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振り分け【5】
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今回の火事では、火傷や避難途中で転んで怪我をした者は何名かいたが、死者はいなかった。
それは、飛び火した町村でも同じだった。
コースタルが聞き込みをした町村の者達は、皆、そう言っていたらしい。
「つまり、軍でもフェーンの事は何もわからなかったのか……」
アズールスはため息をついた。柚子も肩を落としたのだった。
「コースタルさんでも駄目なら、どうしたらいいのでしょうか……?」
「その、軍とは関係ないんだけどさ……」
コースタルは言い出しづらそうに、話を切り出した。
「昨日、アズールスの屋敷でフェーン君に会って、更にフェーン君が屋敷で保護された時に着ていた服をマルゲリタさんに見せてもらったんだけど……」
「なんだ。コースタル。はっきり言ってくれないか」
アズールスが睨みつけると、コースタルは「睨むなって!」と慌てたのだった。
「実は、俺さ。フェーン君に見覚えがあるんだよな……」
「はっ?」
柚子とアズールスの声が重なった。
「それって、どういう事ですか!?」
柚子は立ち上がると、コースタルに詰め寄る。
「ユズちゃん、落ち着いて!」
「落ち着け、ユズ」
二人に落ち着くように言われて柚子は深く息を吸い込んで、心を落ち着けたのだった。
「それで、コースタル。どこでフェーンを見たんだ?」
「フェーン君を見たわけじゃないんだ。フェーン君とよく似た顔立ちの人を、どこかで見た事あるような気がしてさ」
「でも思い出せない」と、コースタルは頭を抱えたのだった。
「フェーン君が着ていた服は、かなりいい素材で出来ていただろう? あの服の生地は、結構高価なんだ。おそらく、上級貴族か王族じゃないと買えないくらいの」
フェーンが最初に着ていた服は、伯爵以上の貴族か王族でよく好まれている生地で作られた服らしい。
通気性がよく、動きやすく、また汚れも落ちやすい、という事で、貴族か王族の子供や男性がよく着ているらしい。
「そう思って、貴族や王族関係の子供で行方不明になった子供を探したんだが……。これが思ってた以上に数が多いんだ。特定するにはまだ時間がかかりそうだ」
軍に届けられている貴族や王族関係者の行方不明の子供の一覧には、誘拐だけではなく、家出や事故等に巻き込まれて行方不明というのもあった。
中には、不仲の妻が勝手に子供を連れて家を出てしまった例もあるらしい。
「そんなに多いんですか……」
「ああ。昨日、フェーン君と出会って、マルゲリタさんやファミリアちゃんからフェーン君を保護した時の状況を聞いて、絞り込んで探しているが……。もう数日かかりそうだ。まだ、火事の事後処理も終わっていないしな」
どうやら、コースタルは火事の後始末をしながら、フェーンの身元探しもやってくれていたらしい。
「すみません。コースタルさんがお忙しいのに、フェーン君までお願いしてしまって……」
「いいから、いいから。ユズちゃんにそう言ってもらえるなら、俺もやりがいがあるから……。って、睨むなよ。アズールス」
柚子とコースタルが話していると、アズールスが静かにコースタルを睨みつけていたのだった。
「話はそれだけか。なら、引き続き、フェーンの身元探しを頑張ってくれ」
そうして、アズールスは柚子からコースタルを引き離すと、コースタルを公文書館から追い出そうとした。
「ちょっと、ちょっと! アズールス!」
「火事の事後処理もあって忙しいんだろう。なら、ユズに構っていないで、早く仕事をしたらいいんじゃないか?」
「ひどいな、アズールス! もう少し、ユズちゃんと話をさせてよ! 例えば、アズールスはどうだとかさ……」
「いいから! 早く帰れ!」
「あはははは……。マルゲリタさん達が用意してくれたパンと干し果物美味しいな……」
公文書館の入り口で喧嘩をする二人を放っておいて、柚子は昼食の続きを食べたのだった。
それは、飛び火した町村でも同じだった。
コースタルが聞き込みをした町村の者達は、皆、そう言っていたらしい。
「つまり、軍でもフェーンの事は何もわからなかったのか……」
アズールスはため息をついた。柚子も肩を落としたのだった。
「コースタルさんでも駄目なら、どうしたらいいのでしょうか……?」
「その、軍とは関係ないんだけどさ……」
コースタルは言い出しづらそうに、話を切り出した。
「昨日、アズールスの屋敷でフェーン君に会って、更にフェーン君が屋敷で保護された時に着ていた服をマルゲリタさんに見せてもらったんだけど……」
「なんだ。コースタル。はっきり言ってくれないか」
アズールスが睨みつけると、コースタルは「睨むなって!」と慌てたのだった。
「実は、俺さ。フェーン君に見覚えがあるんだよな……」
「はっ?」
柚子とアズールスの声が重なった。
「それって、どういう事ですか!?」
柚子は立ち上がると、コースタルに詰め寄る。
「ユズちゃん、落ち着いて!」
「落ち着け、ユズ」
二人に落ち着くように言われて柚子は深く息を吸い込んで、心を落ち着けたのだった。
「それで、コースタル。どこでフェーンを見たんだ?」
「フェーン君を見たわけじゃないんだ。フェーン君とよく似た顔立ちの人を、どこかで見た事あるような気がしてさ」
「でも思い出せない」と、コースタルは頭を抱えたのだった。
「フェーン君が着ていた服は、かなりいい素材で出来ていただろう? あの服の生地は、結構高価なんだ。おそらく、上級貴族か王族じゃないと買えないくらいの」
フェーンが最初に着ていた服は、伯爵以上の貴族か王族でよく好まれている生地で作られた服らしい。
通気性がよく、動きやすく、また汚れも落ちやすい、という事で、貴族か王族の子供や男性がよく着ているらしい。
「そう思って、貴族や王族関係の子供で行方不明になった子供を探したんだが……。これが思ってた以上に数が多いんだ。特定するにはまだ時間がかかりそうだ」
軍に届けられている貴族や王族関係者の行方不明の子供の一覧には、誘拐だけではなく、家出や事故等に巻き込まれて行方不明というのもあった。
中には、不仲の妻が勝手に子供を連れて家を出てしまった例もあるらしい。
「そんなに多いんですか……」
「ああ。昨日、フェーン君と出会って、マルゲリタさんやファミリアちゃんからフェーン君を保護した時の状況を聞いて、絞り込んで探しているが……。もう数日かかりそうだ。まだ、火事の事後処理も終わっていないしな」
どうやら、コースタルは火事の後始末をしながら、フェーンの身元探しもやってくれていたらしい。
「すみません。コースタルさんがお忙しいのに、フェーン君までお願いしてしまって……」
「いいから、いいから。ユズちゃんにそう言ってもらえるなら、俺もやりがいがあるから……。って、睨むなよ。アズールス」
柚子とコースタルが話していると、アズールスが静かにコースタルを睨みつけていたのだった。
「話はそれだけか。なら、引き続き、フェーンの身元探しを頑張ってくれ」
そうして、アズールスは柚子からコースタルを引き離すと、コースタルを公文書館から追い出そうとした。
「ちょっと、ちょっと! アズールス!」
「火事の事後処理もあって忙しいんだろう。なら、ユズに構っていないで、早く仕事をしたらいいんじゃないか?」
「ひどいな、アズールス! もう少し、ユズちゃんと話をさせてよ! 例えば、アズールスはどうだとかさ……」
「いいから! 早く帰れ!」
「あはははは……。マルゲリタさん達が用意してくれたパンと干し果物美味しいな……」
公文書館の入り口で喧嘩をする二人を放っておいて、柚子は昼食の続きを食べたのだった。
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