【完結】異世界で子作りしないで帰る方法〈加筆修正版〉

夜霞

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火事!?・3

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それから、少しして。
柚子が部屋で寛いでいると、俄かに外が騒がしいような気がした。
「なんだろう……?」
柚子が窓辺に寄ってカーテンを開けると、遠くから灰色の煙が上がっていたのだった。
「やだ!? 火事!?」
柚子が窓を開けると、風に乗って焦げ臭い匂いした。
煙はどんどん大きくなっているようで、遠くから危険を知らせる鐘の音も聞こえてきたのだった。
「大変! アズールスさんに知らせなきゃ!」
柚子は部屋を飛び出すと、アズールスの部屋に向かったのだった。

「アズールスさん! 外で火事です! アズールスさん!」
柚子はアズールスの部屋の扉をノックしながら叫ぶが、中からは返事が返ってこなかった。
「アズールスさん、入りますよ!」
柚子がドアノブを回すと、鍵がかかっていなかった扉はあっさり開いた。
部屋に入ると、窓辺にはアズールスが立っていたのだった。
「アズールスさん!」
「ああ、ユズも火事に気づいたんだな」
アズールスは呆然と煙が上がっている方角を見つめていた。
「あの煙の量だと、大きい火事ですよね」
「ああ、そうだな」
柚子がアズールスに近づくと、アズールスは「マズイな」と呟いた。
「アズールスさん?」
「あっちは公文書館の方角だ。建物に被害が出なければいいが……」
「えっ!? 大変じゃないですか!?」
火の手がどれほどのものかはわからないが、本や資料という燃えやすい物の宝庫である公文書館に何かあったらと思うと、柚子も心配になった。
「ああ。死蔵本や資料ばかり集めているとはいえ、どれも軍や国にとっては大切な資料だ。中には、うちにしかない本もある」
その時、開けたままにしていた扉から、軽やかな足音が聞こえてきたのだった。

「旦那様、コースタス様がお見えです」
アズールスを呼びに来たのは、寝間着姿のファミリアだった。
「わかった。すぐに行く」
アズールスは急ぎ足で階下に向かうと、入れ違いにファミリアが部屋に入ってきた。
「ファミリアちゃん?」
「ユズ様……」
ファミリアは柚子の元にやってくると、腰に抱きついてきたのだった。
「どうしたの? ファミリアちゃん」
「ユズ様……。火事、大丈夫だよね?」
不安そうな顔をするファミリアを安心させるように、柚子は笑いかける。
「大丈夫だよ。私やマルゲリタさんやアズールスさんがついているからね」
柚子は抱きついているファミリアの肩をギュッと抱きしめ返した。
「私達も下に行こうか?」
「うん」
柚子はファミリアの手を握ると、そのままアズールスを追いかけて階下に向かったのだった。
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