『闇を闇から』

segakiyui

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第3章

4.マック(4)

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「あ、うん」
 アイロンやタオルを用意してくれる真崎の背中をそっと見た。
 頑張れ。
 まだ仕事は続いてるんだし、今ここでしがみついたりしたら、それこそ終わりだ、仕事さえも続けられなくなる。
「服が乾いたら、すぐに出ていきますから、安心して下さい」
 必死の思いで言い切ったのに、訝しそうに振り返られた。
 ばか。
 そんな無防備な顔して。
 側に居るのが当然みたいな顔して。
「『ニット・キャンパス』の話は明日の朝、聞かせてもらうことにします」
 側に居て、真崎が誰かと結ばれるのを黙って見ていられるだろうか。
 それとも、そこまで支えることを望むんだろうか。
 それとも、それが美並の仕事、なんだろうか。そこまでが、始めてしまったものの勤め、なのだろうか。
 泣きたくなる。
 もう、試さないでほしい。
 それでも真崎は警戒心を満たした顔で凍りついていて。
 急に美並は意地悪な気持ちになった。
 どうせ最後なら、いっそ嫌われた方が楽かもしれない。
「締め切り、過ぎてたんでしょう?」
「う、ん、でも」
 ためらう真崎。翳った瞳の反応が嬉しい。
「参加が通った、って言いましたよね?」
 何だろう、この気持ちは。
「うん、それは」
 不安そうな表情、頼りなくて、可愛くて、何だろう、もっとこちらに引きずりたい。
「大輔さんと取り引きしたんですか?」
 びくっ、と真崎が顔色をなくして、その一瞬、美並は二重に愕然とした。
 真崎は大輔と取り引きして『ニット・キャンパス』の参加を手に入れたのだ。
 しかもその取り引きは大輔に抱かれること、の可能性が高い、ひょっとして、今夜真崎がシャワーを浴びていたのは、あれほど不安定になっていたのは、もう大輔に抱かれた後だからではないのか。
 動かなくなった真崎を凝視する。
 いつもなら見える靄も霞みも何も見えない。
「だい…すけ…?」
 掠れた真崎の声が胸を刺した。
 こんな思いをして大輔から守ったつもりでいて、その実、この危うげで華やかな男は大輔の与える快楽を自分で求めて落ち込んだのか、あの孝のように。
「向田市社会連絡協議会、青年部部長、だそうですね」
 一体なぜ?
「知りませんでした」
「伊吹…さ…」
 うろたえた真崎に美並は見た、外側ではない、自分の内側に荒れ狂ったように動く真紅の炎が乱反射している。
「締め切りを繰り上げた提案者だそうですね。『Brechen』も申し込んだようですが、通らなかったと」
 何を言ってるんだろう、そう思うのに止まらない。
「『Brechen』……?」
 真崎が微かに震えている。その顔に明日は駄目、そう言ったことばが蘇ってきて。
「明日駄目なのは、大輔さんと会うから、ですか?」
 言い放った声の冷たさと、今まで経験したことのない怒りの熱さに振り回される。
「伊吹、さん、こそ…っ」
 真崎が赤くなった顔で呟き、零れるようなその熱に内側の炎がなお引き寄せられていく。
 灼いてやろう。
 今まで思ってもみなかった気持ちが吐き捨てた。
 大輔が与える快楽には遠く及ばないだろうけど、それでもきっとこの炎は真崎の弱い部分を炙るのには十分なはず、美並の感覚をもってすれば。
 いつかのように切ない声を上げるところまで追い詰めて、いいじゃないか、最後なんだから、一番綺麗で一番危うい真崎を手に入れていこう。
「っ」
 内側に響いた高らかな哄笑に美並ははっとした。
 ゆらりと動きそうになった身体をぎりぎり堪える。
 何を、考えている。
 手に入らないからと言ってそんなことをしては大輔と同じ、いや大輔より酷い、それこそさっき真崎を従わせたのも、ただ蹂躙するためだったことになる。
 もういい、このまま飛び出そう、と美並は覚悟を決めた。
 傷つけるぐらいなら、振り捨てる方がきっとまだいい。
 だが、その美並の耳に。
「今日、駄目だったのは、あいつと会うからだったの?」
 はい?
 ひやりとした真崎の声が響いて瞬きした。激しい光を瞳にたたえて、相手が射抜くように睨み付けているのに気付く。
「あいつ?」
「大石、圭吾」
「? 違いま……っ」
 なんで、圭吾? こんなときに?
 訳が分からなくなって瞬きすると、腰のタオルを落とした真崎が駆け寄ってきて、美並は口を塞がれた。
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