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働きたいです!・1
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「アズールスさん!」
朝食の席で、柚子はアズールスに向き直る。
「どうした?」
新聞を読みながら食後の紅茶を飲んでいたアズールスは、柚子の声に顔を上げたのだった。
あの夜から、そろそろ一か月が経とうとしていた。
けれども、柚子の生活には何も変化が無かった。
朝は起きてマルゲリタやファミリアを手伝って、夕方には公文書館から帰ってくるアズールスを出迎えて夕食を共にする。
湯浴みを済ませると、アズールスが部屋に来るまで本を読み、アズールスの添い寝で眠る。
たまに、マルゲリタやファミリアの付き添いで市場に買い物に行くくらいで、それ以外は以前と何も変わっていなかった。
「私も、働きたいです!」
「働くって……。柚子はもう充分屋敷内で働いているだろう。それ以上、何を働くというんだ?」
柚子はテーブルに両手をついた。
「私は図書館で働きたいんです。司書として。それが駄目なら本に関する仕事がしたいです!」
アズールスの反応から、この世界ーー少なくともアズールスの周辺には、図書館は無さそうだった。
それならば、せめて本に関わる仕事がしたかった。
「このまま、ここに居候しているわけにもいきません。私も働いて、収入を入れたいんです!」
「柚子が居候など、私は思っていない。収入が無くても構わない。男である私が大切な想い人を養えなくてどうする」
「想い人って……!」
柚子の顔は赤くなっていくが、アズールスは顔色一つ変えず、当たり前の様にさらりと言ったのだった。
「け、けれども! それじゃあ、アズールスさんが大変なんじゃ……?」
アズールスは首を振った。
「それなりに蓄えはある。一人、ニ人が増えても養えるくらいは」
「それに」と、アズールスは続けた。
「想い人の貴女に苦労をかけたくないんだ。特に我が家の問題で……」
「我が家の問題って、そんな……」
柚子は内心でショックを受けていた。
アズールス達と暮らすようになって、それなりにアズールス達と馴染んできたと思っていたのに。
この屋敷の一員になれたと思っていたのに。
(やっぱり、私は……)
どこに行っても一人なんだ。
ここでも、元の世界でも。
「ユズ?」
俯いた柚子の顔をアズールスは覗き込んできた。
「私も、アズールスさんや、マルゲリタさんやファミリアちゃんの役に立ちたいんです。私もこの屋敷に住む一員として……」
「ああ。わかっている。ただ、ユズは屋敷の事もてつだっ……」
柚子はアズールスの話を最後まで聞いていられなかった。
柚子はバンと音を立てて立ち上がると、そのまま食堂から出て行った。
柚子の目からは自然と涙が溢れてきた。
途中ですれ違ったマルゲリタが訝しげな顔をしながら、柚子を見つめていたのだった。
柚子は部屋に戻ると、ソファーで膝を抱えて泣いたのだった。
朝食の席で、柚子はアズールスに向き直る。
「どうした?」
新聞を読みながら食後の紅茶を飲んでいたアズールスは、柚子の声に顔を上げたのだった。
あの夜から、そろそろ一か月が経とうとしていた。
けれども、柚子の生活には何も変化が無かった。
朝は起きてマルゲリタやファミリアを手伝って、夕方には公文書館から帰ってくるアズールスを出迎えて夕食を共にする。
湯浴みを済ませると、アズールスが部屋に来るまで本を読み、アズールスの添い寝で眠る。
たまに、マルゲリタやファミリアの付き添いで市場に買い物に行くくらいで、それ以外は以前と何も変わっていなかった。
「私も、働きたいです!」
「働くって……。柚子はもう充分屋敷内で働いているだろう。それ以上、何を働くというんだ?」
柚子はテーブルに両手をついた。
「私は図書館で働きたいんです。司書として。それが駄目なら本に関する仕事がしたいです!」
アズールスの反応から、この世界ーー少なくともアズールスの周辺には、図書館は無さそうだった。
それならば、せめて本に関わる仕事がしたかった。
「このまま、ここに居候しているわけにもいきません。私も働いて、収入を入れたいんです!」
「柚子が居候など、私は思っていない。収入が無くても構わない。男である私が大切な想い人を養えなくてどうする」
「想い人って……!」
柚子の顔は赤くなっていくが、アズールスは顔色一つ変えず、当たり前の様にさらりと言ったのだった。
「け、けれども! それじゃあ、アズールスさんが大変なんじゃ……?」
アズールスは首を振った。
「それなりに蓄えはある。一人、ニ人が増えても養えるくらいは」
「それに」と、アズールスは続けた。
「想い人の貴女に苦労をかけたくないんだ。特に我が家の問題で……」
「我が家の問題って、そんな……」
柚子は内心でショックを受けていた。
アズールス達と暮らすようになって、それなりにアズールス達と馴染んできたと思っていたのに。
この屋敷の一員になれたと思っていたのに。
(やっぱり、私は……)
どこに行っても一人なんだ。
ここでも、元の世界でも。
「ユズ?」
俯いた柚子の顔をアズールスは覗き込んできた。
「私も、アズールスさんや、マルゲリタさんやファミリアちゃんの役に立ちたいんです。私もこの屋敷に住む一員として……」
「ああ。わかっている。ただ、ユズは屋敷の事もてつだっ……」
柚子はアズールスの話を最後まで聞いていられなかった。
柚子はバンと音を立てて立ち上がると、そのまま食堂から出て行った。
柚子の目からは自然と涙が溢れてきた。
途中ですれ違ったマルゲリタが訝しげな顔をしながら、柚子を見つめていたのだった。
柚子は部屋に戻ると、ソファーで膝を抱えて泣いたのだった。
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