【完結】異世界で子作りしないで帰る方法〈加筆修正版〉

夜霞

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食料庫に誰かいる!・5

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柚子が男の子を連れて食料庫から出ると、丁度、ファミリアがマルゲリタを連れて部屋から出て来たところだった。
柚子は食料庫で男の子を見つけた経緯を話すと、マルゲリタは男の子の汚れている姿に胸を痛めた。
そこで、ファミリアに湯の用意をさせると、男の子に身体を洗うように声を掛けた。
男の子が身体を洗っている間に、マルゲリタは男の子が着れそうな服ーーアズールスが子供の頃に着ていたらしい。を用意したのだった。
柚子はマルゲリタに言われて、男の子の為に夕食の残りのスープを温めた。
この世界には電子レンジやコンロが無いので、一人分のスープを温めるのも竃の火を起こすところから始めなければならなかった。
火種はまだ残っていたので、すぐに火はおこせたが、スープが用意出来た頃には柚子は疲れてしまったのだった。

柚子がスープを持って食堂に行くと、既に男の子は身体を洗い終わっていた。
マルゲリタに手伝ってもらいながら、服を着替えていたのだった。
柚子はテーブルにスープ皿を置くと、マルゲリタ達に声を掛けた。
「スープ、ここに置きますね」
「ありがとうございます。ユズ様。さあ、まだお腹が空いているでしょう? 召し上がれ」
マルゲリタが男の子を促すと、男の子は暫し迷った末に、スープ皿の前に座ったのだった。
男の子は「いただきます」と言ってから、スープを飲み始めたのだった。
「美味しい?」
マルゲリタは声を掛けるが、男の子はスープに夢中になっているようで、頷いただけだった。

「よほど、お腹が空いていたんですね」
「そうですね……」
すると、食料庫を確認しに行ったファミリアが、食堂に戻って来たのだった。
「おばあちゃん、確認してきたよ。やっぱり、食料庫の鍵が壊れてた」
どうやら、食料庫の外に繋がる扉の鍵が風化して壊れており、男の子はそこから入ってきたのではないかという事だった。
「あらあら。また直さないと駄目ねぇ……」
どうやら、食料庫の鍵は定期的に壊れているようで、その都度、近くの鍵職人や手が空いている時はアズールスが直していたらしい。
マルゲリタはファミリアに礼を言うと、男の子が寝られるように、一階の客間を用意するように伝えたのだった。
ファミリアはまた返事をすると、客間を用意しに行ったのだった。
その頃には、男の子もスープを食べ終わっており、空になった皿を前に満足していたのだった。

「お腹はいっぱいになった?」
柚子が男の子に声を掛けると、男の子は頷いた。
「うん。ごちそう様でした」
男の子は柚子とマルゲリタに笑顔を浮かべたのだった。
煤や埃といった汚れが落ちた男の子の顔は愛らしい顔立ちをしていた。
うなじまで長さのある少し癖のある金髪も、男の子の愛らしさに拍車をかけていたのだった。
「良かった。お名前を聞いてもいい? 私の名前はユズ。貴方は?」
男の子は少し考えると、口を開いたのだった。
「僕はフェーン。フェーンって名前だったと思う……」
「だったと思う……?」
自信なさげに話すフェーンに、柚子は首を傾げた。ちらりとマルゲリタに視線を移すと、マルゲリタも柚子と同じように首を傾げていたのだった。
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