【完結】異世界で子作りしないで帰る方法〈加筆修正版〉

夜霞

文字の大きさ
上 下
98 / 109

フェーンの正体【3】

しおりを挟む
やがて、アズールスを呼んできた柚子は、フェーンも合わせた三人で館長室で待っていた。
カルセドニーはコースタルに連絡を取ると、どこかに出掛けてしまったのだった。
柚子からフェーンと会った時のカルセドニーの様子を聞いたアズールスは、窓辺ーー館長室内の奥にあったが本の山で隠れていた、に立つと考え込んでいた。
「カルセドニーさんは、フェーンの何が気になったのだろうか……?」
「さあ……。カルセドニーさんって、確かまだ軍人なんですよね?」
「ああ。怪我をして前線から身を引いたとはいえ、公文書館の責任者として軍籍に身を置いている筈だ」

以前、カルセドニーは、怪我をきっかけに軍を退役しようとしたところ、この公文書館の責任者の話をもらったと言っていた。
軍の規則の中には、「公文書館の責任者だけは、必ず軍籍の者でならなければならない」、という決まりがあるらしい。
ただ、軍で事務関係の仕事をしたいなら、もっと軍の中央部で事務仕事が出来るので、公文書館の責任者で、ここの様に閑職の一つである僻地の公文書館の責任者になりたい者は、ほぼいないそうだ。

「カルセドニーさんは、軍人であると同時に貴族の一人でもあった筈だ。爵位は伯爵だったかな」
「伯爵って……。アズールスさんより上の爵位ですよね!」
そうして二人が話していると、廊下が俄かに騒がしくなった。
どうやら、公文書館に来客があったようだった。
「珍しいですね。来客なんて」
柚子がここで働くようになってから、公文書館に来る来客は、火事とフェーンについての経過について報告に来るコースタルくらいのものだった。
ここまで、騒がしくなる事は、これまで無かったのだった。

「すまない。待たせたな」
「お待たせ。アズールス、ユズちゃん!」
「カルセドニーさん、コースタルさん!」
館長室の扉が開くとカルセドニーを先頭に、コースタルが入って来たのだった。
「カルセドニーさん、一体、どうしたんですか? 急に呼び出して」
窓辺から離れて扉近くまでやってきたアズールスが問いかけると、カルセドニーは扉の外に手招きをした。
「雨で馬車の用意に時間がかかった。実は会わせたい人がいるんだ」  
「会わせたい人?」
カルセドニーに手招かれ、コースタルに背を押されるようにしてやって来たのは、身なりのいい男性だった。その後ろには、男性に控えるように年老いた男性が立っていたのだった。
「間違いありませんか? ご確認下さい」
コースタルに背を押されるようにして部屋に入って来た身なりのいい男性は、フェーンを見ると目を丸くした。
すると、目に涙を溜めたのだった。
「フェーン! 無事だったのか!?」
身なりのいい男性はフェーンに駆け寄ると、抱きしめたのだった。
しおりを挟む
ツギクルバナー
感想 1

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました

八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます 修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。 その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。 彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。 ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。 一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。 必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。 なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ── そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。 これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。 ※小説家になろうが先行公開です

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

働かなくていいなんて最高!貴族夫人の自由気ままな生活

ゆる
恋愛
前世では、仕事に追われる日々を送り、恋愛とは無縁のまま亡くなった私。 「今度こそ、のんびり優雅に暮らしたい!」 そう願って転生した先は、なんと貴族令嬢! そして迎えた結婚式――そこで前世の記憶が蘇る。 「ちょっと待って、前世で恋人もできなかった私が結婚!?!??」 しかも相手は名門貴族の旦那様。 「君は何もしなくていい。すべて自由に過ごせばいい」と言われ、夢の“働かなくていい貴族夫人ライフ”を満喫するつもりだったのに――。 ◆メイドの待遇改善を提案したら、旦那様が即採用! ◆夫の仕事を手伝ったら、持ち前の簿記と珠算スキルで屋敷の経理が超効率化! ◆商人たちに簿記を教えていたら、商業界で話題になりギルドの顧問に!? 「あれ? なんで私、働いてるの!?!??」 そんな中、旦那様から突然の告白―― 「実は、君を妻にしたのは政略結婚のためではない。ずっと、君を想い続けていた」 えっ、旦那様、まさかの溺愛系でした!? 「自由を与えることでそばにいてもらう」つもりだった旦那様と、 「働かない貴族夫人」になりたかったはずの私。 お互いの本当の気持ちに気づいたとき、 気づけば 最強夫婦 になっていました――! のんびり暮らすつもりが、商業界のキーパーソンになってしまった貴族夫人の、成長と溺愛の物語!

処理中です...