乙女ゲームのモブキャラから離脱してみせます。

沖城沙音

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28話 目覚め

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まぶしい。もう朝か。今日もリーナとヘラーはまだ寝ているんだろうな。

ん?誰かが僕の手を握ってる気がする。ヘラーかな?にしては大きいな。
僕は重たい瞼を持ち上げ確認する。
あれ、カイさんの家じゃない……。

僕は手の方を見る。

「お父さん?」
やっと来てくれたんだ。でもなんか疲れてそう。

「フランツ。分かるか?よかったぁ。」
分かるかってどういうこと?流石にお父さんのことは分かるでしょと思いながら微笑み返す。

「おはよう。遅かったね。」
「ごめん。ごめんな。」
お父さんは今にも泣きそうな声で謝ってきた。

「何で謝るの?」
お父さんは一瞬驚いたような顔をして、不安げに聞いてきた。

「覚えてないのか?」

ん?何かされたっけ?
あ、そうだ。思い出してきた。僕、ミノタウロスと戦ったんだ。あれ、でも身体は痛くない。

「思い出してきた。僕生きてるの?」
「あぁ。生きてるよ。フランツが気を失った後、聖女様がミノタウロスを倒してくれたんだ。同時に治癒もしてくれたんだよ。」

「そっか。ミノタウロス倒せたんだ。」
「あぁ。フランツが相当削ってくれたおかげですぐ倒すことが出来たよ。」

僕は上半身を起こし、昨夜の出来事を思い出す。
「あっ!カイさんは?」
徐々に記憶が鮮明になってくる。

お父さんは気まずそうな顔をしている。え?生きてるよね?

「カイさんは、身体は問題ないと思うんだけど、まだ意識が戻らなくてね。」
「え……。戻るよね?」
「まだなんとも言えない。カイさん次第かな。」

そんな。僕のせいだ。あの時、治癒魔法をかけられていれば。
いや、それ以前に逃げてもらっていれば……。

自分がふがいない。
結局、町民の犠牲者も相当数出してしまったし……。

「フランツ?どこか痛むのか?」
お父さんは心配そうに聞いてくる。

「え?いや……。」
あ、僕泣いてたんだ。そこから涙が止まらなくなる。

ほっとした感情。ふがいない感情。悔しい感情。悲しい感情。怒りの感情。
いろんな感情が重なり合っている。

「大丈夫だよ。大丈夫。」
お父さんはそんな僕を抱きしめ、子供をあやすように優しく言葉を発する。

しばらく涙は収まらなかった。


やっと落ち着きを取り戻した頃、シリルさんが部屋に入ってきた。

「何でもっと早く来てくれなかったんですか?」

僕はシリルさんをみるやいなや、なぜかこの言葉を口にしてしまった。
そして、それを皮切りに僕の感情は止まらなくなった。

「何のために僕はこの事を話したと思っているんですか?こんな結果じゃ僕が話した意味ないですよね。」

「どうせ町人の命なんて、どうでもいいって思ってたんですよね?」

「だってモブですもんね。モブが生きようが死のうがゲームには関係ないですもんね。」

「そうだよ。どうせ作られた偽物の世界なんてどうなろうがっ……」

「フランツ!」
お父さんは普段出さないような低い声で僕の名前を呼ぶと、僕の両頬を両手で包み込み、顔をつきあわせる。

冷静を保とうとしているけど、そこから感情がにじみ出てるのが分かる。

こんなお父さんは見たことがない。
瞬時に僕のしてしまった行為を悔やむ。

「フランツ。お父さんの目を見なさい。」
僕はおそるおそるお父さんの目を見る。

「フランツ。お父さんが偽物に見えるか?」
「……いえ。」

「シリルは偽物か?」
「……いえ。」

「カイさんは?そのご家族は偽物か?」
「本物です。」

「お父さん達がその人達の命、どうでもいいと思っていると思うか?」
「それは……。」

「お父さんがフランツの命、どうでも良いと思ってると思うか?」
「……いえ。」

「フランツこそゲームだからって、どうでも良いって思ってるんじゃないのか?」
「そんなことないっ!」

「そうだよな。なら、目の前の事実から逃げずに受け止めなさい。」

あ、僕は誰かのせいにして、この現実から逃げようとしてたのか。

「……はい。でも、みんな僕より強いんだから、もっと早く助けに来てくれていれば犠牲者だってもっと少なかったのに……。」

「助けを求めることも重要だけど、いつも助けてくれるとは限らない。助けを求めるだけではなく、自分が強くなりなさい。自分の限界を知りなさい。そして、これはお父さんからのお願い。敵わないと思ったらすぐ逃げなさい。」
「……はい。」

「今回は残念ながら犠牲者は出てしまったけど、それ以上に助かった人がいる。フランツだって何人も助けたんでしょ?」
「うん。」

「もちろん、助けられなかった人のことは忘れちゃいけない。でも助けた事も同じように忘れちゃいけないよ。」
「はい。」

「今回のことは、誰のせいでもない。むしろ、ここまでの被害で収まったのはフランツのお陰なんだよ。フランツは、助けるのが当たり前って思っているかも知れないけど、それは本当にすごいことなんだよ。それだけは分かって欲しい。」
「うん。」

「ごめん。少し熱くなりすぎたね。」
「ううん。僕の方こそごめんなさい。」

「とにかく、お父さんが言いたいのは、フランツのことが大切だって事だ。」
「うん。ありがとう。」

「フレデリックさん。お話を割り込むようで申し訳ないのですが、町長が下の部屋でお待ちです。対応して頂いても宜しいでしょうか。」

「わかった。すぐ行くね。」
そう言い残すと、お父さんは僕とシリルさんを残し部屋を去って行った。

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