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第2章
5.上司と部下(4)
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「お気に召しましたか」
「これって、揃いのセーターもあるんですよね?」
真崎がにこにこと手にしたものを見て、美並はまた固まる。それはこともあろうに『Brechen』シリーズ、ネット販売や通販だけかと思っていたら、店鋪流通もしていたのかと気付いて、大石がどれほど力を注いでいるのかを改めて思い知らされた気がした。
「ございます。えーと……こちらになりますね」
店員が心得たようにすぐ側の棚からセーターを出してくる。帽子と揃いに編み込まれたのは鮮やかなオレンジ、鳥の羽根を思わせるような不思議な糸だ。美並もついつい覗き込み、思わずその糸に触れてみる。つるっとした感触もあり、本当に羽根を編み込んだようにも見える。
「かっこいいなあ……よく売れてるんでしょう?」
「はい」
店員が何か言いたげに感嘆した真崎の帽子に目をやった。
「ああ、これ? そうなんだ」
真崎が如才なく微笑む。
「ちょっと味気ないでしょ? 買い替えようかなって。彼女のもある?」
「ございます」
同じような色味、けれど僅かに紅が濃いそれは、確かに真崎に見せたそれとそっくりな雰囲気だ。一つとして同じセーターがないと言うのが売りなら、それでもペアルックを好む相手と見てとって、とっさによく似たものを準備した店員の力量勝ちというところか。
「ああ、いい感じだね」
「華やかで、お似合いですよ」
相手は控えめに微笑した。
「これじゃまずいかな」
照れたように真崎が尋ねる。店員はわずかに頷き、
「せっかくのお出かけには、ちょっと寂しい感じもいたします」
正面切っては服装をけなさない。
「特別な時にはこちらをお召しになった方が……」
暗にこのセーターの方がランクが上だとほのめかした相手に、真崎が頷いた。
「なるほど、特別な時、ね」
「はい」
「じゃあ、これ、下さい。両方、帽子もセットで」
「か……、京介」
「はい?」
呼び方を変えると嬉しそうに真崎が振り返る。軽く首を傾げる、その意図がどうにも読めない。
「何? 他の色がいい?」
「あ、いえ」
「じゃ、行こう。ありがとうございました」
「またおいでくださいませ」
店員から袋を受け取って先に立って出ていく真崎に、急いで付いていく。
店を出ると、喉渇いちゃったね、コーヒーでも飲もうか、と真崎が笑って、思わずじっと相手を見上げた。
「課長?」
「何、伊吹さん」
「今の、あれ、計算ずく、ですか?」
「……」
歩きながら真崎は微かに笑う。
角を曲がってすぐの店に入り、コーヒーとカフェラテを注文して落ち着くと、袋を開いて帽子を取り出した。
「……綺麗だね」
自社のニットを脱いで髪の毛をかきあげ、じっくりと商品を眺める眼には、微塵もさきほどの甘さも緩さもない。
「疲れた?」
「いえ…」
「もうしばらく付き合ってね」
「それはいいですけど……課長こそ大丈夫ですか」
「週明けにはプランを示さなくちゃならない」
休んでる暇はないからね、と運ばれてきたコーヒーを含む。その間も買ってきた商品を丁寧に広げていたが、やがて、
「さ、行こう。あんまり時間がない」
しばらく眺めていた『Brechen』をおもむろに被り、自社製品を袋に入れて立ち上がった。
「私は?」
被らなくていいんですか?
確認した美並に、一瞬ちらっと拗ねたような視線を投げてきて背中を向ける。
「いいよ、そのままで」
「じゃあ、何でペアで買ったんですか?」
わけがわからないまま問い返すと、商品研究のためだから、と応えた後で少し沈黙し、
「大石がデザインしたものを君に着せるわけがないでしょう」
振り返らないまま、真崎は打って変わったふてくされた声で呟いて歩き出した。
「これって、揃いのセーターもあるんですよね?」
真崎がにこにこと手にしたものを見て、美並はまた固まる。それはこともあろうに『Brechen』シリーズ、ネット販売や通販だけかと思っていたら、店鋪流通もしていたのかと気付いて、大石がどれほど力を注いでいるのかを改めて思い知らされた気がした。
「ございます。えーと……こちらになりますね」
店員が心得たようにすぐ側の棚からセーターを出してくる。帽子と揃いに編み込まれたのは鮮やかなオレンジ、鳥の羽根を思わせるような不思議な糸だ。美並もついつい覗き込み、思わずその糸に触れてみる。つるっとした感触もあり、本当に羽根を編み込んだようにも見える。
「かっこいいなあ……よく売れてるんでしょう?」
「はい」
店員が何か言いたげに感嘆した真崎の帽子に目をやった。
「ああ、これ? そうなんだ」
真崎が如才なく微笑む。
「ちょっと味気ないでしょ? 買い替えようかなって。彼女のもある?」
「ございます」
同じような色味、けれど僅かに紅が濃いそれは、確かに真崎に見せたそれとそっくりな雰囲気だ。一つとして同じセーターがないと言うのが売りなら、それでもペアルックを好む相手と見てとって、とっさによく似たものを準備した店員の力量勝ちというところか。
「ああ、いい感じだね」
「華やかで、お似合いですよ」
相手は控えめに微笑した。
「これじゃまずいかな」
照れたように真崎が尋ねる。店員はわずかに頷き、
「せっかくのお出かけには、ちょっと寂しい感じもいたします」
正面切っては服装をけなさない。
「特別な時にはこちらをお召しになった方が……」
暗にこのセーターの方がランクが上だとほのめかした相手に、真崎が頷いた。
「なるほど、特別な時、ね」
「はい」
「じゃあ、これ、下さい。両方、帽子もセットで」
「か……、京介」
「はい?」
呼び方を変えると嬉しそうに真崎が振り返る。軽く首を傾げる、その意図がどうにも読めない。
「何? 他の色がいい?」
「あ、いえ」
「じゃ、行こう。ありがとうございました」
「またおいでくださいませ」
店員から袋を受け取って先に立って出ていく真崎に、急いで付いていく。
店を出ると、喉渇いちゃったね、コーヒーでも飲もうか、と真崎が笑って、思わずじっと相手を見上げた。
「課長?」
「何、伊吹さん」
「今の、あれ、計算ずく、ですか?」
「……」
歩きながら真崎は微かに笑う。
角を曲がってすぐの店に入り、コーヒーとカフェラテを注文して落ち着くと、袋を開いて帽子を取り出した。
「……綺麗だね」
自社のニットを脱いで髪の毛をかきあげ、じっくりと商品を眺める眼には、微塵もさきほどの甘さも緩さもない。
「疲れた?」
「いえ…」
「もうしばらく付き合ってね」
「それはいいですけど……課長こそ大丈夫ですか」
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「さ、行こう。あんまり時間がない」
しばらく眺めていた『Brechen』をおもむろに被り、自社製品を袋に入れて立ち上がった。
「私は?」
被らなくていいんですか?
確認した美並に、一瞬ちらっと拗ねたような視線を投げてきて背中を向ける。
「いいよ、そのままで」
「じゃあ、何でペアで買ったんですか?」
わけがわからないまま問い返すと、商品研究のためだから、と応えた後で少し沈黙し、
「大石がデザインしたものを君に着せるわけがないでしょう」
振り返らないまま、真崎は打って変わったふてくされた声で呟いて歩き出した。
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