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フェーンの正体【3】
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やがて、アズールスを呼んできた柚子は、フェーンも合わせた三人で館長室で待っていた。
カルセドニーはコースタルに連絡を取ると、どこかに出掛けてしまったのだった。
柚子からフェーンと会った時のカルセドニーの様子を聞いたアズールスは、窓辺ーー館長室内の奥にあったが本の山で隠れていた、に立つと考え込んでいた。
「カルセドニーさんは、フェーンの何が気になったのだろうか……?」
「さあ……。カルセドニーさんって、確かまだ軍人なんですよね?」
「ああ。怪我をして前線から身を引いたとはいえ、公文書館の責任者として軍籍に身を置いている筈だ」
以前、カルセドニーは、怪我をきっかけに軍を退役しようとしたところ、この公文書館の責任者の話をもらったと言っていた。
軍の規則の中には、「公文書館の責任者だけは、必ず軍籍の者でならなければならない」、という決まりがあるらしい。
ただ、軍で事務関係の仕事をしたいなら、もっと軍の中央部で事務仕事が出来るので、公文書館の責任者で、ここの様に閑職の一つである僻地の公文書館の責任者になりたい者は、ほぼいないそうだ。
「カルセドニーさんは、軍人であると同時に貴族の一人でもあった筈だ。爵位は伯爵だったかな」
「伯爵って……。アズールスさんより上の爵位ですよね!」
そうして二人が話していると、廊下が俄かに騒がしくなった。
どうやら、公文書館に来客があったようだった。
「珍しいですね。来客なんて」
柚子がここで働くようになってから、公文書館に来る来客は、火事とフェーンについての経過について報告に来るコースタルくらいのものだった。
ここまで、騒がしくなる事は、これまで無かったのだった。
「すまない。待たせたな」
「お待たせ。アズールス、ユズちゃん!」
「カルセドニーさん、コースタルさん!」
館長室の扉が開くとカルセドニーを先頭に、コースタルが入って来たのだった。
「カルセドニーさん、一体、どうしたんですか? 急に呼び出して」
窓辺から離れて扉近くまでやってきたアズールスが問いかけると、カルセドニーは扉の外に手招きをした。
「雨で馬車の用意に時間がかかった。実は会わせたい人がいるんだ」
「会わせたい人?」
カルセドニーに手招かれ、コースタルに背を押されるようにしてやって来たのは、身なりのいい男性だった。その後ろには、男性に控えるように年老いた男性が立っていたのだった。
「間違いありませんか? ご確認下さい」
コースタルに背を押されるようにして部屋に入って来た身なりのいい男性は、フェーンを見ると目を丸くした。
すると、目に涙を溜めたのだった。
「フェーン! 無事だったのか!?」
身なりのいい男性はフェーンに駆け寄ると、抱きしめたのだった。
カルセドニーはコースタルに連絡を取ると、どこかに出掛けてしまったのだった。
柚子からフェーンと会った時のカルセドニーの様子を聞いたアズールスは、窓辺ーー館長室内の奥にあったが本の山で隠れていた、に立つと考え込んでいた。
「カルセドニーさんは、フェーンの何が気になったのだろうか……?」
「さあ……。カルセドニーさんって、確かまだ軍人なんですよね?」
「ああ。怪我をして前線から身を引いたとはいえ、公文書館の責任者として軍籍に身を置いている筈だ」
以前、カルセドニーは、怪我をきっかけに軍を退役しようとしたところ、この公文書館の責任者の話をもらったと言っていた。
軍の規則の中には、「公文書館の責任者だけは、必ず軍籍の者でならなければならない」、という決まりがあるらしい。
ただ、軍で事務関係の仕事をしたいなら、もっと軍の中央部で事務仕事が出来るので、公文書館の責任者で、ここの様に閑職の一つである僻地の公文書館の責任者になりたい者は、ほぼいないそうだ。
「カルセドニーさんは、軍人であると同時に貴族の一人でもあった筈だ。爵位は伯爵だったかな」
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ここまで、騒がしくなる事は、これまで無かったのだった。
「すまない。待たせたな」
「お待たせ。アズールス、ユズちゃん!」
「カルセドニーさん、コースタルさん!」
館長室の扉が開くとカルセドニーを先頭に、コースタルが入って来たのだった。
「カルセドニーさん、一体、どうしたんですか? 急に呼び出して」
窓辺から離れて扉近くまでやってきたアズールスが問いかけると、カルセドニーは扉の外に手招きをした。
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「間違いありませんか? ご確認下さい」
コースタルに背を押されるようにして部屋に入って来た身なりのいい男性は、フェーンを見ると目を丸くした。
すると、目に涙を溜めたのだった。
「フェーン! 無事だったのか!?」
身なりのいい男性はフェーンに駆け寄ると、抱きしめたのだった。
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