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食料庫に誰かいる!・6
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「うん。僕、僕は……、何も覚えていないんだ」
「何も覚えてない?」
フェーンは俯いた。
「名前はわかるんだけど。それ以外、何もわからないんだ。
ただ覚えているのが、大きな火があって、そこから逃げている内に近くに荷馬車があって、それに乗ったら荷馬車が動いて……。少ししたら、荷馬車が停まって、降りたらこの近くに来たんだ」
荷馬車から放り出されたフェーンは、当てもなく歩いていた。
やがて、お腹が空いて近くの屋敷を覗き、食料がないか探すようになった。
中には家人に見つかって、怒られたり、水を掛けられたり、追いかけられたりしたらしい。
今日の昼間も、覗いていた家の家人に見つかって追いかけられた。
追いかけられている内に、この屋敷に入り込んだ。
屋敷の人間が寝静まってから、裏口の扉が開かないか試していると、たまたま食料庫の扉が開いた。
すると、入った部屋に食料があり、フェーンは食べてしまったとの事だった。
「そうだったのね……」
柚子がフェーンを見つめていると、フェーンは泣きそうな顔になったのだった。
「僕……、僕はこれからどうしたらいいんだろう……。お家もお母さんの顔もわからない」
「どこから来たかもわからない?」
柚子が問いかけると、フェーンはただ頷いたのだった。
「どうしますか? マルゲリタさん」
柚子はマルゲリタを振り返った。マルゲリタも困った様子であった。
「そうですね。私達だけではどうする事も出来ませんし、旦那様が帰宅されるのを待つしかないかと」
「そうですよね……。マルゲリタさん、今晩はここに泊めてもいいでしょうか?」
「ええ。それは勿論」
マルゲリタもこんな夜遅くに、フェーン一人を外に出すつもりはないようだった。
「ファミリアにお願いして客間を用意してもらったので、今夜はそこを使って下さい」
「ありがとうございます。マルゲリタさん」
柚子が礼を言うと、フェーンも同じように「ありがとうございます」と頭を下げたのだった。
マルゲリタは小さく笑ったのだった。
「ええ。フェーンさんを見ていると、ファミリアを見ているようで、放っておけないのです」
「私もです。ファミリアちゃんみたいで、放っておけないんです」
マルゲリタにつられるように、柚子も笑ったのだった。
マルゲリタが食器と竃の火の片付けてくれる事になったので、柚子はフェーンを客間に案内した。
二人が客間に向かうと、客間はすぐに使えるような状態になっていた。
客間を用意したファミリアは眠気が勝ったのか、用意が終わると先に寝てしまったらしい。
(ありがとう。ファミリアちゃん)
柚子は心の中でファミリアに礼を言うと、フェーンに客間の使い方を簡単に教えた。
フェーンは礼を言うとすぐにベッドに潜ったので、柚子はベッドに近づくと、フェーンの肩まで掛布を掛けたのだった。
「おやすみなさい。フェーン君」
「おやすみなさい。お姉さん」
それからすぐにフェーンは、寝息を立て始めた。
柚子はそっと部屋を出ると、食堂に戻った。
丁度、マルゲリタも片付けを終わったところだった。
柚子はマルゲリタに礼を告げると、自室に戻った。
そうして、泥のように眠ったのだった。
「何も覚えてない?」
フェーンは俯いた。
「名前はわかるんだけど。それ以外、何もわからないんだ。
ただ覚えているのが、大きな火があって、そこから逃げている内に近くに荷馬車があって、それに乗ったら荷馬車が動いて……。少ししたら、荷馬車が停まって、降りたらこの近くに来たんだ」
荷馬車から放り出されたフェーンは、当てもなく歩いていた。
やがて、お腹が空いて近くの屋敷を覗き、食料がないか探すようになった。
中には家人に見つかって、怒られたり、水を掛けられたり、追いかけられたりしたらしい。
今日の昼間も、覗いていた家の家人に見つかって追いかけられた。
追いかけられている内に、この屋敷に入り込んだ。
屋敷の人間が寝静まってから、裏口の扉が開かないか試していると、たまたま食料庫の扉が開いた。
すると、入った部屋に食料があり、フェーンは食べてしまったとの事だった。
「そうだったのね……」
柚子がフェーンを見つめていると、フェーンは泣きそうな顔になったのだった。
「僕……、僕はこれからどうしたらいいんだろう……。お家もお母さんの顔もわからない」
「どこから来たかもわからない?」
柚子が問いかけると、フェーンはただ頷いたのだった。
「どうしますか? マルゲリタさん」
柚子はマルゲリタを振り返った。マルゲリタも困った様子であった。
「そうですね。私達だけではどうする事も出来ませんし、旦那様が帰宅されるのを待つしかないかと」
「そうですよね……。マルゲリタさん、今晩はここに泊めてもいいでしょうか?」
「ええ。それは勿論」
マルゲリタもこんな夜遅くに、フェーン一人を外に出すつもりはないようだった。
「ファミリアにお願いして客間を用意してもらったので、今夜はそこを使って下さい」
「ありがとうございます。マルゲリタさん」
柚子が礼を言うと、フェーンも同じように「ありがとうございます」と頭を下げたのだった。
マルゲリタは小さく笑ったのだった。
「ええ。フェーンさんを見ていると、ファミリアを見ているようで、放っておけないのです」
「私もです。ファミリアちゃんみたいで、放っておけないんです」
マルゲリタにつられるように、柚子も笑ったのだった。
マルゲリタが食器と竃の火の片付けてくれる事になったので、柚子はフェーンを客間に案内した。
二人が客間に向かうと、客間はすぐに使えるような状態になっていた。
客間を用意したファミリアは眠気が勝ったのか、用意が終わると先に寝てしまったらしい。
(ありがとう。ファミリアちゃん)
柚子は心の中でファミリアに礼を言うと、フェーンに客間の使い方を簡単に教えた。
フェーンは礼を言うとすぐにベッドに潜ったので、柚子はベッドに近づくと、フェーンの肩まで掛布を掛けたのだった。
「おやすみなさい。フェーン君」
「おやすみなさい。お姉さん」
それからすぐにフェーンは、寝息を立て始めた。
柚子はそっと部屋を出ると、食堂に戻った。
丁度、マルゲリタも片付けを終わったところだった。
柚子はマルゲリタに礼を告げると、自室に戻った。
そうして、泥のように眠ったのだった。
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