【完結】異世界で子作りしないで帰る方法〈加筆修正版〉

夜霞

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頼み【1】

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「ユズ。入ってもいいだろうか?」
「アズールスさん? どうぞ」
その日の夜、寝支度を済ませた柚子がベットで読書をしているとアズールスがやってきた。
柚子が立ち上がろうとすると、アズールスに手で制された。
アズールスは、いつものようにベットに入ると、柚子の隣にやって来たのだった。

「なんだか、久しぶりですね。こうして一緒に寝るのも」
ここ数日、アズールスが火事の始末で公文書館に泊まり込んでいた時は、柚子は一人で寝ていた。
密かに隣にアズールスの温もりがないのも寂しく思っていたのだった。
「そうだな。俺も公文書館の固いベットで寝ていたから、ユズの部屋の柔らかいベットに寝るのは久しぶりだな」
「それに」と、アズールスは柚子の頭を撫でながら続けた。
「隣に温もりがあるのも久しぶりだな」
「アズールスさん……」
柚子が頬を赤くしていると、アズールスは「ところで」と話を変えた。

「明日は予定はあるか?」
「いいえ。特には……」
柚子は首を振った。
「実は、カルセドニーさんがユズを気に入ってな。明日も片付けを手伝って欲しいって言っていたんだ」 
「私が!?」
アズールスは「ああ」と、頷いた。
「余程、ユズの知識と手際が気に入られたらしい。公文書館の片付けを手伝って欲しいとの事だった」
アズールスによると、柚子の外出については既にマルゲリタには話しており、柚子がいいなら、連れて行っていいとの事だったらしい。
「勿論、遅くなる前には屋敷に帰すし、僅かばかりだが謝礼も用意しているとの事だった。後はユズの気持ち次第だが……。どうだろうか?」
柚子は大きく頷いた。
「私で良ければ……。片付けを手伝わせて下さい!」
「良かった」と、アズールスは安心したようだった。

「ところで、昼間も気になっていたんですが……。公文書館には本に詳しい人はいないんですか?」
昼間のカルセドニーの話だと、本に詳しい者が公文書館にいないとの事だった。
それでは、公文書館を維持するのが大変ではないだろうか。
柚子が訊ねると、アズールスは「それが……」と言い辛そうにした。
「ユズがこの世界に来るまでは居たんだが、腰を痛めて辞めてしまったんだ」
公文書館には、長年、本を専門に管理していた高齢の男性が一人居た。
しかし、軍から古くなった資料が送られてきた際、公文書館内への搬入作業中に腰を痛めてしまったとの事だった。
当初は腰が治るまで休暇を取り、その後公文書館に戻ってくる予定だったが、なかなか腰が治らないとの事で、先日、とうとう公文書館を退職してしまったらしい。
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