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彼の秘密と過去・6
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「そうして、俺はマルゲリタとファミリアを連れて、とある屋敷にやってきた。
そこは父が所有していた別邸の一つだった。
さすがに子爵家の人間が露頭に迷うのは体裁が悪いと、その屋敷だけは差押えされずに残されたんだ。
といっても、その屋敷に来たばかりの頃は、庭も、屋敷の中も、荒れ放題だったけどな」
アズールスは苦笑したのだった。
屋敷の手入れをするのにマルゲリタとファミリアだけでは大変だったし、軍人のアズールスは、仕事で各地を転々としなければならなかった。
「屋敷の手入れは、マルゲリタの一族や俺の知り合いも手伝ってくれて、すぐに何とかなかった。そうしたら、今度はマルゲリタとファミリアの二人だけでは物騒ではないかと言われたんだ」
マルゲリタは大丈夫とは言っていたが、アズールス自身も心配ではあった。
「丁度、その頃、叔父が博打で多額の借金を抱えてな。
その埋め合わせの為に、叔父は犯罪に手を染めた。ただ、叔父の使用人からの密告ですぐにバレて未遂に終わったんだ」
だが、とアズールスは続けた。
「その犯罪の代償として、叔父は爵位と土地を返還するように命じられていたが、それを拒んだ」
柚子の隣で、アズールスは身体を強張らせた。
「爵位と土地を返還したくなかった叔父は、俺の元にやってくるとこう言ったんだ。
『爵位と土地を返すから、なんとかして欲しい』と。
屋敷にも軍にもやってきて、執拗に頼み込んできた。今更、何を言っているんだと思った。だから、俺は」
アズールスはそこで区切ると、辛そうに話した。
「……軍を辞めた。そして、マルゲリタとファミリアを連れて夜逃げしたんだ」
手入れしたばかりの屋敷を捨てて、三人は遠く離れた地にやってきた。
そこは偶然にも、事故が遭った時、アズールス達家族がやって来ようとした避暑地と、よく似ていた。
「俺は軍を退役した時にもらった金で、この屋敷を買った。三人で住むにはこれくらいで充分だった」
その後、借金で首が回らなくなった叔父は首を吊った。
残された叔父の一族は、爵位を返還した。
借金は叔父の一族の財産ーー叔父以外がかなりの額を隠し持っていたらしい。を差押えする事でほぼ無くなったそうだ。
「この地での生活が落ち着いてきた頃、軍人時代の上官がやってきて、『この近くの公文書館で人が不足しているから働いて欲しい』と言ってきてな。
上官からは、給金は軍人だった頃よりかなり少ないと言われたが、ここで贅沢せずに質素に生活する分には、充分過ぎるぐらいの額だった。それで、すぐに働く事を承諾したんだ」
そこは父が所有していた別邸の一つだった。
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アズールスは苦笑したのだった。
屋敷の手入れをするのにマルゲリタとファミリアだけでは大変だったし、軍人のアズールスは、仕事で各地を転々としなければならなかった。
「屋敷の手入れは、マルゲリタの一族や俺の知り合いも手伝ってくれて、すぐに何とかなかった。そうしたら、今度はマルゲリタとファミリアの二人だけでは物騒ではないかと言われたんだ」
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その埋め合わせの為に、叔父は犯罪に手を染めた。ただ、叔父の使用人からの密告ですぐにバレて未遂に終わったんだ」
だが、とアズールスは続けた。
「その犯罪の代償として、叔父は爵位と土地を返還するように命じられていたが、それを拒んだ」
柚子の隣で、アズールスは身体を強張らせた。
「爵位と土地を返還したくなかった叔父は、俺の元にやってくるとこう言ったんだ。
『爵位と土地を返すから、なんとかして欲しい』と。
屋敷にも軍にもやってきて、執拗に頼み込んできた。今更、何を言っているんだと思った。だから、俺は」
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「……軍を辞めた。そして、マルゲリタとファミリアを連れて夜逃げしたんだ」
手入れしたばかりの屋敷を捨てて、三人は遠く離れた地にやってきた。
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その後、借金で首が回らなくなった叔父は首を吊った。
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「この地での生活が落ち着いてきた頃、軍人時代の上官がやってきて、『この近くの公文書館で人が不足しているから働いて欲しい』と言ってきてな。
上官からは、給金は軍人だった頃よりかなり少ないと言われたが、ここで贅沢せずに質素に生活する分には、充分過ぎるぐらいの額だった。それで、すぐに働く事を承諾したんだ」
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