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第二章
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俺たち──金木優と女性──は駅前のファミレスにいた。夕飯どきの駅前のファミレスはとても混んでいたが、幸運にも待たずに席に案内された。
席に着き、なかなか喋り出しずらい雰囲気になりかけたところで、無愛想な店員がお冷を持ってきた。おかげでこの冷たい雰囲気は払拭されたが、それを絶やさぬよう俺はすぐにメニューを渡した。俺は適当に安いステーキとスープを頼み、その人は少し悩んでドリアを頼んでいた。
「あの、さっきは本当にありがとうございました。あの定期が無かったら明日どうなってたか…」
と声をかけるとその人は顔を上げた。かすかに眉がピクリと動いた気がした。
「…ああ、大丈夫ですよ。すぐに見つかって良かったです」
そう言ってまじまじと俺の顔を観察しているような目つきで俺を見た。
「何か付いてます?」と聞くと少し驚き
「いえ、なにも。少し…知り合いに似ている気がするして」
「そうだったんですか。居ますよね、雰囲気とかどこか知り合いと似てる人」
と答えるとええ、とだけ返した。
その後、なんとか話を繋ぎ色々とお互いを知ることが出来た。彼女の名前は今井凛。22歳で埼玉県生まれ。母親は居らず父と2人で暮らしており、そのせいで大学は行かずにバイトをして家にお金を入れているとのこと。高校は俺でも知っている私立高校で、学費が免除になるクラス──たしか特進──を卒業したと言っていた。
自分のこともいくつか話した。家族の話になった時彼女は食いついてきた。
「俺も母が昔再婚してて、実は前の姓が凛さんと同じ今井だったんですよ。すごい偶然じゃないですか?」
「そうなんですね、ええびっくりです。当時はお辛かったでしょう」
「いやあ、3歳とか4歳のときだったのであんまり覚えてないんですよね」
「そうですか…そのお父様とは今でも連絡を?」
「え?いや全く取ってないですね、養育費を払わないもんだから母が嫌厭してて」
「なるほど…さぞ御大変でしたね」
まあ何とかおかげまで、と返したが、高くはないが透き通る綺麗な声にちょっぴり強い語気が混ざりはじめ少し驚いていた。何がそんなに気になったのだろうか。
食事と精算を終え、ファミレスを出た。先ほどよりも夜が更けていた。
「ありがとうございます。奢ってもらって。」と彼女は頭を下げた。
俺はいえいえと答え、思い出したように
「そうだ、連絡先交換しませんか」と聞いた。
「良いですよ」と彼女が答えスマホを取り出した。
「実は、私も同じことを聞こうと思っていたんです」
「マジですか!嬉しいです」つい大きな声を出してしまい顔が赤くなった。
連絡先の交換を終え、駅前で今井凛と別れ帰路に着いた。帰宅後、課題を提出し軽くテレビを観ながら今日のことを思い出す。今まで彼女というと、友達の延長のような恋しかしてこなかった。だがこの落雷が落ちたような感覚が、今までのそれとは違うことを示していた。一目惚れというものなのだろう。今はもっと今井凛という人を知りたいという気持ちに溢れていた。
その晩、夢を見た。彼女の黒い瞳に落下していく夢だった。一向に底が見えない深い深い瞳の中に落ちていく─落ちて──落ちて───
─ハッと目を覚ますと寝汗をかいており、ひどい疲労感が襲ってきた。時計を見ると午前3時を指していた。とりあえず水を一杯飲み、シャワーを浴びて汗を落とした。再び布団に潜ろうとしたとき、胸の奥に妙なざわめきを感じた。しかし眠気に勝つ事はできずそのまま眠りに落ちていった。
席に着き、なかなか喋り出しずらい雰囲気になりかけたところで、無愛想な店員がお冷を持ってきた。おかげでこの冷たい雰囲気は払拭されたが、それを絶やさぬよう俺はすぐにメニューを渡した。俺は適当に安いステーキとスープを頼み、その人は少し悩んでドリアを頼んでいた。
「あの、さっきは本当にありがとうございました。あの定期が無かったら明日どうなってたか…」
と声をかけるとその人は顔を上げた。かすかに眉がピクリと動いた気がした。
「…ああ、大丈夫ですよ。すぐに見つかって良かったです」
そう言ってまじまじと俺の顔を観察しているような目つきで俺を見た。
「何か付いてます?」と聞くと少し驚き
「いえ、なにも。少し…知り合いに似ている気がするして」
「そうだったんですか。居ますよね、雰囲気とかどこか知り合いと似てる人」
と答えるとええ、とだけ返した。
その後、なんとか話を繋ぎ色々とお互いを知ることが出来た。彼女の名前は今井凛。22歳で埼玉県生まれ。母親は居らず父と2人で暮らしており、そのせいで大学は行かずにバイトをして家にお金を入れているとのこと。高校は俺でも知っている私立高校で、学費が免除になるクラス──たしか特進──を卒業したと言っていた。
自分のこともいくつか話した。家族の話になった時彼女は食いついてきた。
「俺も母が昔再婚してて、実は前の姓が凛さんと同じ今井だったんですよ。すごい偶然じゃないですか?」
「そうなんですね、ええびっくりです。当時はお辛かったでしょう」
「いやあ、3歳とか4歳のときだったのであんまり覚えてないんですよね」
「そうですか…そのお父様とは今でも連絡を?」
「え?いや全く取ってないですね、養育費を払わないもんだから母が嫌厭してて」
「なるほど…さぞ御大変でしたね」
まあ何とかおかげまで、と返したが、高くはないが透き通る綺麗な声にちょっぴり強い語気が混ざりはじめ少し驚いていた。何がそんなに気になったのだろうか。
食事と精算を終え、ファミレスを出た。先ほどよりも夜が更けていた。
「ありがとうございます。奢ってもらって。」と彼女は頭を下げた。
俺はいえいえと答え、思い出したように
「そうだ、連絡先交換しませんか」と聞いた。
「良いですよ」と彼女が答えスマホを取り出した。
「実は、私も同じことを聞こうと思っていたんです」
「マジですか!嬉しいです」つい大きな声を出してしまい顔が赤くなった。
連絡先の交換を終え、駅前で今井凛と別れ帰路に着いた。帰宅後、課題を提出し軽くテレビを観ながら今日のことを思い出す。今まで彼女というと、友達の延長のような恋しかしてこなかった。だがこの落雷が落ちたような感覚が、今までのそれとは違うことを示していた。一目惚れというものなのだろう。今はもっと今井凛という人を知りたいという気持ちに溢れていた。
その晩、夢を見た。彼女の黒い瞳に落下していく夢だった。一向に底が見えない深い深い瞳の中に落ちていく─落ちて──落ちて───
─ハッと目を覚ますと寝汗をかいており、ひどい疲労感が襲ってきた。時計を見ると午前3時を指していた。とりあえず水を一杯飲み、シャワーを浴びて汗を落とした。再び布団に潜ろうとしたとき、胸の奥に妙なざわめきを感じた。しかし眠気に勝つ事はできずそのまま眠りに落ちていった。
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