乙女ゲームのモブキャラから離脱してみせます。

沖城沙音

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44話 要求

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僕らは国境まで行くことになった。
相手の軍隊は少し離れたところに止まり、がっちりとした体型の隊長と細身の参謀と思われる2人が、国境まで近づいてくる。

お父さんの言う通りだ。初めは話し合いからになりそう。

「こんにちは。」
お母さんはなぜか気さくに話しかけている。

「そっちの代表はあんたらでいいのか?見るからに頼りなさそうだが。」
隊長っぽい方が話しかけてくる。

「こんな大人数でお越しになって、観光ですか?」
いや、お母さん?
「ははは。こりゃ面白い。分かっているだろう?聖女をよこせ。」

「それは難しいご提案ですね。」
まるで近所の人と話しているかのように笑顔で対応しているけど、お母さんって交渉とか得意だったの?

「ほう。この軍隊を見てもそう言いきれるのか?」

「もちろんです。そちらの戦力は魔王と戦うために残しておいた方がいいのではないでしょうか。」
お、お母さん?そんなあおるようなこと言っちゃって大丈夫?

「はははは!笑わせてくれるな。よくこの人数差で言えたもんだな!頭おかしいんじゃないか?」
ほら、何か怒ってるよ?というか、バカにされてるのか?

「そうですかね?」
いや、その返しはさすがにわざとだよね?お父さんは何も言わないし、どうなってるの?

「そうだろうが。それにこの前線に、こんながきんちょまで連れてきて、頭どうかしてるんじゃないか?」

そう言いながら隊長の腕が、僕の方に伸びてくる。
叩かれると思って下を向いた瞬間、なぜかその腕が地面に落ちている。

「うぁぁぁぁ。何しやがる!!くそ女が!!」
決定的瞬間は見逃したけど、お母さんがやったらしい。
でも、剣も何も持ってないのにどうやったんだ?まさか手刀?そんな馬鹿な。

「汚い手で可愛い息子に触れようとしたので、つい手が出てしまいました。それに、国境も越えていましたしね。」
いやいやいや、それだけで?

「まっまさか!あなたは、あの伝説の!?いや、そんな馬鹿な。女性な訳……。」
細身の方は一気に血の気が引いた顔になり、足も震えている。

「女だと問題がありますか?」
待って。話が見えない。つまり、お母さん伝説の人なの?え?伝説の人って何?

「あ、もしかして、お母さんって騎士団から派遣された騎士だったの?」
「え?今更?お父さんから聞いてないの?」

「え?聞いてない。お、お父さん?」
「いやー、フランツが気づいたときの顔が見たくて。黙ってたんだ。驚いた?」
いや、そんなこと言ってる場合じゃない気がするんだけど……。

「そりゃ驚くよ。」
てことは、ルーカスさんが言ってたエリート騎士ってお母さんのことだったの?

確かにそういうことなら、王都ではなく、こんな田舎に住んでいるのは納得できる。

え?でもまさかお母さんが?全くそんな素振り見せなかったのに……。
いくら極秘だからって僕には教えてくれても良かったのに。

僕が衝撃の事実に驚いている間、細身の方は治癒魔法が使えるらしく、隊長の腕を止血していた。

「このままお引き取り頂けますか?」
お母さんはまだ笑顔だ。なんか正体を知った後だと、余計怖く感じる。

「やられっぱなしだと思うなよ。お前らの事なんてたたきのめしてやるよ。」
隊長の方は、懲りずに戦闘モードだ。女性に負けるというプライドが許さないのだろう。
冷静な判断が出来なくなっているに違いない。

「そうですか。じゃぁフランツ、例のあれ、お願いしてもいい?」
例のあれって、あっ、びっくりさせる魔法だね!

「分かった。」
お母さんがエリート騎士と知った手間、僕も中途半端なことは出来ない。
思いっきりやってやろう。

僕は空に向かって手を伸ばす。
するとさっきまで青空だったのが嘘かのように、だんだん雲が増え、雷雲が立ち籠めてくる。
辺りは一気に真っ暗になり、上空では雷が発生し、すごい音と稲妻が走っている。

相手の顔も空が暗くなるのと同時に暗くなっていた。

「一歩でもこの国に足を踏み入れようとすれば、上から雷が落ちてきますので、そのつもりでお願いします。」
僕もお母さんのように、丁寧に説明する。

「が、ガキのくせになんで。こ、こんなのありかよ……。」
流石にこれには勝てないと思ったのか、2人とも思考が停止したかのように呆然としている。

「くそっ!一旦引くぞ!」

そう言うと、そそくさと戻っていった。

「すごいわ。フランツ。まさかあそこまでの魔法を使えるとは思わなかったわ。」
「ありがとう。お母さんに良いとこ見せなきゃと思って。」

「でも、この雷雲は元に戻せるの?」
「うん。戻すよ。」
僕は魔法で青空に戻す。

追い払ったは良いものの、なんでそこまでして聖女様が必要だったんだろう。
国に攻めてくるって、よっぽどのことだよね?

そこまでしないといけない理由があったんじゃないかな。
僕らの国は守れたけど、隣の国の問題は解決したわけじゃないんだよな。

「あの!ちょっと待ってくれませんか?」
僕は大声で戻っていった2人に声をかけた。

「どうしたの?フランツ。」
お母さんも何事かと心配そうにしている。
「少し、話が聞きたいなって思って。」

でも戻っていった2人は僕の方に戻ってくる気はないみたいだ。

するとしばらくして、別の兵隊がやってきた。若くて、おどおどしている。恐らく新人さんだろう。
「お話は僕が伺います!」
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