悪戯をして、叱られる事もあったのに。
いつの間にか、そんな2人の関係は、ひどく冷たくなっていた。
変わってしまったのは、いつだろう。
分からないままリリナシスは、想いを反転させる禁忌薬に手を出してしまう。
******************************************
こちらは、全19話(修正したら予定より6話伸びました🙏)
7/22~7/25の4日間は、1日2話の投稿予定です。以降は、1日1話になります。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる