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『カラメル』
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「…う、わっ」
急ぎ足では間に合わなかった。いきなり降り出した雨は容赦なく二人を濡らしていく。
「こっち、伊吹さんっ」「はいっ」
軒下に飛び込むと、見る見る激しくなる雨が路面を白く叩く。
「つめた…」
小さく呟く京介を見上げると、髪を濡らした雨粒がゆっくりと頬を滑っていくのが見えた。緩やかに雫が崩れていく。
「…何?」
「…いえ」
いつかの夜に京介を伝っていた雫を思い出す。温かくて、少し塩辛くて、次々降り落ちて来ては伊吹を濡らす。苦しそうに眉を寄せて、堪えて堪えて、それでも限界が来て、首を振り切なげに仰け反る姿を、美並も熱に滲んだ視界で見上げていた。
『き…れい…です…』
『え……え……っ…?』
夢から無理矢理引き戻された顔で京介が見下ろす。
『な…に……っ…?』
美並のことばをただ一つも聞き逃すまいとして顔を降ろしてくるけれど、乱れた呼吸に呻きが混じる。
『ご…め……んっ…』
ぼく、もう。
しがみつかれて顔を埋められて、それでも我慢しようとするのに思わず耳を齧ってしまう。ひ、と息を引いたとたんに漏れる声はひどいよ、みなみ、と響いた後に弾けて散らばる。
「…伊吹さん」
「…はい」
脳裏に過った甘い映像を呑み込んで、美並は瞬きした。
髪から伝う雫に濡れた唇が、何考えてるの、と囁いてくる。
「寒いですね」
「秋雨だしね」
「冷えちゃいました」
「僕も」
近づく唇が重なりながら、欲しいよ、と紡ぐ。
「…美並も濡れたでしょ?」
「京介の方が濡れたでしょう?」
「ん、ふ」
眉を寄せて京介がキスを貪る。
雨脚が強くなる。
指先をとんでもないところに導かれないうちに、休む場所を探そう。
美並の腕の中で、蕩けるほど熱い京介が、カラメルのように甘い匂いを放っている。
急ぎ足では間に合わなかった。いきなり降り出した雨は容赦なく二人を濡らしていく。
「こっち、伊吹さんっ」「はいっ」
軒下に飛び込むと、見る見る激しくなる雨が路面を白く叩く。
「つめた…」
小さく呟く京介を見上げると、髪を濡らした雨粒がゆっくりと頬を滑っていくのが見えた。緩やかに雫が崩れていく。
「…何?」
「…いえ」
いつかの夜に京介を伝っていた雫を思い出す。温かくて、少し塩辛くて、次々降り落ちて来ては伊吹を濡らす。苦しそうに眉を寄せて、堪えて堪えて、それでも限界が来て、首を振り切なげに仰け反る姿を、美並も熱に滲んだ視界で見上げていた。
『き…れい…です…』
『え……え……っ…?』
夢から無理矢理引き戻された顔で京介が見下ろす。
『な…に……っ…?』
美並のことばをただ一つも聞き逃すまいとして顔を降ろしてくるけれど、乱れた呼吸に呻きが混じる。
『ご…め……んっ…』
ぼく、もう。
しがみつかれて顔を埋められて、それでも我慢しようとするのに思わず耳を齧ってしまう。ひ、と息を引いたとたんに漏れる声はひどいよ、みなみ、と響いた後に弾けて散らばる。
「…伊吹さん」
「…はい」
脳裏に過った甘い映像を呑み込んで、美並は瞬きした。
髪から伝う雫に濡れた唇が、何考えてるの、と囁いてくる。
「寒いですね」
「秋雨だしね」
「冷えちゃいました」
「僕も」
近づく唇が重なりながら、欲しいよ、と紡ぐ。
「…美並も濡れたでしょ?」
「京介の方が濡れたでしょう?」
「ん、ふ」
眉を寄せて京介がキスを貪る。
雨脚が強くなる。
指先をとんでもないところに導かれないうちに、休む場所を探そう。
美並の腕の中で、蕩けるほど熱い京介が、カラメルのように甘い匂いを放っている。
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