『闇を闇から』

segakiyui

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第3章

9.欲情(3)

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「……なんか……変だ」
 シャワーを浴びながら美並は呟く。
 喉がどんどん渇く。身体がほてって苦しいから、ぬるま湯に変え、やがて水に変えて気付く。
「……京介も…?」
 こんな感じなんだろうか。
 内側からの熱が暴走しそうで怖いのに、一方では暴走させてみたいと思っている。
 啼かせたい。
 喘がせたい。
 求めさせて、望ませて、懇願させて駆け上がらせたい。
 何もかも手放させて空っぽにしてやりたい。
 苦しみも哀しみも傷みも恐怖も不安も、安らかな眠りを妨げるようなものなら全て。
 そうして深く休ませてやりたい、今日はひどい日だったのだ。
「愛情、?」
 そうかもしれない。
 こういう時には受け取る一方だと思っていたのだけど、そういうものでもないのかもしれない。
 与えることができるのかも。

 部屋に戻ると真崎がもうベッドに入っていた。くたりと寝そべりながらこちらを見つめているのは、よく慣れた獣が主人を待つような従順さ、微かに皮膚を緊張させているのが不安そうで、羽織ろうかと迷っていたシャツを床に落としてまっすぐ近寄る。
「……」
 覗き込むと無防備な笑顔で両手を差し出してきた。応じて身体を寄せると、
「キス……ちょうだい」
 舌足らずにねだられて、すぐにさっきより冷えた唇が重ねられる。
「もっと…」 
 喘ぎながらしがみついてくる真崎のものがバスタオルから跳ね起きる。柔らかな熱い感触で触れていったそれをきつく強く挟み込んでしまえば、あっという間に望んだものが手に入るだろうと思って、思わず美並は固まった。
 まずい。やばい。どんどん制御が効かなくなる。
 敏感なところが晒されているっていうのは、やっぱり誘惑する手段の一つなんだろうか。
 それでもくすぐるように擦りつけられてくるものを無視できなくて、そっと身体の間で優しく揺すった。
 合わせた口の中で、ふぅん、と柔らかな鼻声が漏れた気がして瞬きすると、真崎は目を閉じて感覚に酔っている。弛んだ眉、上気した頬、汗に濡れた髪の毛がこめかみのあたりに張りついている。
「…ん…ん」
 キスはとんでもなく甘かった。
 表現ではなく、誇張でもなく、これほど人が本当に求めるときには甘い味が広がるのか、そう思うぐらいの密度で美並の口を浸していく。もっともっと、そう訴えるように入り込む舌が蠢いて、美並の弱いところを探ってくる。
「ん…」
 自分も同じぐらい切ない息を漏らしてしまい、全身みるみる熱くなった。夢中で真崎の胸を辿り、指を捕らえるように尖っていたのを、教えられた通りにきつめに摘んで摺り合わせる。
「あ…あっ」
 真崎が思わずと言った感じで口を離して仰け反った。
 それがまるで別のところにもキスが欲しいと言っているようで、もっと全部触ってほしいともねだっているようで、いつかの鎖骨のあたりに舌を這わせながら、脇腹を掌で撫で上げる。
「…っぁ」
 汗で濡れた身体が跳ねた。
「も…と」
 美並を引き寄せながら真崎が訴える。
「もっと……触って…」
 もっと?
 一瞬美並は途方にくれ、ついでとんでもない方へ視線を向け、さすがにいきなりはまずいんじゃないかとひやりとする。
 触れたいところは確かにある、けど。
 今は真崎を追い上げたい。
 真崎が望むステップで、真崎が溺れる方法で。
「どこを?」
 尋ねると真崎がくしゃくしゃと顔を歪めた。
「そこ…」
「そこ?……ここ?」
「ん、う」
 じれったいのだろう、真崎が小さな子どものようにいやいやと首を振る。大人の肢体で、崩れそうな熱を放って身悶えしておきながら、仕草のアンバランスさがまた強烈に煽る。まるでこちらが全能の神になったよう、真崎の快楽の全てを握っているような感覚だ。
「ちが…」
「じゃあどこ? 京介が教えてくれなくちゃ」
 泣きそうな顔で喘ぐから、その望みの全てを満たしてやりたくなる。
「…こ…こ」
 指を震わせて自分の肌を撫でていく。それが耐え切れなくて自分で自分を慰めるように辛そうに見えて、そっと指先にキスを落とす。
 一緒に居るから。
 そこを満たしてあげるから。
 胸の先へようやく辿りつこうとして、それでもためらうのに。
「ここ?」
 吸いついて、口に含み、舌で触れた。
「あ、ああっ」
 声が高く跳ね上がる。それを気持ちいい、と聞いて、開いた脚の間にきちんと膝をついて真崎の身体を抱き寄せ、含んだ乳首をゆっくり舐め回した。なお切ない声を放って、真崎が脚を絡めてきて、ああそうか、と二人の身体に挟まれた部分に体重をのせ、揺らしながら愛撫を続ける。やがて、その美並の動きに応じるように真崎が腰を振り出して、美並は息を呑んだ。
 こんなふうに、抱かれてたんだ。
 ふいに起こった理解と、自分の身体の奥で呼応するように熱くなって濡れる感覚に茫然とする。
 こんなふうに、大輔に抱かれていた。
 こんなふうに、自分で煽ってもいた。
 こんなふうに。
 だんだん声が高くなる。細めた目の端から涙が溢れそうになっている。赤く染まった顔は蕩けて朦朧とした表情、紛れもなく快感に溺れていく姿は思っていたよりもずっと刺激的で。
 けれど時々不安そうに必死に目を見開こうとするのはきっと。
「京介?」
「みなみ…」
 か弱い声。
「気持ちいいの?」
「うん……」
 涙が溢れ落ちた。
「キス、して」
 唇を合わせる。熱い舌が滑り込む。探って美並の中を犯すように奥へ忍び入る。
 このキスもまた大輔に教えられたのかもしれない。貫かれながらこうやって唇を合わせて快感を凝縮させることを学んだのかもしれない。
「あ、あ、あ」
 切れ切れの声を上げながら真崎が悶える。キスをし、胸を弄り摘み、脇腹のラインを擦りあげるたびに敏感なところが跳ね上がり、濡れて震えながら膨れていく。
 その真崎の姿に、美並は煽られた。
 美並の指で、舌で、身体で我を失っていく真崎が、それしか考えられなくなっていく姿が、ひどく愛おしい。このまま望むままに駆け上がらせたい、と思う。
「みなみっ……みなみ…っ」
「な、に」
「さ、わって」
「どこを」
「こ、こ…っ」
 真崎が何度か苦しそうに呻きながら、ついに美並の手を取った。無我夢中なのだろう、自分の脚の間へ、夕べの愛撫をして欲しいのかとそう思っていたら、より深いところに指が届くように引っ張られてはっとする。
 ああ、そう、か。
「く、」
 指が触れた瞬間、真崎が顔を真っ赤にした。零れ落ちる涙に喘ぎながら、軽く首を横に振りながら、それでもなお美並の指を引き寄せる姿は、まるで目に見えない呪文に操られているようで。
 それでもそれは、たぶん真崎も望んでいることで。
 だからこそ、一層逃れられなくて。
『犯して』 
 美並に訴え切れなかったのは、身体の構造もあるが、何より自分がそれを望むことを知られたくなかったから。
「ここね」
 それを今望むのは、きっと一番深いところに美並が入ろうとしているからだろう。
 そして美並もまた。
 自分の中の黒い衝動が静かに笑う。
「ひ……っ」
 真崎が望むより遥かに深く、指を伸ばした。
「い…っぁ…あ、あ、あ…ーーっ」
 腹で大きく震えたものが弾けた。悲鳴を絞り出して真崎が締め付けながらがたがた震え、そのまま喉を反らせていく。
「あ、ああ、ああ、あああー………っっ」
 今まで聞いたどんな声より甘くて熱い叫び声に、美並の中で何かが切れた。
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