【完結】異世界で子作りしないで帰る方法〈加筆修正版〉

夜霞

文字の大きさ
上 下
4 / 109

言葉が通じなくても・1

しおりを挟む
次の日から、柚子は昼間は絵本を読んだり、少女と老婆の仕事を手伝い、夜はアズールスと一緒に寝る生活を送るようになった。
一つ変わった事と言えば。
「こんなにもらっても……」
柚子は本棚に入りきらない絵本をベッドに広げて悩んでいた。
柚子がやって来た次の日から、仕事から帰ってきたアズールスは柚子の為に大量の洋服ーーどうやって選んだのか下着も、や靴やバッグ、を買ってくるようになった。
その次の日は、大量の花、その次は大量のアクセサリーを買ってきた。
さすがに管理が大変な花と、値段が高そうなアクセサリーは受け取れないと、柚子が身振りで示すと、その次の日からは、大量の絵本を買ってくるようになったのだった。
「そろそろ要らないって伝えないと……」
アズールスが絵本と本棚ーーアズールスが取り付けてくれた。に入りきらなくなってきた絵本が、柚子の部屋を占拠しそうであった。
(本を読む事は好き。けれども、いつ元の世界に帰るかわからないのに、こんなに沢山もらっても)
アズールスの気遣いはとても嬉しかった。
この世界にやってきたばかりの夜にやった事への罪滅ぼしかもしれないが、柚子が生活に困ったり、退屈しないように、細やかな用意や手配をしてくれていた。  
老婆や少女もアズールスから何か聞かされているのか、とても優しくしてくれる。
ただ、唯一、困っているのが。
(言葉が通じない事が、こんなに辛いなんて)
柚子は溜め息を吐く。
最初は身振り手振りで会話をしていたが、だんだん疲れてきた。
口で言った方が早いであろう事も、身振り手振りで話し、理解してもらうのに時間がかかってしまうのも辛くなってきた。
外国に移住したばかりの人も、こうやって苦労するのだろうか?
何より、やはりアズールス達が柚子についてどんな事を話しているのか気になって仕方がない。
これから先、柚子は自分がどうなるのか不安で仕方がなかった。
(もしも、このまま元の世界に帰れなかったら、売られたりするのかな……?)
嫌な想像をしてしまい、柚子は首を振る。
やはり、言葉が通じない事にストレスを感じているようだった。
「はあ……」
その時、部屋の扉が開いた。顔を見せたのは、少女だった。
「どうしたの?」
柚子は言葉が通じないとわかっていても、声を掛ける。
少女は柚子の元にやって来る。
柚子は少女がいつもと違い、よそ行き様の動きやすい格好をしている事に気づいた。
「出かけるの?」
柚子が外を指差して身振りで聞くと、少女は頷く。
そうして、柚子の手を引っ張って部屋の外に連れ出そうとした。
「ちょっと、待って……!」
柚子は革で出来たブーツーーアズールスに贈られた、を履くと、少女に手を引っ張られるがままついて行った。

やがて、少女は厨房にやってきた。
柚子が少女に連れられてやってくると、茶色の籠を持って勝手口の辺りで待っていた老婆が、驚いてゆっくりと柚子達の元にやって来た。
少女と老婆が話すと、老婆は諦めたように持っていた籠を少女に渡した。
今度は老婆は、柚子の洋服の襟元とワンピースーー今日は襟元に黒のリボン飾りがついた黒と茶のストライプ柄であった。の乱れを直してくれた。
そうして、柚子と少女を勝手口に連れて行ったのだった。
少女が持つ籠が空っぽなのと、老婆から硬貨らしきものを受け取っている様子から、どうやら少女が買い物に行くところだったが、柚子も一緒に行こうと声を掛けてくれたようだった。
少女は扉を開けながら、老婆に手を振る。
柚子も少女の真似をして、見送ってくれる老婆に手を振った。
そうして、柚子は始めて屋敷の外に出たのだった。
しおりを挟む
ツギクルバナー
感想 1

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました

八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます 修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。 その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。 彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。 ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。 一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。 必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。 なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ── そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。 これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。 ※小説家になろうが先行公開です

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

踏み台令嬢はへこたれない

三屋城衣智子
恋愛
「婚約破棄してくれ!」  公爵令嬢のメルティアーラは婚約者からの何度目かの申し出を受けていたーー。  春、学院に入学しいつしかついたあだ名は踏み台令嬢。……幸せを運んでいますのに、その名付けはあんまりでは……。  そう思いつつも学院生活を満喫していたら、噂を聞きつけた第三王子がチラチラこっちを見ている。しかもうっかり婚約者になってしまったわ……?!?  これは無自覚に他人の踏み台になって引っ張り上げる主人公が、たまにしょげては踏ん張りながらやっぱり周りを幸せにしたりやっと自分も幸せになったりするかもしれない物語。 「わたくし、甘い砂を吐くのには慣れておりますの」  ーー踏み台令嬢は今日も誰かを幸せにする。  なろうでも投稿しています。

処理中です...