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第1章
4.闇の中身(6)
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車が止まったのは一山上り切った平地だった。本当に小さな集落だけで、後は田んぼがぽつぽつ広がっているのどかな風景だ。
こっちです、と促されて、車を降りると、旅行誌でよく見るようなこじんまりした穏やかな雰囲気の日本家屋がある。
「いきなり始めると思わなかったな」
「え?」
ぼそりと呟かれて、美並は真崎を振り返った。
「……大輔を質問責めにした」
「……しましたっけ?」
「怖い」
「はい?」
「伊吹が怖い」
ちろ、っと舌を出してふざけて見せる真崎は子どもの顔になっている。一瞬、意外に可愛い、そう思ったとたん、呼び捨てにされたのに気付いた。
「課長」
「京介か京ちゃんがいいって」
「私は嫌です。伊吹って呼び捨てにしないで下さい」
「美並?」
「それも嫌」
「じゃあ、伊吹でいいでしょう」
「猫じゃありませんから」
言い放つとひくっと顔を強ばらせて、また小さく舌を出した。
「鋭いね」
「ありがとうございます」
「おーい、何をやってんだ!」
逸早く玄関に辿りついていた大輔が大きく手を振って促してくる。さっき一瞬見せた鋭い顔は消えていて、体育会系の気のいい男に戻っている。
「まあまあ、京介さん」
「こんにちは、義姉さん。兄がお世話になっています」
「そういうところは相変わらず卒ないな、お前は」
呆れたように瞬きする大輔に笑って、迎えに出てきた髪の毛をアップにまとめた女性が微笑んだ。
「あなたが荒っぽいんですよ」
「そこに惚れたんだろうが」
わははは、と大輔は肩を揺らせて家の中に入っていく。
「京ちゃん、そちらは?」
「ああ、伊吹、美並さん。僕の」
「会社の同僚です、よろしくお願いいたします」
真崎のことばを横取りして、美並はさっさと頭を下げた。これ以上、事態をややこしくされてはかなわない。
「同僚?」
「伊吹さん、それはおかしいんじゃないの、返って」
戸惑った顔の相手に真崎が苦笑する。
「第一僕がなんで会社の同僚の人を実家に」
「動物霊園に、です」
美並は容赦なく切り捨てた。
「私はイブキのお参りするって聞いてます」
「イブキ?」
相手は大きな目を瞬くと、うろたえたように真崎を見遣った。
「イブキがどうかしたの」
げ。
美並は思わず引きつる。慌てて真崎を見上げると、相手はまた半透明の繭に籠ったように静かな顔になっている。
「死んだんだよ、義姉さん」
「まあ……」
潤んだ瞳を悲しそうに伏せて、相手は指先を唇に当てて俯いた。ぽたぽたと涙が落ちる。
「あそこに埋めたんだ」
「………そう」
「……知らせなくてごめん」
「………いいのよ、京ちゃん」
きゅ、と唇を噛んだ相手がようよう顔を上げて潤んだ瞳で微笑んだ。
「ありがとう」
こっちです、と促されて、車を降りると、旅行誌でよく見るようなこじんまりした穏やかな雰囲気の日本家屋がある。
「いきなり始めると思わなかったな」
「え?」
ぼそりと呟かれて、美並は真崎を振り返った。
「……大輔を質問責めにした」
「……しましたっけ?」
「怖い」
「はい?」
「伊吹が怖い」
ちろ、っと舌を出してふざけて見せる真崎は子どもの顔になっている。一瞬、意外に可愛い、そう思ったとたん、呼び捨てにされたのに気付いた。
「課長」
「京介か京ちゃんがいいって」
「私は嫌です。伊吹って呼び捨てにしないで下さい」
「美並?」
「それも嫌」
「じゃあ、伊吹でいいでしょう」
「猫じゃありませんから」
言い放つとひくっと顔を強ばらせて、また小さく舌を出した。
「鋭いね」
「ありがとうございます」
「おーい、何をやってんだ!」
逸早く玄関に辿りついていた大輔が大きく手を振って促してくる。さっき一瞬見せた鋭い顔は消えていて、体育会系の気のいい男に戻っている。
「まあまあ、京介さん」
「こんにちは、義姉さん。兄がお世話になっています」
「そういうところは相変わらず卒ないな、お前は」
呆れたように瞬きする大輔に笑って、迎えに出てきた髪の毛をアップにまとめた女性が微笑んだ。
「あなたが荒っぽいんですよ」
「そこに惚れたんだろうが」
わははは、と大輔は肩を揺らせて家の中に入っていく。
「京ちゃん、そちらは?」
「ああ、伊吹、美並さん。僕の」
「会社の同僚です、よろしくお願いいたします」
真崎のことばを横取りして、美並はさっさと頭を下げた。これ以上、事態をややこしくされてはかなわない。
「同僚?」
「伊吹さん、それはおかしいんじゃないの、返って」
戸惑った顔の相手に真崎が苦笑する。
「第一僕がなんで会社の同僚の人を実家に」
「動物霊園に、です」
美並は容赦なく切り捨てた。
「私はイブキのお参りするって聞いてます」
「イブキ?」
相手は大きな目を瞬くと、うろたえたように真崎を見遣った。
「イブキがどうかしたの」
げ。
美並は思わず引きつる。慌てて真崎を見上げると、相手はまた半透明の繭に籠ったように静かな顔になっている。
「死んだんだよ、義姉さん」
「まあ……」
潤んだ瞳を悲しそうに伏せて、相手は指先を唇に当てて俯いた。ぽたぽたと涙が落ちる。
「あそこに埋めたんだ」
「………そう」
「……知らせなくてごめん」
「………いいのよ、京ちゃん」
きゅ、と唇を噛んだ相手がようよう顔を上げて潤んだ瞳で微笑んだ。
「ありがとう」
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