【完結】異世界で子作りしないで帰る方法〈加筆修正版〉

夜霞

文字の大きさ
上 下
88 / 109

ファミリアとフェーン【2】

しおりを挟む
「楽しそうな声が聞こえてくるから、様子を見に来たが……。ユズも居たとはな」
「アズールスさんは、もう用事は終わったんですか?」
アズールスは書斎にこもって、屋敷やフェーンについての諸々の雑事をこなしていた。
「ああ。ひとまず片付いた。休憩しようと思ってな」
すると、庭から楽しそうな声が聞こえてきて、つられたアズールスも庭にやって来たとの事だった。

「まあ、そうでしたか。申し訳ありません。騒々しくしてしまって」
「いや。いい。フェーンもファミリアと上手くやっているようだしな。それに……」
アズールスはフェーン達を見つめると、目を細めたのだった。
「二人を見ていると、亡くなった弟と妹を思い出すようだ」
「旦那様……」
アズールスの言葉に、マルゲリタはそっと顔を伏せたのだった。
「アズールスさん……」
「いや。そんな事を言ったら、フェーン達に失礼だな。ただ、二人が生きていたら、ああやって楽しそうに遊んでいたのかと思うと、懐かしく思ったんだ」
アズールスの弟妹は、アズールスが子供の頃に遭った馬車の滑落事故で、両親と共に亡くなっている。
生きていたら、フェーン達よりも少し歳上の二人にとって、良き遊び相手になっていただろう。

悲しそうな顔をする二人に、アズールスは謝ったのだった。
「すまない。こんな話をするべきじゃなかったな」
「いえ。いいんです。ところで、アズールスさんの弟さんと妹さんって、どういう子達だったんですか?」
「そうだな……。双子の弟妹だったが、性格は反対だったな。弟は活発で、妹は引っ込み思案で」
アズールスと歳の離れた双子の弟妹は、よく二人で屋敷内を遊んでいたらしい。
活発な弟はよく悪戯をして両親に怒られ、引っ込み思案な妹はアズールスや弟の影に隠れていたそうだ。

「俺が学校に通うまでは、よく俺も含めた三人で遊んでいたな。二人はなんでも俺を頼ってくるから、それが嬉しかったんだ」
「そうですか……」
兄と呼ばれて、弟妹に頼られるアズールスの姿を想像した柚子は微笑んだのだった。
「ああ、そうです」
すると、マルゲリタは何かを思いついたように、顔を上げた。
「食料の買い出しに行こうと思っていたのでした。今日の夕食の分はあるので、明日以降の食料を」 
「それなら、私が買いに行きますよ!」
柚子が声を上げると、アズールスも「ユズが心配だから俺も行こう」と申し出てくれたのだった。

「マルゲリタは夕食の支度もあるだろう。買い出しは俺とユズで行こう」
「あら。いいのですか。お願いしても?」
「はい! 私達に任せて下さい!」
柚子は大きく頷く。すると、マルゲリタは「では、お言葉に甘えて」と承諾してくれたのだった。
三人は一度、食堂にやって来ると、マルゲリタからお金とカゴを預かり、買う物をメモしたのだった。

「それから、旦那様。せっかくなので、あそこにも寄って来て下さいませ」
「ああ。だが、いいのか。屋敷は……?」
マルゲリタは頷いた。
「ええ。今はフェーンさんもいるので大丈夫ですよ。最近はファミリア共々、よく働いてくれるので助かっています」
「そうか。なら、ユズを連れて行って来る」
マルゲリタとアズールスが話す中、話の要領を得ない柚子は首を傾げる事しか出来なかったのだった。
しおりを挟む
ツギクルバナー
感想 1

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました

八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます 修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。 その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。 彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。 ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。 一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。 必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。 なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ── そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。 これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。 ※小説家になろうが先行公開です

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

踏み台令嬢はへこたれない

三屋城衣智子
恋愛
「婚約破棄してくれ!」  公爵令嬢のメルティアーラは婚約者からの何度目かの申し出を受けていたーー。  春、学院に入学しいつしかついたあだ名は踏み台令嬢。……幸せを運んでいますのに、その名付けはあんまりでは……。  そう思いつつも学院生活を満喫していたら、噂を聞きつけた第三王子がチラチラこっちを見ている。しかもうっかり婚約者になってしまったわ……?!?  これは無自覚に他人の踏み台になって引っ張り上げる主人公が、たまにしょげては踏ん張りながらやっぱり周りを幸せにしたりやっと自分も幸せになったりするかもしれない物語。 「わたくし、甘い砂を吐くのには慣れておりますの」  ーー踏み台令嬢は今日も誰かを幸せにする。  なろうでも投稿しています。

処理中です...