45 / 109
働きたいです!・5
しおりを挟む
「すみません。いつもユズ様には手伝ってもらってばかりで……」
「いいえ。気にしないで下さい!」
柚子は食器を持つと、マルゲリタと共に厨房に向かった。
厨房はマルゲリタが管理をしているからか、いつも清潔感があって整っていた。
柚子は水瓶から水を汲んでくると、布に石鹸をつけて食器を洗い始めたのだった。
この世界に来たばかりの頃は、当たり前のようにあると思っていたお湯が無い事に絶望した。
季節に関係なく、手が凍るような冷たい水で食器を洗わなければならなかったからだった。
水道をひねればすぐにお湯が出る元の世界での生活は、なんて贅沢なんだろうと思ったのだった。
「いいんですよ。ユズ様が皿洗いなどと……」
マルゲリタは止めようとするが、柚子は「大丈夫です」と笑ったのだった。
「私もお世話になってばかりですし、これくらいのお礼はさせて下さい」
柚子がやっている行為は、マルゲリタやファミリア達、使用人から仕事を奪っている事になるのだろう。
けれども、最近の柚子は、何かしていないと落ち着かなかったのだった。
「お礼などと……。それを言わなければならないのは、私の方ですよ」
「それは……?」
マルゲリタは柚子が濯いだ食器を乾いた布で拭きながら続けたのだった。
「ファミリアの勉強を見てくれていますし、旦那様も」
アズールスの話になった時、柚子の胸はドキリと音を立てた。
「アズールスさんもですか?」
「ええ。そうです。旦那様もよく笑うようになりました。まるで子供の頃のーーまだご家族が生きていた頃のように」
アズールスは家族を馬車の滑落事故で亡くしてから、身内に振り回され、夢だった軍人を諦めて、ずっと苦労をしてきた。
マルゲリタとファミリアという、アズールスの「家族」を守る為に。
「ご家族が亡くなられ、軍を辞められた旦那様は、何かが抜けたように、切なそうにされていました」
この屋敷に住むようになって、公文書館の管理という仕事に就いても、柚子が来るまでのアズールスはどこか諦めたようなところがあったという。
時折、寂しそうな顔をする事もあったらしい。
「けれども、ユズ様が来てからは、旦那様はよく笑って、よく話すようになりました。とても生き生きとしています」
「そんな、私は大した事はしていません」
「それに」と、柚子は今朝のアズールスとの話を思い出したのだった。
「私は、アズールスさんに、何とも思われていないようなので……」
「いいえ。気にしないで下さい!」
柚子は食器を持つと、マルゲリタと共に厨房に向かった。
厨房はマルゲリタが管理をしているからか、いつも清潔感があって整っていた。
柚子は水瓶から水を汲んでくると、布に石鹸をつけて食器を洗い始めたのだった。
この世界に来たばかりの頃は、当たり前のようにあると思っていたお湯が無い事に絶望した。
季節に関係なく、手が凍るような冷たい水で食器を洗わなければならなかったからだった。
水道をひねればすぐにお湯が出る元の世界での生活は、なんて贅沢なんだろうと思ったのだった。
「いいんですよ。ユズ様が皿洗いなどと……」
マルゲリタは止めようとするが、柚子は「大丈夫です」と笑ったのだった。
「私もお世話になってばかりですし、これくらいのお礼はさせて下さい」
柚子がやっている行為は、マルゲリタやファミリア達、使用人から仕事を奪っている事になるのだろう。
けれども、最近の柚子は、何かしていないと落ち着かなかったのだった。
「お礼などと……。それを言わなければならないのは、私の方ですよ」
「それは……?」
マルゲリタは柚子が濯いだ食器を乾いた布で拭きながら続けたのだった。
「ファミリアの勉強を見てくれていますし、旦那様も」
アズールスの話になった時、柚子の胸はドキリと音を立てた。
「アズールスさんもですか?」
「ええ。そうです。旦那様もよく笑うようになりました。まるで子供の頃のーーまだご家族が生きていた頃のように」
アズールスは家族を馬車の滑落事故で亡くしてから、身内に振り回され、夢だった軍人を諦めて、ずっと苦労をしてきた。
マルゲリタとファミリアという、アズールスの「家族」を守る為に。
「ご家族が亡くなられ、軍を辞められた旦那様は、何かが抜けたように、切なそうにされていました」
この屋敷に住むようになって、公文書館の管理という仕事に就いても、柚子が来るまでのアズールスはどこか諦めたようなところがあったという。
時折、寂しそうな顔をする事もあったらしい。
「けれども、ユズ様が来てからは、旦那様はよく笑って、よく話すようになりました。とても生き生きとしています」
「そんな、私は大した事はしていません」
「それに」と、柚子は今朝のアズールスとの話を思い出したのだった。
「私は、アズールスさんに、何とも思われていないようなので……」
0
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定

私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした
さこの
恋愛
幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。
誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。
数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。
お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。
片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。
お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……
っと言った感じのストーリーです。
逃げて、追われて、捕まって
あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。
この世界で王妃として生きてきた記憶。
過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。
人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。
だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。
2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ
2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。
**********お知らせ***********
2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。
それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。
ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました
八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます
修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。
その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。
彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。
ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。
一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。
必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。
なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ──
そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。
これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。
※小説家になろうが先行公開です
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
踏み台令嬢はへこたれない
三屋城衣智子
恋愛
「婚約破棄してくれ!」
公爵令嬢のメルティアーラは婚約者からの何度目かの申し出を受けていたーー。
春、学院に入学しいつしかついたあだ名は踏み台令嬢。……幸せを運んでいますのに、その名付けはあんまりでは……。
そう思いつつも学院生活を満喫していたら、噂を聞きつけた第三王子がチラチラこっちを見ている。しかもうっかり婚約者になってしまったわ……?!?
これは無自覚に他人の踏み台になって引っ張り上げる主人公が、たまにしょげては踏ん張りながらやっぱり周りを幸せにしたりやっと自分も幸せになったりするかもしれない物語。
「わたくし、甘い砂を吐くのには慣れておりますの」
ーー踏み台令嬢は今日も誰かを幸せにする。
なろうでも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる