【完結】異世界で子作りしないで帰る方法〈加筆修正版〉

夜霞

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黒髪【1】

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アズールスによると、カルセドニーが馬車を停めている場所は、公文書館から徒歩数分のところにあるらしい。
柚子はアズールスに連れられて公文書館を出たのだった。 

「ところで、カルセドニーさんと何を話していたんだ?」
「そうですね……。アズールスさんの事や私の様な異国人の話ですよ」
「俺の話はとても気になるが……。異国人の話というのは?」
柚子はカルセドニーから聞いた、黒髪黒目の者は異国人の血が流れているという話や、この国では滅多にいないという話をしたのだった。

「アズールスさんにも異国人の血が流れていたんですね。気づかなかったです」
柚子の言葉にアズールスは、「そういえば、まだ話ていなかったな」と思い出したようだった。
「俺の曽祖父も、ユズと同じように異なる世界から来た人間だったんだ。その曽祖父がユズと同じような黒髪黒目だったらしくてな。俺は曽祖父の血が濃いらしい」
「えっ!? そうだったんですか!?」
柚子は驚いて手で口を押さえたが、アズールスは何ともないように続けたのだった。

「曽祖父の代には、一族には女性しかいなくて跡継ぎとなる男子がいなくてな。それで、異なる世界から跡継ぎ候補を召喚したらしいんだ」
かつて、アズールスの一族には女子ばかりしか産まれず、跡継ぎがいない事から爵位を取り上げられそうになった事があった。
他家から婿や養子を迎えようにも、丁度その頃に、国で大きな内乱が起こり、身分を問わず男達は軍に徴収されて、ほとんどが生きて帰って来なかったらしい。
そこで、一族の長女ーーアズールスの曽祖母、は一族に伝わる召喚の書を使って、異なる世界から跡継ぎとなる花婿を召喚した。
それが、アズールスの曽祖父だった。

「曽祖父を召喚した際も、曽祖母は『跡継ぎとなる自分の子供を産みたい。出来れば男を』と、願って召喚したらしい」
アズールスが柚子を召喚した際も、「自分の子供を産んで欲しい」との理由だった。
もしかしたら、跡継ぎが欲しい時に召喚の書に頼るのは、アズールスの曽祖母の血かもしれないと柚子は思ったのだった。
「なんだか、アズールスさんと願いが似ていますね。それで、その曽祖父さんは願いを叶えた後に、元の世界に戻ったんですか?」
アズールスの話では、召喚者の願いを叶えれば、召喚された者は元の世界に戻れるらしい。
柚子が訊ねると、アズールスは首を振ったのだった。

「男が産まれて曽祖母の願いを叶えた後も、曽祖父は元の世界に戻らなかったと聞いている。一族の墓標に名前が刻まれていたからな」
今でも、定期的にアズールスやマルゲリタが定期的にアズールスの一族の墓標の掃除をしているらしい。
そこで、名前を見た覚えがあるとの事だった。
「そうなんですね……」
「結局、曽祖父と曽祖母は沢山の子供に囲まれたらしい。残念ながら、俺が産まれた時には二人共に亡くなっていたが」
「会ってみたかったですね」
「そうだな。俺もどういった経緯でこの世界で生きる事にしたのか、聞いてみたかったな」
アズールスは遠くを見つめたのだった。
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