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第1章
9.オープン・ザ・ゲイト(11)
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「っは…っはあ…っ」
「……課長」
「は…っ……はいっ」
課に戻ると見事に息が上がってて、よく考えればすぐに伊吹も戻ってくるから、ここに居たって同じことだと思いつき、京介は茫然とした。
何やってんの、僕は。
「何やってるんですか」
「…んと…」
石塚の呆れ声に苦笑しながら乱れた髪を掻き上げて、まだ喘ぎながら座席に座る。湿った額が情けない。
「……運動不足だよねー」
「……運動不足解消に走ってこられたんですか」
「いや、ちょっと」
くすん、と半分泣きそうになったのをごまかして笑う。
「人生って一番始めに全部決まっちゃうもんなんだなあと」
「はい?」
「独り言。で、データ入力、どこ?」
「そこに積んであります……伊吹さんは?」
「ああ、もうすぐ帰ってくるんじゃない?」
よいしょ、と座り直してPCのファイルを開く。
とにかく何だかめちゃくちゃなことしちゃった感じがあるから、とりあえず仕事だけでもいつものように頑張っておいて、ああ、いつもの課長だな、とそのへんで許してもらって。
慌ただしく資料を繰りながら、次々入力していると、ドアが開いた。
「すみませんでした、石塚さん」
戻ってきた伊吹が、元通り落ち着いた声でぺこりと頭を下げる。
「仕事中なのよ」
石塚は淡々と苦情を続けた。
「自分のしていることをいきなり放り出さないで。席外すんだったら、引き継いでから行ってちょうだい」
「すみません」
「急ぎは課長が入れてくれてるから、ああ、これ、電話かかってたから」
「はい」
石塚のメモを受け取って伊吹が不審そうな顔になる。
それを横目でちらりと見て、京介はまた不安になった。
伊吹に電話など、ここに入ってからかかってきたことがない。
しかも、今の今ということは、一番可能性があるのは。
「……この方、ですか?」
「そうよ、連絡つかないかって」
「あの……どうして私がここに居ることを」
「知らないわよ、私は」
とにかく、戻ったら連絡してほしいって言うことだから、受けた責任もあるし、連絡入れてね。
石塚が言い付けて、伊吹がはい、と頷き、なぜか唐突に京介を見た。
「?」
思わずそちらを見ていたのを慌てて目を逸らそうとして、相手が微かに眉を寄せるのに気付く。
「あの」
「ん?」
「……いえ、すみません、もうちょっと入力、お願いできますか」
「うん、わかった」
応えながら京介はほっとした。
上司という部分は何とか守れたようだ、そこからは永遠に断崖絶壁になったのかもしれないけれど。
少し気が軽くなって、次の資料を繰り、入力作業を始めたとたん、響いた声に固まった。
「もしもし、あの、真崎大輔さんをお願いできますか」
「っっ」
ぞわっと背中が凍りつく。
「はい、伊吹、美並と言います」
「……大輔…?」
「……あ、はい、先日はどうも」
電話の向こうに軽く頭を下げながら、伊吹がまたちらりと京介を見遣ってきた。問いかけるような視線に、思わず首を振る。
大輔が伊吹に電話?
なぜ?
ぞくぞくしたものが這い上がってきて、資料が目に入らない。けれど、続いたことばに京介はあやうく椅子から滑り落ちそうになった。
「今日…ですか? ええ、終わるのは……五時過ぎますけど」
「伊吹…っ」
「わかりました、じゃあ、今日六時、駅前でお待ちしています」
「伊吹さんっ!」
今の、と慌てて席を立って近寄ると、伊吹がまっすぐ見上げてくる。
「夕方大輔さんに会います。何か話したいことがあるって」
「……何を」
「わかりません。でも」
課長はどうされますか。
静かに尋ねられて、京介は目を見開いた。
「……課長」
「は…っ……はいっ」
課に戻ると見事に息が上がってて、よく考えればすぐに伊吹も戻ってくるから、ここに居たって同じことだと思いつき、京介は茫然とした。
何やってんの、僕は。
「何やってるんですか」
「…んと…」
石塚の呆れ声に苦笑しながら乱れた髪を掻き上げて、まだ喘ぎながら座席に座る。湿った額が情けない。
「……運動不足だよねー」
「……運動不足解消に走ってこられたんですか」
「いや、ちょっと」
くすん、と半分泣きそうになったのをごまかして笑う。
「人生って一番始めに全部決まっちゃうもんなんだなあと」
「はい?」
「独り言。で、データ入力、どこ?」
「そこに積んであります……伊吹さんは?」
「ああ、もうすぐ帰ってくるんじゃない?」
よいしょ、と座り直してPCのファイルを開く。
とにかく何だかめちゃくちゃなことしちゃった感じがあるから、とりあえず仕事だけでもいつものように頑張っておいて、ああ、いつもの課長だな、とそのへんで許してもらって。
慌ただしく資料を繰りながら、次々入力していると、ドアが開いた。
「すみませんでした、石塚さん」
戻ってきた伊吹が、元通り落ち着いた声でぺこりと頭を下げる。
「仕事中なのよ」
石塚は淡々と苦情を続けた。
「自分のしていることをいきなり放り出さないで。席外すんだったら、引き継いでから行ってちょうだい」
「すみません」
「急ぎは課長が入れてくれてるから、ああ、これ、電話かかってたから」
「はい」
石塚のメモを受け取って伊吹が不審そうな顔になる。
それを横目でちらりと見て、京介はまた不安になった。
伊吹に電話など、ここに入ってからかかってきたことがない。
しかも、今の今ということは、一番可能性があるのは。
「……この方、ですか?」
「そうよ、連絡つかないかって」
「あの……どうして私がここに居ることを」
「知らないわよ、私は」
とにかく、戻ったら連絡してほしいって言うことだから、受けた責任もあるし、連絡入れてね。
石塚が言い付けて、伊吹がはい、と頷き、なぜか唐突に京介を見た。
「?」
思わずそちらを見ていたのを慌てて目を逸らそうとして、相手が微かに眉を寄せるのに気付く。
「あの」
「ん?」
「……いえ、すみません、もうちょっと入力、お願いできますか」
「うん、わかった」
応えながら京介はほっとした。
上司という部分は何とか守れたようだ、そこからは永遠に断崖絶壁になったのかもしれないけれど。
少し気が軽くなって、次の資料を繰り、入力作業を始めたとたん、響いた声に固まった。
「もしもし、あの、真崎大輔さんをお願いできますか」
「っっ」
ぞわっと背中が凍りつく。
「はい、伊吹、美並と言います」
「……大輔…?」
「……あ、はい、先日はどうも」
電話の向こうに軽く頭を下げながら、伊吹がまたちらりと京介を見遣ってきた。問いかけるような視線に、思わず首を振る。
大輔が伊吹に電話?
なぜ?
ぞくぞくしたものが這い上がってきて、資料が目に入らない。けれど、続いたことばに京介はあやうく椅子から滑り落ちそうになった。
「今日…ですか? ええ、終わるのは……五時過ぎますけど」
「伊吹…っ」
「わかりました、じゃあ、今日六時、駅前でお待ちしています」
「伊吹さんっ!」
今の、と慌てて席を立って近寄ると、伊吹がまっすぐ見上げてくる。
「夕方大輔さんに会います。何か話したいことがあるって」
「……何を」
「わかりません。でも」
課長はどうされますか。
静かに尋ねられて、京介は目を見開いた。
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