乙女ゲームのモブキャラから離脱してみせます。

沖城沙音

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7話 魔法

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王宮内の案内が一通り終わり、お父さんの仕事が終わるまでルーカスさんと部屋で待つことになった。
通された部屋はただただ広くて豪華であまり落ち着かない。もっとこぢんまりした部屋はないのだろうか。

それにさっきメイドさんみたいな人が紅茶とお菓子を運んできてくれて、なぜかしっかりお客さん扱いされている……。

「あの、お父さんはあとどれくらい掛かりそうですか?」
「どうだろうな。俺も現状を把握出来ていないから。」
「そうですよね。」
「大丈夫。そんなに時間は掛からないさ。」

どうしよう。ルーカスさんと2人きりで何を話そう。
各々好きなことをして待っていれば良いんだろうけど、こんなこと滅多にないし何か共通の話題でもあれば……。
あ、魔法のこととか聞いても良いかな?

「あの、ルーカスさんって魔法使えますか?」
「魔法?まぁフレデリックさん程ではないけど、日常生活に困らないくらいは使えるぞ。」

「実は僕、昨日魔力を感じ取れるようにしてもらって、魔法の使い方とか教えてもらえないかなと思いまして。」
「もう魔力感じ取れるのか。俺は魔法より剣の方が得意なんだけど、簡単な魔法くらいならいいぞ。」
「ありがとうございます。」

「で、どんな魔法を使ってみたいんだ?」
「うーんと、ランプに火を付けたり、寝癖を直したり出来るようになりたいです。」
他にも色々あるけど、とりあえずこの辺からだよね。

「じゃ寝癖は今はないから、火を付けられるようにやってみるか!」
「お願いします。」

ルーカスさんは、暖炉の上にあった太いろうそくを手に持ち、テーブルの上に置いた。
「よし。とりあえず挑戦してみよう。いいぞ。」
ルーカスさんに言われるがまま、ろうそくに集中する。

前に読んだ本には、イメージが重要と書かれていたから、火のイメージで……。
火、火、火、付け、付け、付け!

……何も起こらない。

「あの、何かコツってありますか?」
「うーん。そうだな。あんまり意識しすぎないことかな。例えば歩くとき、右足を前に出して、左足を前に出してって意識しないだろ?」
「……なるほど。」
軽く火を灯そうくらいの感覚で。

「やったな!フランツ!」
え!?ついた……。
「出来ました……。自分でも驚いてます。」
「こんなにすぐ出来るなんて天才じゃないか!」

ルーカスさんも一緒に喜んでくれて、高い高いまでされてる。
いや、天井ぎりぎりまで飛ばしすぎ……。

「ありがとうございます。なんとなく魔法を使う感覚が掴めました。」
「いやーよかった。おめでとう!」

「何か他にもやってみていいですか?」
「あぁ。もちろん良いぞ!」

どうしよっかな。もしかして魔法で浮けたりするかな?
やってみよう。
ジャンプする感覚で、そのままキープ。
あっ。出来たんじゃない?僕浮いてるよね?

「おぉぉぉぉ!浮いてるぞフランツ!!やっぱ天才だな!」
「浮いてますよね?僕!やった!」

”トントントン”
「フランツ。お待たせ。」
「あっ!お父さん!見て僕浮いてるよ!――いてっ!」

浮いたままお父さんの方に向かおうとしたら全力で空回って顔面からこけた。
一回地上に降りてから向かうべきだった。痛い……。

「フランツ大丈夫か?」
お父さんが駆け寄ってくる。
「痛いけど大丈夫……。」
「ほら顔見せてごらん。」
お父さんは、床にうつぶせに倒れている僕の脇を抱きかかえ、上体を起こす。

「たんこぶ出来てる?」
これだけ痛いからおでこにたんこぶが出来ているに違いない。

「あっ。待って。」
おでこを触ろうとしたところ、お父さんの手に止められてしまった。
え?大丈夫だよね?僕のおでこ……。
あっなんか垂れてる気がする。

「もしかして血が出てる?」
「うーん。ちょっとね。でも大丈夫。お父さんが痛いの痛いの飛んでいけーってしてあげるから。」

お父さんの手がおでこに触れる。優しくて温かい手。
お父さんのこのおまじないはなぜか効果てきめんで、すぐに痛みがなくなる。
この温かさ……。魔力を感じ取れる今なら分かる。これおまじないじゃなくて魔法だったんだ。だから痛みが消えてたのか。

「痛くなくなった。ありがとう。お父さん。」
「どういたしまして。立てそう?ふらふらしない?」
「うん。大丈夫そう。」
「頭打ったから、今は大丈夫でも何か気になることがあったら言うんだよ。」
「わかった。ありがとう。あのさ、もしかしてお父さんの仕事って怪我治す人?」

「あぁ仕事のこと言ってなかったね。お父さんは魔法士団ってところに所属しているんだ。もちろん、怪我も治すよ。でも怪我だけじゃなくて魔法全般を使うお仕事をしているんだ。」
「それって戦ったりもするの?」
「たまにね。」

「大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。お父さん強いから。フランツも一回もお父さんに勝ったことないだろ?」
「え?勝負なんてしたことないでしょ?」
「えーそうだったけ?どっちが早く走れるかとか、腕相撲とかしなかったか?」
「……それはしたけど、それとこれは別だもん。」

「そうか。ありがとな。心配してくれて。」
「お母さんのことは悲しませちゃだめだからね。」
「うん。わかってるよ。お母さんのことも、フランツのことも悲しませないよ。」

「えー僕もう悲しいよ。週末しか帰ってこないんだもん。」
「そうだった。これは一本取られたな。」
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