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42.『幻を求めるなかれ』(2)
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「!」
ぎょっとした顔でレシンが目を上げる。
「お前、めったなこと言うんじゃねえ」
「だって、トラスフィさんがそう言ったよ?」
お前の中に『龍』がいる、そいつでオウライカを護れ、って。
「トラスフィが……?」
「『龍』って何? レシンさん、何か知ってるの? 知ってるなら教えてよ」
「…………トラスフィの、馬鹿が」
「………何」
「……だからなおさらオウライカさんも」
思い悩んだ顔でレシンは手を止めて視線を遠くに遊ばせた。
「難儀な……人だなあ」
「レシンさん!」
焦れたカザルをじろりと見遣って、レシンは再び手を動かし出した。
「レシンさんっ!」
「きゃんきゃん吠えてねえで、ちゃんと仕事覚えろ、教えねえぞ」
「だって!」
「………お前、なあ」
おさまらないカザルに深々と溜め息をつく。それからふと思いついたように、
「……あれ、使ってもらったのかよ」
「あれ?」
「……一緒に渡してやったろ?」
「………あ」
蒼銀の編み目の輪を思い出して、カザルは全身熱くなった。思わず俯いてぼぞぼぞ答える。
「まだ……」
「……だろ?」
「だろ?」
「だと思ったんだ」
「だと思ったって何」
「オウライカさんが、あれ使ってねえだろ?」
「………どういうこと」
「……あれ使ってねえなら、そうじゃねえってことだろ」
「……そうじゃねえって」
嫌な冷たい空気が胸に差し込んできて、カザルは顔を引きつらせた。レシンの横顔を凝視して問いつめる。
「そうじゃねえって、どういうこと!」
「ああ、もう、っるせえなあ、お前はよぅ」
レシンはぼそりと低い声で呟いた。
「オウライカさんは………お前に惚れてねえよ」
「っっっ」
ぐさり、と一番痛いところを刺し貫かれたような気がした。じわっと滲みかけた視界を慌てて瞬きして、
「何、だよ、今さら、惚れてねえ、って。そんなこと、ずっとわかって…」
連れ帰ってくれるとは言った、けれど抱いてはくれなかった。
それが何を意味するのか、カザルなりに何度も何度も考えた。考えた末に辿りつきそうな結論を見たくなくて………こんなものを作っている。
カザルは手の中で光り始めた蒼銀の太い針を見つめた。
掌より少しはみ出るその大きさは、ミコトの物より遥かに大きく遥かに手酷い傷を負わせることができる。握ってみて指先で操ると、きらきら動くそれは『暗器』というにはあまりにも殺気立った気配を醸していて、それを使うのがカザルである以上、まぎれもなく武器として十分通用する。
『龍』なんてわからない。
守り方なんて一つしか知らない。
トラスフィやレシンのことばから、オウライカの敵がどうやら色で通じる相手でないのはわかった。ならば、カザルに残されたのは習い覚えた修羅の技を寸分ためらいなく繰り出せるようにしておくだけのことで。
正直なところ、そう思った瞬間から足の付け根のセンサーが嫌な感じで震えることが増えてきていて、どうやら『塔京』はそれを見のがしてくれないのだと感じ取った。
なら。
倒れて動けなくなる直前まで、オウライカの側にいるために。
「………『龍』を、彫ろうかな」
形だけでも、まねだけでも。
「あん?」
「これにどんな彫り物してもいいって言ったでしょ。だから『龍』を彫ろうかなって」
オウライカを守れるのが、その『龍』でしかないのなら。
「……『龍』は駄目だぞ」
レシンがむっつりと唸った。
「なんで」
「そいつだけは彫れるやつが決まってる。俺でも彫れねえ」
「なんで?」
「『龍』は………贄の紋章だからな」
レシンは少しためらった後、低い声で続けた。
「俺の持ってる技術全部教えてやる。『斎京』でずっと暮らせるようにもしてやる、だから」
「、でも」
反論しようとしたカザルの目をまっすぐ見返して、レシンは静かにことばを継いだ。
「オウライカさんは諦めろ」
ぎょっとした顔でレシンが目を上げる。
「お前、めったなこと言うんじゃねえ」
「だって、トラスフィさんがそう言ったよ?」
お前の中に『龍』がいる、そいつでオウライカを護れ、って。
「トラスフィが……?」
「『龍』って何? レシンさん、何か知ってるの? 知ってるなら教えてよ」
「…………トラスフィの、馬鹿が」
「………何」
「……だからなおさらオウライカさんも」
思い悩んだ顔でレシンは手を止めて視線を遠くに遊ばせた。
「難儀な……人だなあ」
「レシンさん!」
焦れたカザルをじろりと見遣って、レシンは再び手を動かし出した。
「レシンさんっ!」
「きゃんきゃん吠えてねえで、ちゃんと仕事覚えろ、教えねえぞ」
「だって!」
「………お前、なあ」
おさまらないカザルに深々と溜め息をつく。それからふと思いついたように、
「……あれ、使ってもらったのかよ」
「あれ?」
「……一緒に渡してやったろ?」
「………あ」
蒼銀の編み目の輪を思い出して、カザルは全身熱くなった。思わず俯いてぼぞぼぞ答える。
「まだ……」
「……だろ?」
「だろ?」
「だと思ったんだ」
「だと思ったって何」
「オウライカさんが、あれ使ってねえだろ?」
「………どういうこと」
「……あれ使ってねえなら、そうじゃねえってことだろ」
「……そうじゃねえって」
嫌な冷たい空気が胸に差し込んできて、カザルは顔を引きつらせた。レシンの横顔を凝視して問いつめる。
「そうじゃねえって、どういうこと!」
「ああ、もう、っるせえなあ、お前はよぅ」
レシンはぼそりと低い声で呟いた。
「オウライカさんは………お前に惚れてねえよ」
「っっっ」
ぐさり、と一番痛いところを刺し貫かれたような気がした。じわっと滲みかけた視界を慌てて瞬きして、
「何、だよ、今さら、惚れてねえ、って。そんなこと、ずっとわかって…」
連れ帰ってくれるとは言った、けれど抱いてはくれなかった。
それが何を意味するのか、カザルなりに何度も何度も考えた。考えた末に辿りつきそうな結論を見たくなくて………こんなものを作っている。
カザルは手の中で光り始めた蒼銀の太い針を見つめた。
掌より少しはみ出るその大きさは、ミコトの物より遥かに大きく遥かに手酷い傷を負わせることができる。握ってみて指先で操ると、きらきら動くそれは『暗器』というにはあまりにも殺気立った気配を醸していて、それを使うのがカザルである以上、まぎれもなく武器として十分通用する。
『龍』なんてわからない。
守り方なんて一つしか知らない。
トラスフィやレシンのことばから、オウライカの敵がどうやら色で通じる相手でないのはわかった。ならば、カザルに残されたのは習い覚えた修羅の技を寸分ためらいなく繰り出せるようにしておくだけのことで。
正直なところ、そう思った瞬間から足の付け根のセンサーが嫌な感じで震えることが増えてきていて、どうやら『塔京』はそれを見のがしてくれないのだと感じ取った。
なら。
倒れて動けなくなる直前まで、オウライカの側にいるために。
「………『龍』を、彫ろうかな」
形だけでも、まねだけでも。
「あん?」
「これにどんな彫り物してもいいって言ったでしょ。だから『龍』を彫ろうかなって」
オウライカを守れるのが、その『龍』でしかないのなら。
「……『龍』は駄目だぞ」
レシンがむっつりと唸った。
「なんで」
「そいつだけは彫れるやつが決まってる。俺でも彫れねえ」
「なんで?」
「『龍』は………贄の紋章だからな」
レシンは少しためらった後、低い声で続けた。
「俺の持ってる技術全部教えてやる。『斎京』でずっと暮らせるようにもしてやる、だから」
「、でも」
反論しようとしたカザルの目をまっすぐ見返して、レシンは静かにことばを継いだ。
「オウライカさんは諦めろ」
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