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第1章
10.砕かれたガラス(6)
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「きゃあっ!」
どん、と恵子が思いきり床に転がった。
「何するの!」
「……それはこっちの台詞でしょう」
京介はうっそりと無表情な顔を上げた。恵子が強ばった顔になるのに目を細める。
「まさかいきなり襲われるとは思わなかったよ」
「襲われるって何よ」
恵子は半身起こした状態で京介を睨んでいる。
「あなただって付いてきたじゃない」
「だから、それは」
「何も期待してなかったとは言わせないから」
いや、マジで何も期待してなかったって。
そう突っ込みそうになってうんざりした。
期待どころか、少しでも早く話を聞いて、少しでも早く伊吹の所に戻りたかっただけだ。
「話はそれだけ?」
孝は街へ出てからも、こともあろうに大輔と切れてなかった、そういうこと?
じゃあ、と頭の中で忙しく思考を巡らせる。
ラブホテルで殺された夜に一緒に居たのは女じゃなかった可能性も、いやそれどころか大輔だった可能性さえある。大輔と孝がそういう関係にあったということを、警察がどこまで本腰いれて調べただろう。誰彼かまわず寝る男の一人や二人、街の喧噪に呑まれたところで追いかけられないね。言い放った刑事の冷たい声が戻ってくる。
あの夜、一体誰が孝と一緒に居た? 誰が孝を殺した? 牟田相子は一体どうして孝の写真を持っている?
伊吹に夢中になって忘れていたことが一気に吹き上がってきて、その中でも最大の疑問が一つ。
なぜ、孝は、大輔を拒まなかった?
いや、なぜ孝は大輔を欲しがった、あんな酷い目に合わされているのに?
それこそ、教えられ慣らされたこと、自分を開いた相手だから?
ちょうど京介が伊吹に暴かれたいと思うように、孝は大輔を求めたのか?
「う」
吐き気とめまいに思わず口を押さえて、漏れそうになった叫びを堪える。
じゃあ、僕も、結局は大輔のところへ引き戻されるのか、自分の意志ではなく、ただ欲望に引きずられて?
「…京ちゃん」
静かに呼び掛けられて顔を上げたとたん、かしゃりと無機質な音が響いた。
「な…に」
「写メ、撮っちゃった」
恵子がゆっくりと網タイツの脚を見せつけるように立ち上がった。
「これ、伊吹さんに送ってあげましょうか」
「…え?」
「今、ホテルで京ちゃんと一緒に居ますって」
「……馬鹿馬鹿しい」
京介は競り上がったものを飲み下した。額の汗を押さえながら髪を掻き上げ冷笑する。
「伊吹さんのメルアドなんて知らないくせに」
「京ちゃんは知ってるわよね?」
「……まさか」
血の気が引いた。
「携帯に入ってるものね?」
確かに緊急連絡用ということで、伊吹の携帯の番号は上司として知っている。メルアドまで確認したのは後々生まれた下心のせい、伊吹さんが移動中だったり急ぎじゃなかったらメルアドに入れておけばいいからと聞き出したのを、いささか不審そうに、それでも伊吹が教えてくれたのだ。
「家に居るときに、見たの。大輔と同じ機種だもの、すぐわかったわ」
ロックぐらいかけておかなくちゃ。
微笑む恵子がこれみよがしにもう一枚、茫然とした京介の顔を写す。
「どう思うかしら、彼女」
「関係ない」
思わず口走った。
「彼女には、関係ない、そんなもの、送ったって無駄だよ」
「結婚するって言ってなかった? 一緒に住んでるって」
何なら、今ここで電話してもいいのよ。
「京ちゃんの声を聞かせてあげてもいい」
「だからっ、関係ないって言ってるだろ!」
ずくずく疼く胸に振り絞るように叫ぶ。
「伊吹さんと僕は、何の関係もない、勢いで連れていっただけなんだ!」
そうだ、たったそれだけだ。
「彼女にはっ」
ちゃんと、恋人が、居る。
僕じゃなくて、もっと立派な男、が。
「…彼女には……っ」
苦しくて切なくて顔を歪めて唇を噛んだ。
どん、と恵子が思いきり床に転がった。
「何するの!」
「……それはこっちの台詞でしょう」
京介はうっそりと無表情な顔を上げた。恵子が強ばった顔になるのに目を細める。
「まさかいきなり襲われるとは思わなかったよ」
「襲われるって何よ」
恵子は半身起こした状態で京介を睨んでいる。
「あなただって付いてきたじゃない」
「だから、それは」
「何も期待してなかったとは言わせないから」
いや、マジで何も期待してなかったって。
そう突っ込みそうになってうんざりした。
期待どころか、少しでも早く話を聞いて、少しでも早く伊吹の所に戻りたかっただけだ。
「話はそれだけ?」
孝は街へ出てからも、こともあろうに大輔と切れてなかった、そういうこと?
じゃあ、と頭の中で忙しく思考を巡らせる。
ラブホテルで殺された夜に一緒に居たのは女じゃなかった可能性も、いやそれどころか大輔だった可能性さえある。大輔と孝がそういう関係にあったということを、警察がどこまで本腰いれて調べただろう。誰彼かまわず寝る男の一人や二人、街の喧噪に呑まれたところで追いかけられないね。言い放った刑事の冷たい声が戻ってくる。
あの夜、一体誰が孝と一緒に居た? 誰が孝を殺した? 牟田相子は一体どうして孝の写真を持っている?
伊吹に夢中になって忘れていたことが一気に吹き上がってきて、その中でも最大の疑問が一つ。
なぜ、孝は、大輔を拒まなかった?
いや、なぜ孝は大輔を欲しがった、あんな酷い目に合わされているのに?
それこそ、教えられ慣らされたこと、自分を開いた相手だから?
ちょうど京介が伊吹に暴かれたいと思うように、孝は大輔を求めたのか?
「う」
吐き気とめまいに思わず口を押さえて、漏れそうになった叫びを堪える。
じゃあ、僕も、結局は大輔のところへ引き戻されるのか、自分の意志ではなく、ただ欲望に引きずられて?
「…京ちゃん」
静かに呼び掛けられて顔を上げたとたん、かしゃりと無機質な音が響いた。
「な…に」
「写メ、撮っちゃった」
恵子がゆっくりと網タイツの脚を見せつけるように立ち上がった。
「これ、伊吹さんに送ってあげましょうか」
「…え?」
「今、ホテルで京ちゃんと一緒に居ますって」
「……馬鹿馬鹿しい」
京介は競り上がったものを飲み下した。額の汗を押さえながら髪を掻き上げ冷笑する。
「伊吹さんのメルアドなんて知らないくせに」
「京ちゃんは知ってるわよね?」
「……まさか」
血の気が引いた。
「携帯に入ってるものね?」
確かに緊急連絡用ということで、伊吹の携帯の番号は上司として知っている。メルアドまで確認したのは後々生まれた下心のせい、伊吹さんが移動中だったり急ぎじゃなかったらメルアドに入れておけばいいからと聞き出したのを、いささか不審そうに、それでも伊吹が教えてくれたのだ。
「家に居るときに、見たの。大輔と同じ機種だもの、すぐわかったわ」
ロックぐらいかけておかなくちゃ。
微笑む恵子がこれみよがしにもう一枚、茫然とした京介の顔を写す。
「どう思うかしら、彼女」
「関係ない」
思わず口走った。
「彼女には、関係ない、そんなもの、送ったって無駄だよ」
「結婚するって言ってなかった? 一緒に住んでるって」
何なら、今ここで電話してもいいのよ。
「京ちゃんの声を聞かせてあげてもいい」
「だからっ、関係ないって言ってるだろ!」
ずくずく疼く胸に振り絞るように叫ぶ。
「伊吹さんと僕は、何の関係もない、勢いで連れていっただけなんだ!」
そうだ、たったそれだけだ。
「彼女にはっ」
ちゃんと、恋人が、居る。
僕じゃなくて、もっと立派な男、が。
「…彼女には……っ」
苦しくて切なくて顔を歪めて唇を噛んだ。
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