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第1章
9.オープン・ザ・ゲイト(8)
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伊吹が訝しそうに眉を寄せて、ふいに気付いた。
『相手は納得しなかった。状況が悪化して、私のせいだと言われた。私は手を引いて……』
ひょっとして、あの話の。
尋ねてみると、伊吹は不安そうに頷いた。
「会社で追い詰められて、悩んで、自殺した、はずなのに」
いつも透明で静かな視線が揺らいで怯えている。困惑した顔で今にも泣き出しそうで、それがひどく頼りなく見えた。
好きなんだ。
すとんと大きな刃が体を真二つに裂いた気がした。
伊吹は大石のことが今でも凄く好きで、こうして話しているのも京介と話したいからではなくて、大石のことを不安がっているから。
そういう、こと。
また、僕は代用品だったってこと。
なんだ。そうなのか。
そうわかっても、伊吹が見たこともない不安そうな顔で瞳を曇らせているのは痛かった。
「生きてたよ」
はっとしたように伊吹が瞬きする。目の中にはっきり意志が灯るのをじっと見つめた。
「まだ、今、出ていったばかりだ」
一言答えるのに、声が震えそうなのを堪える。
馬鹿なこと言おうとしてるよね、僕。
でも、伊吹は辛そうだから。
死んでしまったと思った相手が生きていたら、きっとどうしても確かめたいことがいっぱいあるはずだ。京介だって孝が生きていたら、たくさん話したいことがある。
「追い掛けたら」
きつい戒めを解かれたように、ふいに伊吹は身を翻した。そのまま、振り返りもせずに廊下を駆け去っていく。
「……間に合わないかもしれないな」
一瞬思わず引き止めそうになった手をのろのろ降ろして、京介も向きを変える。
「間に合わないと、いいけどね」
小さく呟きながら課に戻り、物問いたげな石塚の目を無視して受付を呼び出した。
『大石さま、ですか』
「そう、もう通ったかな」
容貌を話すと、既に受付を通り抜けたと言う。
「ありがとう、申し訳ないけれど、呼び出しアナウンス、かけてもらえる?」
もし大石がまだ敷地内をうろうろしていたら届くはずだ。
それほど待つまでもなく、静かな声が大石を呼ぶ。
『岩倉産業の大石圭吾さま、お忘れものがございます、申し訳ありませんが、至急流通管理課へお戻り下さいませ』
「よし」
これでこっちはいい、後は駐車場を押さえておこう、と体を起こした京介は、じっと見つめている石塚に気付いた。
「課長」
「はい」
「彼女のデータ入力遅れますけど」
「……後で僕がやるから」
もし万が一、大石が捕まったら、伊吹はきっと仕事にならない。
「私は残業ごめんですよ」
「わかってます。石塚さんには迷惑かけないから」
だってさ、伊吹さんは僕の。
言いかけて、それがどれほど虚しい願いだったかを改めて思い知りながら、京介はことばを変えた。
「大事な、部下だからさ」
「では私も」
石塚が淡々とデータ入力に戻りながら続ける。
「明日のお休みは絶対取らせて頂きます」
「え、明日?」
明日って確かこの間のトラブルの経過データがどさっと来るって言ってなかったっけ。
「はい、それが何か?」
「う」
戸惑った京介に石塚がに、と笑う。
「私も大事な部下ですよね?」
「……はい」
僕がやります、だから今はもうちょっと時間ちょうだいね。
言い捨てて課を飛び出す京介の背中に、しつこいのはみっともないですよ、と石塚の呆れた声が飛んできた。
『相手は納得しなかった。状況が悪化して、私のせいだと言われた。私は手を引いて……』
ひょっとして、あの話の。
尋ねてみると、伊吹は不安そうに頷いた。
「会社で追い詰められて、悩んで、自殺した、はずなのに」
いつも透明で静かな視線が揺らいで怯えている。困惑した顔で今にも泣き出しそうで、それがひどく頼りなく見えた。
好きなんだ。
すとんと大きな刃が体を真二つに裂いた気がした。
伊吹は大石のことが今でも凄く好きで、こうして話しているのも京介と話したいからではなくて、大石のことを不安がっているから。
そういう、こと。
また、僕は代用品だったってこと。
なんだ。そうなのか。
そうわかっても、伊吹が見たこともない不安そうな顔で瞳を曇らせているのは痛かった。
「生きてたよ」
はっとしたように伊吹が瞬きする。目の中にはっきり意志が灯るのをじっと見つめた。
「まだ、今、出ていったばかりだ」
一言答えるのに、声が震えそうなのを堪える。
馬鹿なこと言おうとしてるよね、僕。
でも、伊吹は辛そうだから。
死んでしまったと思った相手が生きていたら、きっとどうしても確かめたいことがいっぱいあるはずだ。京介だって孝が生きていたら、たくさん話したいことがある。
「追い掛けたら」
きつい戒めを解かれたように、ふいに伊吹は身を翻した。そのまま、振り返りもせずに廊下を駆け去っていく。
「……間に合わないかもしれないな」
一瞬思わず引き止めそうになった手をのろのろ降ろして、京介も向きを変える。
「間に合わないと、いいけどね」
小さく呟きながら課に戻り、物問いたげな石塚の目を無視して受付を呼び出した。
『大石さま、ですか』
「そう、もう通ったかな」
容貌を話すと、既に受付を通り抜けたと言う。
「ありがとう、申し訳ないけれど、呼び出しアナウンス、かけてもらえる?」
もし大石がまだ敷地内をうろうろしていたら届くはずだ。
それほど待つまでもなく、静かな声が大石を呼ぶ。
『岩倉産業の大石圭吾さま、お忘れものがございます、申し訳ありませんが、至急流通管理課へお戻り下さいませ』
「よし」
これでこっちはいい、後は駐車場を押さえておこう、と体を起こした京介は、じっと見つめている石塚に気付いた。
「課長」
「はい」
「彼女のデータ入力遅れますけど」
「……後で僕がやるから」
もし万が一、大石が捕まったら、伊吹はきっと仕事にならない。
「私は残業ごめんですよ」
「わかってます。石塚さんには迷惑かけないから」
だってさ、伊吹さんは僕の。
言いかけて、それがどれほど虚しい願いだったかを改めて思い知りながら、京介はことばを変えた。
「大事な、部下だからさ」
「では私も」
石塚が淡々とデータ入力に戻りながら続ける。
「明日のお休みは絶対取らせて頂きます」
「え、明日?」
明日って確かこの間のトラブルの経過データがどさっと来るって言ってなかったっけ。
「はい、それが何か?」
「う」
戸惑った京介に石塚がに、と笑う。
「私も大事な部下ですよね?」
「……はい」
僕がやります、だから今はもうちょっと時間ちょうだいね。
言い捨てて課を飛び出す京介の背中に、しつこいのはみっともないですよ、と石塚の呆れた声が飛んできた。
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