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脳食願望⑧
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テレビでは、丁度午後のニュースが始まっていた。
スーツを紺のツーピースで揃えたニュースキャスターが、最近のニュースを抑揚のない声で読み上げる。
コーヒーに砂糖を落としながら、陽子は無意識に耳を傾ける。
あの出来事から、ついついニュースには敏感になっていた。いつ自分に捜査の目が向かうのか、気にしない方が不可能だろう。
ニュースが終わると、何時だかのドラマの再放送に切り替わる。
今のところ来栖彩の失踪事件は取り沙汰されてはいない。少なくとも陽子の知る限りでは……。
陽子はほっと息をついた。
一口コーヒーを啜ると、焼き上がったトーストがトースターから跳ねた。
熱々のトーストに、薄キャラメル色のペーストを塗りたくる。茹でた大脳をマッシュして裏ごししたものだ。それにバターを加えると、焼いたパンにすこぶる合う。陽子の発見した新しい脳料理のメニューだ。
トーストを齧りながら、陽子は休日の午後を穏やかに過ごしていた。
死体の処理に、職場に来た二人の刑事。最近は陽子の心を揺さぶる出来事が起きすぎた。少しゆっくりした方が良いのかもしれない。
ボーッとテレビを眺めていると、不意に陽子のスマホが鳴った。
着信はエスタリコのマスター、権現坂からだった。
「おう、陽子ちゃんか? 今電話大丈夫か?」
いつもの気さくな口調が電話口から聞こえる。
「大丈夫ですけど? どうかしました?」
マスターとは仲良くなってからすぐ連絡先を交換していたが、実際に掛かってくるのは今回が初めてだ。
一体どんな用件だろうか……?
陽子は考えを巡らすが、思い付くはずもない。
「いや、大したことじゃないだけどさ。この前軽トラ貸しただろ? 荷台にスコップ積んでなかったか?」
「スコップ……?」
陽子はトーストを咀嚼しながら、記憶を遡る。
「そうだ、グレーで小さく折り畳みできるヤツ」
「それなら……」
それなら、来栖彩の遺体を埋めるのに使って……、あれ?
嫌な汗が陽子の頬をつたう……
私、あのスコップ持ち帰ったかしら? いや、持ち帰ってない……じゃあまさか……。
「ごめんなさい、やっぱり知らないわ」
「いや、いいんだ。荷卸した時にどっかにやったのかもな……」
「高価なものなの?」
「いや、どうせ買い替えるつもりだったからいいんだ。ありがとな、また店に寄ってくれよ?」
「ええ、それじゃあ」
陽子は通話を切るなり立ち上がった。
置きっぱなし!? うそ! そんなことある?
陽子は必死に記憶を掘り起こした。
来栖を山に埋めてから下山するとき、 そのままそこに放置したんだ!
私ってなんて間抜けなの! スコップには私の指紋やら汗やらがベッタリついてるわ!
「すぐに回収しなきゃ!」
陽子は財布と部屋のキーだけひっ掴むと、飛び出すように外へでた。
目的地に着く頃には依然と同様汗だくになっていた。
途中までタクシーを使ったが、死体遺棄の現場に運転手と共に乗り付けるのは無用心だ。だから適当な場所で降ろしてもらい、そこからは徒歩でやって来たのだ。
陽子は死体を埋めた辺りを見回す、しかし例のスコップは見当たらない。
「うそでしょ……確かにここのはず」
うろうろと辺りを探してみるが、あるのは落ち葉と樹木だけだ。
「誰かが持っていったの? でも、普段こんなとこに人なんて……」
結局、スコップは見付からなかった。
疲労困憊で帰って来た陽子は、そのままソファに倒れこむ。
「あぁ、最悪だ……一体誰が……」
心労のためか、そのまま陽子は眠りに落ちた。
スーツを紺のツーピースで揃えたニュースキャスターが、最近のニュースを抑揚のない声で読み上げる。
コーヒーに砂糖を落としながら、陽子は無意識に耳を傾ける。
あの出来事から、ついついニュースには敏感になっていた。いつ自分に捜査の目が向かうのか、気にしない方が不可能だろう。
ニュースが終わると、何時だかのドラマの再放送に切り替わる。
今のところ来栖彩の失踪事件は取り沙汰されてはいない。少なくとも陽子の知る限りでは……。
陽子はほっと息をついた。
一口コーヒーを啜ると、焼き上がったトーストがトースターから跳ねた。
熱々のトーストに、薄キャラメル色のペーストを塗りたくる。茹でた大脳をマッシュして裏ごししたものだ。それにバターを加えると、焼いたパンにすこぶる合う。陽子の発見した新しい脳料理のメニューだ。
トーストを齧りながら、陽子は休日の午後を穏やかに過ごしていた。
死体の処理に、職場に来た二人の刑事。最近は陽子の心を揺さぶる出来事が起きすぎた。少しゆっくりした方が良いのかもしれない。
ボーッとテレビを眺めていると、不意に陽子のスマホが鳴った。
着信はエスタリコのマスター、権現坂からだった。
「おう、陽子ちゃんか? 今電話大丈夫か?」
いつもの気さくな口調が電話口から聞こえる。
「大丈夫ですけど? どうかしました?」
マスターとは仲良くなってからすぐ連絡先を交換していたが、実際に掛かってくるのは今回が初めてだ。
一体どんな用件だろうか……?
陽子は考えを巡らすが、思い付くはずもない。
「いや、大したことじゃないだけどさ。この前軽トラ貸しただろ? 荷台にスコップ積んでなかったか?」
「スコップ……?」
陽子はトーストを咀嚼しながら、記憶を遡る。
「そうだ、グレーで小さく折り畳みできるヤツ」
「それなら……」
それなら、来栖彩の遺体を埋めるのに使って……、あれ?
嫌な汗が陽子の頬をつたう……
私、あのスコップ持ち帰ったかしら? いや、持ち帰ってない……じゃあまさか……。
「ごめんなさい、やっぱり知らないわ」
「いや、いいんだ。荷卸した時にどっかにやったのかもな……」
「高価なものなの?」
「いや、どうせ買い替えるつもりだったからいいんだ。ありがとな、また店に寄ってくれよ?」
「ええ、それじゃあ」
陽子は通話を切るなり立ち上がった。
置きっぱなし!? うそ! そんなことある?
陽子は必死に記憶を掘り起こした。
来栖を山に埋めてから下山するとき、 そのままそこに放置したんだ!
私ってなんて間抜けなの! スコップには私の指紋やら汗やらがベッタリついてるわ!
「すぐに回収しなきゃ!」
陽子は財布と部屋のキーだけひっ掴むと、飛び出すように外へでた。
目的地に着く頃には依然と同様汗だくになっていた。
途中までタクシーを使ったが、死体遺棄の現場に運転手と共に乗り付けるのは無用心だ。だから適当な場所で降ろしてもらい、そこからは徒歩でやって来たのだ。
陽子は死体を埋めた辺りを見回す、しかし例のスコップは見当たらない。
「うそでしょ……確かにここのはず」
うろうろと辺りを探してみるが、あるのは落ち葉と樹木だけだ。
「誰かが持っていったの? でも、普段こんなとこに人なんて……」
結局、スコップは見付からなかった。
疲労困憊で帰って来た陽子は、そのままソファに倒れこむ。
「あぁ、最悪だ……一体誰が……」
心労のためか、そのまま陽子は眠りに落ちた。
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