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誘拐・1
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マルゲリタとファミリアは柚子が元の世界に帰る事を話しても、ただ肩を落としただけだった。
だが、ファミリアが「ユズ様のお別れパーティーをしたい」と言われた。
アズールスにも確認をしたら、「やりたい」との事だったので、元の世界に帰る日の夜にやる事になったのだった。
昼間、マルゲリタとファミリアはお別れパーティーの材料を買いに出掛けた。
柚子も手伝うと申し出たが、マルゲリタから「片付けや荷物の整理をして下さい」とやんわりと断られたのだった。
そして、柚子は一人で屋敷で留守番をしていた。
柚子が屋敷で一人になるのは、これが始めてだった。
いつもはマルゲリタかファミリアのどちらかは必ず居たからだった。
「荷物と言っても、持ってきたものはこの世界に来た時に着ていた服だけだし」
部屋の中を片付け終わった柚子は、ベッドの上に置かれていた綺麗に畳まれたパジャマに触れる。
召喚された時と同じ状況となると、このパジャマに着替えて寝るべきだろう。
今夜は忘れずに着替えなければ。
そうやって考えていると、庭で何かが倒れる音が聞こえてきたのだった。
(木でも倒れたのかな?)
気になった柚子は庭に出る事にした。
庭に出ると、左隅の木の向こうに黒い塊が見えた。
柚子が近づいて行くと、それは黒い塊ではなく黒い服装をした男達だった。
「おい、何やってるんだよ」
「いてっ! 木登りなんて久々にしたから」
男達は、柚子が始めて街に出た時に絡まれた男二人だった。
「早くしろよ。この屋敷に黒髪の女が住んでいるって仲間から聞いたんだからな」
「黒髪の女なんて、高く売れるからな。楽しみだ」
黒髪の女とは、きっと柚子の事だろう。
という事は、彼らは人攫いに違いない。
逃げなければ、と柚子は思って後ろ向かってゆっくり歩き出す。
しかし、よく足元を見なかったからか、地面から出ていた木の根に足を引っ掛けて、転んでしまったのだった。
「誰だ!?」
柚子が転んだ音につられて、男達がやってきた。
尻餅をついていた柚子が起き上がろうとすると、男の一人が柚子の髪を引っ張った。
「ん? コイツ黒髪の女だな」
「よく見れば、この前、街で痛い目に遭わせた女じゃないか」
どうやら柚子の顔を覚えていたようだった。
柚子は髪を引っ張られており、涙目に男達を確認する事しか出来なかった。
「今日は男はいないようだな。今の内に連れて行くか」
「はいよ」
柚子は髪を引っ張られながらも、屋敷の外に連れて行かれそうになっていると気づき、顔が真っ青になった。
柚子は男達に抵抗して、両足をバタつかせる。
「痛い! 離して……!」
「うるさいな。眠らせろ」
「傷がつくと安くなりますからね、っと」
「誰か助けて! アズールスさん!」
叫び続けていた柚子は、男の一人に布を口に当てられた。
甘い香りのする布を吸い込んだ柚子は、やがて意識を失ったのだった。
だが、ファミリアが「ユズ様のお別れパーティーをしたい」と言われた。
アズールスにも確認をしたら、「やりたい」との事だったので、元の世界に帰る日の夜にやる事になったのだった。
昼間、マルゲリタとファミリアはお別れパーティーの材料を買いに出掛けた。
柚子も手伝うと申し出たが、マルゲリタから「片付けや荷物の整理をして下さい」とやんわりと断られたのだった。
そして、柚子は一人で屋敷で留守番をしていた。
柚子が屋敷で一人になるのは、これが始めてだった。
いつもはマルゲリタかファミリアのどちらかは必ず居たからだった。
「荷物と言っても、持ってきたものはこの世界に来た時に着ていた服だけだし」
部屋の中を片付け終わった柚子は、ベッドの上に置かれていた綺麗に畳まれたパジャマに触れる。
召喚された時と同じ状況となると、このパジャマに着替えて寝るべきだろう。
今夜は忘れずに着替えなければ。
そうやって考えていると、庭で何かが倒れる音が聞こえてきたのだった。
(木でも倒れたのかな?)
気になった柚子は庭に出る事にした。
庭に出ると、左隅の木の向こうに黒い塊が見えた。
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「おい、何やってるんだよ」
「いてっ! 木登りなんて久々にしたから」
男達は、柚子が始めて街に出た時に絡まれた男二人だった。
「早くしろよ。この屋敷に黒髪の女が住んでいるって仲間から聞いたんだからな」
「黒髪の女なんて、高く売れるからな。楽しみだ」
黒髪の女とは、きっと柚子の事だろう。
という事は、彼らは人攫いに違いない。
逃げなければ、と柚子は思って後ろ向かってゆっくり歩き出す。
しかし、よく足元を見なかったからか、地面から出ていた木の根に足を引っ掛けて、転んでしまったのだった。
「誰だ!?」
柚子が転んだ音につられて、男達がやってきた。
尻餅をついていた柚子が起き上がろうとすると、男の一人が柚子の髪を引っ張った。
「ん? コイツ黒髪の女だな」
「よく見れば、この前、街で痛い目に遭わせた女じゃないか」
どうやら柚子の顔を覚えていたようだった。
柚子は髪を引っ張られており、涙目に男達を確認する事しか出来なかった。
「今日は男はいないようだな。今の内に連れて行くか」
「はいよ」
柚子は髪を引っ張られながらも、屋敷の外に連れて行かれそうになっていると気づき、顔が真っ青になった。
柚子は男達に抵抗して、両足をバタつかせる。
「痛い! 離して……!」
「うるさいな。眠らせろ」
「傷がつくと安くなりますからね、っと」
「誰か助けて! アズールスさん!」
叫び続けていた柚子は、男の一人に布を口に当てられた。
甘い香りのする布を吸い込んだ柚子は、やがて意識を失ったのだった。
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