乙女ゲームのモブキャラから離脱してみせます。

沖城沙音

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37話 魔法薬

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僕らは魔法付与の研究室を後にして、他の研究も見て回ることにした。
さっき魔法付与した剣は、特定の場所に保管されることになった。

「ここが魔道具を作っているところだよ。」
「すごい。いろんな機械があるんだね。」
「そうだね。魔道具は1つ作るのに何年もかかったりするものもあるんだ。」


「次が、魔法薬を作っているところだよ。」
「魔法薬なんてあるんだ。」
ゲームにはそんなアイテムはなかった気がする。基本治癒魔法だけだったよな。

「一応ね。でもまだ量産が出来なくて、市場にはなかなか出回らないんだ。」
「そうなんだ。作るのって難しいの?」
「そうだね。魔力の消費が激しいから、一度にたくさんは作れないって感じかな。もちろん技術も必要だけどね。」

「僕も作ってみたい!」
「初めてだと難しいかもしれないけど、やってみる?」
「うん。やってみたい。」

「じゃぁまずは、彼が作るのを見てみようか。」
「はい。」
魔法薬を作っていた団員さんの動きを観察する。

まずは、鍋に水と草を入れて、火をかけてかき混ぜると。
え?草?

「あれって何か特別な草なの?」
「あれは薬草って言って、魔法薬の素になる重要な素材だよ。」

「そうなんだ。あまり手に入らないの?」
「いや、薬草自体は育てやすいから手に入りやすいよ。薬草自体にも多少効果はあるから、すりつぶして薬代わりにしている人もいるんだ。」

「そうなんだ。」
「うん。でも、魔法薬に比べたら効果はイマイチだけどね。あの状態に魔力を加えることで、効果がふくれあがるんだ。」

団員さんが、沸騰した鍋に手をかざしてる。

「もしかして、今魔力を注いでいるの?」
「そうだよ。この魔力の注ぎ方で完成品の善し悪しが決まるんだ。」

「なるほど。だからすごく集中しているんだね。」
「そうだね。」
なんか大変そうだな。

あ、終わったみたい。
後は濾して、瓶に詰めて完成と。
手順的には簡単そう。

「よし。じゃぁフランツもやってみようか。」
「うん。」

「じゃぁ彼の隣に座ってもらって、はい。これが道具ね。」
「ありがとう。」

僕はさっき団員が見せてくれた通りに、鍋に水と薬草を入れ火にかけ、沸騰するのを待つ。
問題はここからだ。

「ここで魔力を注ぐんだよね?」
「うん。そうだよ。感覚としては治癒魔法をかけるときみたいにやるといいよ。」
「ありがとう。やってみる。」

治癒魔法ならやり慣れている。
魔力を多く消費するって言ってたから、治癒魔法をかけるときの倍くらいの魔力を注ぐ。

「うーん。こんなもんでいいのかな?」
「とりあえず濾して、瓶に詰めてみようか。」

「あれ?色が違う?」

鍋に入ってたからわかりにくかったけど、透明な瓶に移すとはっきり分かる。
団員さんが作った黄緑色の液体に比べて僕が作ったやつは深緑、いや黒に近い。

これは失敗って事かな……?

「これは……。」
お父さんや団員さんもどう反応したら良いか分からないみたいだ。
別に慰めてくれなくても良いよ。失敗は誰にでもあるって知ってるし。

「失敗だよね?僕は大丈夫。気にしてないから。次は成功できるように頑張るね。」
「いやっ……。成功はしていると思うんだ。」

「そうなの?でも黒くなっちゃってるよ?」
「実は魔法薬は色が濃いほど効果が高いって言われているんだ。」

「ほんと?」
「フランツ。体調は問題ない?魔力使いすぎたんじゃないか?」

「え?大丈夫だよ?」
「そっか。なら良いんだけど。これは、どうしたものかな……。」

「薬が必要な人に使ってあげればいいとかじゃなくて?」
「それはそうなんだけど、これも、ちょっとお父さんが預かっても良いかな?」

「うん。いいよ。お父さん怪我したときに使ってよ。」
「ありがとう。」

これくらいだったら大量に作れる気がする。

一般の人は治癒魔法とか使えないから、魔法薬を普及することが出来れば、怪我や病気のせいで苦しんでいる人達を救えるかもしれない。

「お父さん!僕、魔法薬を市場に出回したい!」
「え?」

「僕、いっぱい作るから!」
「それはすごくありがたいことだけど、すぐには難しいもしれないな。」

「え?なんで?」
「今の魔法薬は高価な部類に入っていて、貴族とかでないと、買えないんだ。それを市場に、それもみんなが買える価格となると、色々問題がありそうな気がするな。」

「魔法士団で量産が成功したっていって、魔法士団を通して一般の人たちも買いにこれるっていうふうにしてもだめ?」

「魔法士団はお店を持ってないからね。どこかのお店に卸すのが妥当かな。でも現状ここで作ったものの9割は騎士団が討伐するときとかに使っているから、卸先も見つけないとかな。あとは価格交渉もしないといけないし……。」

なんか大変そう……。でもそういうのはお父さんがうまいことやってくれるはず。

「お父さん、僕、やってみたいな。お父さんもお店とか見つけてくれる?」

お父さんは相当悩んでいるみたいだ。それほど販売までの道のりは大変だということだろう。

「うーん。わかった。じゃ試しに作ってみようか。さっきのは魔力を込めすぎだから、もっと少なくて良いよ。」
「わかった。」

それから、ひたすら魔法薬を作ることになった。

初めのうちは、魔力を込める量の調整が難しかったが、作っていくうちにだんだん分かるようになってきた。
お父さんは途中、会議に参加すると行ってしまった。

僕は、魔法薬の作り方を見せてくれた団員さんと一緒に魔法薬を作っている。
僕が魔力を注ぐまでの工程をやって、団員さんは瓶詰めをしている。

「あの、大きい鍋はありますか?」
「え?大きい鍋ですか?」

「はい。もっと一気に作れたらなって思いまして。」
「あるにはありますけど、大丈夫ですか?」

「はい。問題ありません。」

明らかに団員さんが引いているのが分かるが、気にせず作っていく。
途中、魔法薬の色を確認し、魔力を調整しながら、団員さんに用意してもらった寸胴鍋で一気に作る。

「お待たせ。……え?」
お父さんが会議から戻ってきた。

「あっお父さんお帰り。」
「えっと、そこに積んであるケースの中身は、全部魔法薬?」

僕らの横には、十数個の魔法薬が入ったケースが、数十ケース積まれている。

「そうだよ。でも、市場に卸すのにはまだ足りないよね?」
「いや、これは流石に作りすぎじゃないか?それに、その鍋……。」

「これ団員さんが持ってきてくれたんだ。一気に作った方が効率が良いかなって思って。」
「と、とりあえず、今作っているので終わりにしよう。ね。流石にこんなに一気に増えても卸先を見つけるのが大変になるから。」

「そっか。わかった。じゃぁ、足りなくなったら言ってね。僕いつでも作るから。」
「うん。ありがとう。」

これで少しでも困っている人を救えれば良いな。みんなの手に魔法薬が行き渡りますように。
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