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『迷子の迷子の』(1)
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「おやすみなさい」
受話器の向こうに言い放って通話を切った。
「どうしたの?」
のんびりベッドに寝そべっていた真崎が電話のやりとりを聞いて体を起こす。
「今京介から電話があったんです」
「はい?」
僕から?
おかしそうに唇を綻ばせて笑う相手を美並は見据える。
「僕はここに居るよね」
「そうですね」
「ほんとに僕だった?」
「京介でした」
口調も声も困った響きの甘さも。
「へえ」
ちょっと嫉妬しちゃうな。
相手はくすくす笑って枕に顔を乗せる。
「これからって時に、邪魔が入ったね」
「京介、聞いていいですか?」
さっきから引っ掛かっていたことを美並は尋ねてみることにする。
「今日、得意先から直帰したって言いましたよね?」
「うん」
「石塚さんには電話で伝えたって」
「うん」
「で、それは5時すぎだったって」
「そうだよ」
「で、問題なのは」
石塚さんは、今日午後から急に腹痛で早退してて、部屋には誰もいなかったんですが。
「私はお休みもらってましたし」
「……」
「とりあえず3時までは居るって細田課長はおっしゃってましたが」
そうすると京介が電話した相手は細田課長のはずですよね?
「……腹痛かあ」
「腹痛です」
「イレギュラーだよね?」
「イレギュラーですね」
「そういうことがあるなんてなあ」
「面白いですね」
「で?」
「で、とは?」
「僕はここに居るよね?」
「そうですね」
どうみても京介ですね。
「で?」
「で、とは」
「今の電話は誰だと思うの?」
「京介だと思います」
「それにしてはそっけなかったよね」
美並は静かに目を細める。
「目の前に居る、どう見ても京介のあなたが誰だか、まだわかりませんから」
「へえ」
じゃあ美並は電話の僕が本物だと思ってるんだ。
「ひどいなあ」
「別にひどくないですよ」
美並は微笑む。
「見えてるだけですから」
「え?」
「京介の中にはとても綺麗な刃があるんです」
「うん」
「あなたの中には何もないでしょう?」
あえて言えば、ふわふわの綿、のように見えますが。
「あれ」
ばれてたのか。
ぼむっ。
つぶやいた相手はいきなりぬいぐるみのクマになった。
「………なるほど」
溜め息をついて美並はクマを拾い上げ、ゴミ袋に突っ込んで口を縛る。一瞬中でクマがじたばたしたが、無視してそのまま鞄に突っ込み、部屋の鍵を取り上げた。
「京介を見つけるまで、同行してもらいますよ」
ばこり。
うかつに部屋に入れた自分への怒り半分でクマの頭を殴る。
「……無事見つけられるといいんですが」
京介を見つけられなかった時は、焼却炉にでもぶちこみますか。
冷えた呟きにクマが静かになった。
受話器の向こうに言い放って通話を切った。
「どうしたの?」
のんびりベッドに寝そべっていた真崎が電話のやりとりを聞いて体を起こす。
「今京介から電話があったんです」
「はい?」
僕から?
おかしそうに唇を綻ばせて笑う相手を美並は見据える。
「僕はここに居るよね」
「そうですね」
「ほんとに僕だった?」
「京介でした」
口調も声も困った響きの甘さも。
「へえ」
ちょっと嫉妬しちゃうな。
相手はくすくす笑って枕に顔を乗せる。
「これからって時に、邪魔が入ったね」
「京介、聞いていいですか?」
さっきから引っ掛かっていたことを美並は尋ねてみることにする。
「今日、得意先から直帰したって言いましたよね?」
「うん」
「石塚さんには電話で伝えたって」
「うん」
「で、それは5時すぎだったって」
「そうだよ」
「で、問題なのは」
石塚さんは、今日午後から急に腹痛で早退してて、部屋には誰もいなかったんですが。
「私はお休みもらってましたし」
「……」
「とりあえず3時までは居るって細田課長はおっしゃってましたが」
そうすると京介が電話した相手は細田課長のはずですよね?
「……腹痛かあ」
「腹痛です」
「イレギュラーだよね?」
「イレギュラーですね」
「そういうことがあるなんてなあ」
「面白いですね」
「で?」
「で、とは?」
「僕はここに居るよね?」
「そうですね」
どうみても京介ですね。
「で?」
「で、とは」
「今の電話は誰だと思うの?」
「京介だと思います」
「それにしてはそっけなかったよね」
美並は静かに目を細める。
「目の前に居る、どう見ても京介のあなたが誰だか、まだわかりませんから」
「へえ」
じゃあ美並は電話の僕が本物だと思ってるんだ。
「ひどいなあ」
「別にひどくないですよ」
美並は微笑む。
「見えてるだけですから」
「え?」
「京介の中にはとても綺麗な刃があるんです」
「うん」
「あなたの中には何もないでしょう?」
あえて言えば、ふわふわの綿、のように見えますが。
「あれ」
ばれてたのか。
ぼむっ。
つぶやいた相手はいきなりぬいぐるみのクマになった。
「………なるほど」
溜め息をついて美並はクマを拾い上げ、ゴミ袋に突っ込んで口を縛る。一瞬中でクマがじたばたしたが、無視してそのまま鞄に突っ込み、部屋の鍵を取り上げた。
「京介を見つけるまで、同行してもらいますよ」
ばこり。
うかつに部屋に入れた自分への怒り半分でクマの頭を殴る。
「……無事見つけられるといいんですが」
京介を見つけられなかった時は、焼却炉にでもぶちこみますか。
冷えた呟きにクマが静かになった。
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