【完結】異世界で子作りしないで帰る方法〈加筆修正版〉

夜霞

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働きたいです!・5

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「すみません。いつもユズ様には手伝ってもらってばかりで……」
「いいえ。気にしないで下さい!」
柚子は食器を持つと、マルゲリタと共に厨房に向かった。
厨房はマルゲリタが管理をしているからか、いつも清潔感があって整っていた。
柚子は水瓶から水を汲んでくると、布に石鹸をつけて食器を洗い始めたのだった。

この世界に来たばかりの頃は、当たり前のようにあると思っていたお湯が無い事に絶望した。
季節に関係なく、手が凍るような冷たい水で食器を洗わなければならなかったからだった。
水道をひねればすぐにお湯が出る元の世界での生活は、なんて贅沢なんだろうと思ったのだった。
「いいんですよ。ユズ様が皿洗いなどと……」
マルゲリタは止めようとするが、柚子は「大丈夫です」と笑ったのだった。
「私もお世話になってばかりですし、これくらいのお礼はさせて下さい」
柚子がやっている行為は、マルゲリタやファミリア達、使用人から仕事を奪っている事になるのだろう。
けれども、最近の柚子は、何かしていないと落ち着かなかったのだった。

「お礼などと……。それを言わなければならないのは、私の方ですよ」
「それは……?」
マルゲリタは柚子が濯いだ食器を乾いた布で拭きながら続けたのだった。
「ファミリアの勉強を見てくれていますし、旦那様も」 
アズールスの話になった時、柚子の胸はドキリと音を立てた。
「アズールスさんもですか?」
「ええ。そうです。旦那様もよく笑うようになりました。まるで子供の頃のーーまだご家族が生きていた頃のように」
アズールスは家族を馬車の滑落事故で亡くしてから、身内に振り回され、夢だった軍人を諦めて、ずっと苦労をしてきた。
マルゲリタとファミリアという、アズールスの「家族」を守る為に。

「ご家族が亡くなられ、軍を辞められた旦那様は、何かが抜けたように、切なそうにされていました」
この屋敷に住むようになって、公文書館の管理という仕事に就いても、柚子が来るまでのアズールスはどこか諦めたようなところがあったという。
時折、寂しそうな顔をする事もあったらしい。
「けれども、ユズ様が来てからは、旦那様はよく笑って、よく話すようになりました。とても生き生きとしています」
「そんな、私は大した事はしていません」
「それに」と、柚子は今朝のアズールスとの話を思い出したのだった。
「私は、アズールスさんに、何とも思われていないようなので……」
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