【完結】異世界で子作りしないで帰る方法〈加筆修正版〉

夜霞

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後片づけ【1】

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「おはようございます。マルゲリタさん。遅くなってすみません」
翌朝、柚子が起きると日は高く昇っていた。
身支度を済ませて厨房に行くと、既にマルゲリタが昼食の用意を始めていたのだった。
「おはようございます。ユズ様。急がなくていいのですよ。まだファミリアとフェーンさんは起きていませんし、旦那様もまだ戻っていませんもの」
「アズールスさん、まだ戻って来ていないんですか!?」
ファミリアとフェーンが疲れて眠っているのはわかるが、アズールスがまだ帰って来ていないのは意外だった。

「ええ。そうなんです。さすがに心配になります。ここまで遅くなった事は、これまでなかったので……」
「それは心配ですよね……」
柚子はマルゲリタが用意してくれた昨夜の残りのスープとパンを食べてた。
そして、食後の紅茶を用意してくれたマルゲリタに、思い切って柚子は頼んでみたのだった。
「もし、マルゲリタさんが良ければ、私が公文書館に様子を見に行ってもいいですか? 人手が必要そうなら、アズールスさんを手伝って来ます」
もしかしたら、図書館で働いた経験のある柚子でも役に立つかもしれない。
そう思って声を掛けてみたが、マルゲリタは悩んでいる様子だった。
「そうですね……。昨夜からフェーンさんを屋敷に泊めている事も旦那様に言わなければなりませんし……。ですが、ユズ様の身に何かあったらと思いますと……」
やはり、以前、柚子が誘拐された経験が、マルゲリタを悩ませているのだろう。
柚子は「今度は大丈夫です」と、安心させるように微笑んだ。
「今回は公文書館に行くだけですし、用事が終わったら馬車を拾って真っ直ぐ帰ってきます」
「そうですね……。では、お願いしてもいいでしょうか? 旦那様が食事を摂られているのかも心配ですので」
「はい! 勿論です!」
柚子は朝食を済ませると、マルゲリタからアズールスの着替えと昼食を預かった。
マルゲリタが呼んでくれた馬車に乗ると、公文書館に向かったのだった。

柚子が公文書館の前で馬車を降りると、建物は酷い有り様であった。
「うわぁ……」
あまりの惨状に、柚子も言葉を失う。
どうやら風向きの関係で、火の粉が公文書館側に流れてきたらしい。
公文書館の建物を囲む石で出来た塀ーーとりわけ、火の手が上がった森側は、煤で黒色になっていた。
手伝いに来たと思しき、女性達が煤を落とそうと布で擦っていたのだった。
公文書館の建物も、森側は煤で黒くなっており、火の粉がかかったのか煤の上から水をかけたようで、外壁は濡れていたのだった。
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