【完結】異世界で子作りしないで帰る方法〈加筆修正版〉

夜霞

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祈りと告白【4】

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「そうか……。だが、柚子が少しでもここでの生活が気に入ってくれたなら良かった。本当はもっと楽をさせたいんだが、いかんせん、俺はこの通りだから」
アズールスが爵位を返さなければ、柚子はもっと優雅な暮らしが出来たのかもしれない。
使用人に傅かれて、屋敷を手伝う必要もなく、毎日本を読むだけの生活が。
「アズールスさんは何も悪くありません。私にはこれくらいの生活が丁度良いんです!」
苦笑するアズールスに柚子が微笑むと、アズールスは何か考え込み出した。
やがて、アズールスは口を開いたのだった。

「ユズは、まだ俺との間に子供を作るのは嫌か?」

「そ、それって、どういう……?」
柚子は顔を赤くすると、目を見開いてアズールスを見つめた。
「ユズは最初に言っていたな。『好きでもない男との子供を産みたくない』と。今はどう思っているんだ?」
「それって、アズールスさんを好きか、どうかという事ですか……?」
確かに、柚子はアズールスからこの世界に召喚された理由を聞かされた時に、アズールスにそう言った覚えがあった。
あの時は、アズールスの事を好きでもなかったが、今はどうだろう。
今なら、アズールスの子供を産めるだろうかーー?

「そ、それは、わかりません……」
柚子は俯く。
確かに、アズールスの事は好きだ。
だが、アズールスの子供を産めるかと言われると、それはまた別のような気がした。
アズールスは腕を伸ばすと、柚子の肩を抱き寄せた。
「今なら、産まれた子供だけじゃなくて、ユズも愛する。目的を果たしたからといって、ユズだけ元の世界に帰そうとは思っていない」
「アズールスさん……?」
柚子が顔を上げると、目の前にアズールスの顔があった。
「ユズを元の世界に帰したく無いんだ。……もう、ユズを離したく無い。俺の傍に、ずっと居て欲しい」
アズールスは空いている手で、柚子の手を取ると顔に近づけた。
「ユズが居たから、俺は前に進めた。もう、ユズの居ない生活が考えられないんだ。俺の心は、こんなにもユズを求めている。……ユズを愛しているんだ! 本当なら、ユズを公文書館で働かせたくなかった」
「それは……?」
「俺以外の公文書館の人間に興味を持ってしまったら。俺以外の公文書館の人間がユズを好きになってしまったらと思うと、気が気じゃなかった」
アズールスは懺悔をするように、柚子の手を両手で握りしめると、顔に近づけた。

「ユズの夢を応援すると言った以上、ユズの夢に最も近いと思ったのが、俺も働いている公文書館だった。けれども、そうやってユズを外に出してしまったら、俺だけを見てもらなくなるだろう。だから、公文書館にユズを紹介出来なかったんだ」
以前から、アズールスはカルセドニーに「本に詳しい人を知っていたら紹介して欲しい」と頼まれていた。
そこで、柚子が本に詳しいという事を知って、カルセドニーに柚子を紹介しようと思ったが、アズールスは躊躇ってしまったらしい。

「あの時、公文書館の近くで火事が遭って、ユズが公文書館に来なければ、ユズはそのままだった。ユズの存在が、公文書館の連中に知られる事も無かった」
けれども、それは柚子が夢を叶えるきっかけを失う事にもなって。
アズールスは柚子の夢を応援すると言ったのを、裏切る事にもなる。
「アズールスさんは、そこまで私の事を想っていたんですか……?」
「ユズがこの世界に残ってくれた時から……、必ずユズを幸せにすると誓ったんだ。ユズに寂しい思いや、辛い思いは決してさせない。幸せにすると」
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