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21話 宿場町

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町に到着し、中に入った瞬間、確信した。
知ってる。絶対ここだと。

僕の記憶の通りで、同じような尖った三角屋根の家が建ち並んでいる。
美しい町並みだ。

家はおそらく木組みになっていて、壁は白く塗られていている。そこから木がむき出しになっていて、白い壁と茶色い木がコントラストになっていて、かわいい。

「お父さん。ここ、僕が思っていたとこと一緒だ。」
馬を引きながら、町を散策しているところでお父さんに告げる。

「じゃ、ここで間違いなさそうだね。とりあえず宿を探して馬を置いてから、この町の町長に魔物の出現とか聞いてみようか。」
「うん。」

宿はすぐ見つかった。宿場町というだけあって、あちらこちらにあるからだ。僕たちは宿に馬を預け、フロントの人に町長に会いに行きたいと話すと、快く場所を教えてくれた。

そして、ここが案内された場所。日本でいう市役所みたいなところらしい。
さっそく受付で話をつけ、この町の町長さんに会うことになった。

「わざわざ王都の方からご足労いただいて、大変だったでしょう。それでお話というのは?」
僕らを出迎えてくれたのは50代くらいの優しそうなおじさんだった。

「この町について、変わったことがないかお伺いしたく。最近、魔物が頻繁に出るようになったとか。」

「えぇ、王都の方にも報告させていただきましたが、最近はよく魔物が出るようになりまして。まだ、町に入ってくる前に、我々で対処できておりますが、そろそろ限界だという報告も聞いております。」

「魔物が増えている原因に関して、何か心当たりはありますか?」
「いえ、特には。何も変わったことはしていないんですけどね。」

「そうですか。」

まぁゲームの都合な訳だから、そこまで作り込まれていない限りは、心当たりはないだろうな。

「何かあったんでしょうか?」
町長は不安そうな表情をしている。
わざわざ王都から人がやって来るくらいだもんね。そりゃ何かあったのかと思うよね。

「実はこの町に、近々強めの魔物が出るのではないかと予想しておりまして。」
「強めのと言うのはどれくらいでしょう。」

「推測ではミノタウロスクラスかと。」
「ミノタウロス!?そんなのが出たら、この町はもちません。王都の騎士団の方から追加で派遣していただけるんでしょうか。」

そう。ゲームではミノタウロスがボスとして出てくる。
ミノタウロスは、二足歩行をする牛のような見た目で、とにかくパワーがある。

「現在検討中になります。もし、魔物が襲ってきた場合、住民の方々の避難などは滞りなく行えますか?」
「ええ。定期的に避難訓練はしておりますが……。そんな魔物が現れるって確かですか?」

「現状、まだ現れているわけではないので、本当のところは分かりません。ただ最悪の事態を想定して行動をとることは悪いことではないかと。」
「それはそうですね。」

何て言うか、大人の会話が繰り広げられている……。
僕、場違いな感じがするな……。


話し合いが終わり宿に戻る。

「後はいつ現れるかだけ、判ればいいんだけどね。」
お父さんは独り言のように呟いた。

「そうなんだよね。」

実際お父さんの言う通りで、ゲームでは明確にいつとは書かれていなかった。
それか、僕が覚えていないだけかも。

ミノタウロスが現れる前に、聖女様達にこの町に来てもらうっていっても、その間王都の方は手薄になるわけで、長居させられないっていうのは、その通りなんだよな。

それに、何で魔物が襲ってくるのが分かるんだって言われても、ちゃんとした理由は答えられないしね。
僕がゲームから得た情報だなんて。

「魔物の出現頻度からするに、いつ出現してもおかしくはなさそうなんだよね。」
「僕もなんとなくそんな気がする。」

今は王都から派遣している騎士と、自警団の人達で魔物をなんとかしているらしいけど、そろそろ限界って言ってたし、追加の騎士は絶対必要だと思う。僕も少しでも力になりたい。

「一旦王都に帰って現状を報告した方がいいかもね。」
「あ、僕この町に残っていい?」

「え?」
「聖女様が来る前に魔物が襲って来る可能性もあるし、もしそうなったら怪我人も出るだろうし、僕に出来ることがあるならやりたいって思うんだ。」

「でも一人で置いていくのはな……。」
「僕、自分の身は自分で守れるから大丈夫だよ。お父さんも、僕が強くなったの知ってるでしょ?」

「うーん。成長はしてると思うけど、お父さんからしたら心配なんだよ。」
「僕は、お父さんがすぐ戻ってくるって信じてるから。ねっ。」

「うーん。わかった。でもあまり宿から出ちゃダメだよ。あと、知らない人にも付いていかないこと。危険なことには首を突っ込まないこと。わかった?」
「分かってるよ。」

「あと、もしお父さんが帰って来る前に魔物が襲ってきたらちゃんと避難所に行くこと。約束できる?」
「避難所に行く道中に魔物が襲ってきたら倒していいよね?」

「命を最優先に考えたとき、戦った方がいいと判断したならいいよ。でもまずは逃げることを考えるんだよ?」
「分かった!」

翌朝、お父さんは王都に戻っていった。
王都までは馬を飛ばしても半日以上はかかる。
つまり、最短で戻って来れたとしても明日以後というわけだ。
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