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祈りと告白【1】
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「アズールスさん、これで最後ですね」
二人は市場に着くと、メモを頼りに買い物をした。
最近では柚子も市場の人達から顔馴染みになって来たようで、行く先々のお店で声を掛けられて、おまけまでしてもらったのだった。
今日はアズールスも一緒だからか、お店の人達から逢引かと茶化される場面もあった。
柚子は否定をしたが、アズールスは肯定しただけだった。
「ユズ、寄りたいところがあるんだが、付き合ってもらえるだろうか?」
「勿論です。ご一緒しますよ」
きっと、屋敷でマルゲリタと話していた場所だなぁと、柚子がアズールスについていくと、市場を抜けた先の村の片隅にある墓地に着いた。
「これは、教会ですか?」
アズールスは墓地の近くにある白色の壁の建物に向かっていた。
「ああ。この辺りにはここにしか無いんだ」
アズールスは迷いなく教会の扉を開けると、中に入った。
柚子もその後に続いたのだった。
教会は石を組んで出来ていた。
天井が高い造りとなっており、木の長椅子が正面からズラリと並んでいた。
正面には祭壇があり、アズールスは祭壇近くの長椅子に座ると、柚子を手招いたのだった。
「勝手に入ってしまっていいんですか?」
「問題ない。この時間帯は誰でも祈れるように、教会を解放しているんだ」
柚子はアズールスの隣に座ると、アズールスは手を組んだ。
「ユズが来るまでは、時折、教会に来ては、家族の為に祈っていた。家族の冥福を」
事故で亡くなったアズールスの家族の墓は、ここから遠い地方のアズールスが子供の頃に住んでいた屋敷の近くの墓地にあるらしい。
墓参するにはここから家族の墓は遠く、行くには数日かかるらしいので、代わりにアズールスはこの教会で家族の冥福を祈るようにしていた。
「私が来るまでですか?」
「忙しくなったというのが表向きの理由だが、それ以外にも理由があってだな……」
「理由ですか?」
「それを話す前に、先に祈ってもいいだろうか?」
「なら、私もアズールスさんのご家族の為に、一緒に祈ってもいいでしょうか?」
「ユズ?」
アズールスがキョトンとした顔で、首を傾げた。
「アズールスさんにとって大切なご家族なら、私にとっても大切なご家族ですから」
アズールスが柚子を召喚するきっかけにもなった、家族の事故死。
それは悼むべき出来事だが、それが無ければ柚子とアズールスは出会う事は無かった。
「それに、ご家族はアズールスさんの事を空の上から心配されていると思います。私が居るからアズールスは大丈夫だと、心配しなくていいと、伝えたいんです」
「ユズ……」とアズールスは呟くと、やがて頷いてくれたのだった。
「ああ、そうしてくれると嬉しい」
そうして、二人は亡くなったアズールスの家族の為に祈りを捧げた。
この国での祈り方を知らなかった柚子は、元の世界でやっていた様に両手を合わせただけだった。
(アズールスさんはもう大丈夫です。マルゲリタさんやファミリアちゃんやフェーン君が居ますから。それに、私も)
自分もアズールスの傍にいるという意味を込めて、柚子は祈る。
もう、アズールスは一人じゃない。
マルゲリタやファミリアだけじゃなく、今では柚子もフェーンも居る。
だから、心配しなくていい。
柚子はいつか夢で見たアズールスの家族に向かって、そっと祈りを捧げたのだった。
二人は市場に着くと、メモを頼りに買い物をした。
最近では柚子も市場の人達から顔馴染みになって来たようで、行く先々のお店で声を掛けられて、おまけまでしてもらったのだった。
今日はアズールスも一緒だからか、お店の人達から逢引かと茶化される場面もあった。
柚子は否定をしたが、アズールスは肯定しただけだった。
「ユズ、寄りたいところがあるんだが、付き合ってもらえるだろうか?」
「勿論です。ご一緒しますよ」
きっと、屋敷でマルゲリタと話していた場所だなぁと、柚子がアズールスについていくと、市場を抜けた先の村の片隅にある墓地に着いた。
「これは、教会ですか?」
アズールスは墓地の近くにある白色の壁の建物に向かっていた。
「ああ。この辺りにはここにしか無いんだ」
アズールスは迷いなく教会の扉を開けると、中に入った。
柚子もその後に続いたのだった。
教会は石を組んで出来ていた。
天井が高い造りとなっており、木の長椅子が正面からズラリと並んでいた。
正面には祭壇があり、アズールスは祭壇近くの長椅子に座ると、柚子を手招いたのだった。
「勝手に入ってしまっていいんですか?」
「問題ない。この時間帯は誰でも祈れるように、教会を解放しているんだ」
柚子はアズールスの隣に座ると、アズールスは手を組んだ。
「ユズが来るまでは、時折、教会に来ては、家族の為に祈っていた。家族の冥福を」
事故で亡くなったアズールスの家族の墓は、ここから遠い地方のアズールスが子供の頃に住んでいた屋敷の近くの墓地にあるらしい。
墓参するにはここから家族の墓は遠く、行くには数日かかるらしいので、代わりにアズールスはこの教会で家族の冥福を祈るようにしていた。
「私が来るまでですか?」
「忙しくなったというのが表向きの理由だが、それ以外にも理由があってだな……」
「理由ですか?」
「それを話す前に、先に祈ってもいいだろうか?」
「なら、私もアズールスさんのご家族の為に、一緒に祈ってもいいでしょうか?」
「ユズ?」
アズールスがキョトンとした顔で、首を傾げた。
「アズールスさんにとって大切なご家族なら、私にとっても大切なご家族ですから」
アズールスが柚子を召喚するきっかけにもなった、家族の事故死。
それは悼むべき出来事だが、それが無ければ柚子とアズールスは出会う事は無かった。
「それに、ご家族はアズールスさんの事を空の上から心配されていると思います。私が居るからアズールスは大丈夫だと、心配しなくていいと、伝えたいんです」
「ユズ……」とアズールスは呟くと、やがて頷いてくれたのだった。
「ああ、そうしてくれると嬉しい」
そうして、二人は亡くなったアズールスの家族の為に祈りを捧げた。
この国での祈り方を知らなかった柚子は、元の世界でやっていた様に両手を合わせただけだった。
(アズールスさんはもう大丈夫です。マルゲリタさんやファミリアちゃんやフェーン君が居ますから。それに、私も)
自分もアズールスの傍にいるという意味を込めて、柚子は祈る。
もう、アズールスは一人じゃない。
マルゲリタやファミリアだけじゃなく、今では柚子もフェーンも居る。
だから、心配しなくていい。
柚子はいつか夢で見たアズールスの家族に向かって、そっと祈りを捧げたのだった。
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