『DRAGON NET』

segakiyui

文字の大きさ
上 下
61 / 213

33.『美姫』(2)

しおりを挟む
 しかし、ならば一層『隊長』のカークに対する勘働きは信じていいもの、かなり確実なものだということになる。なまじ側に居ないから、カークの変化をはっきり感じ取ったとも言えるかも知れない。
「……ずいぶん……綺麗ですね」
 『隊長』の意識から読み取ったカークの紋章イメージは、鮮紅色に染まったガラスの鎖だ。今にも切れそうな繊細な造りなのに、ところどころにぎちりと黒光りする金属の飾りが嵌まっている。
 昔『塔京』で出会ったカークは真っ黒で隙なく硬質な金属の細工物のようだったのに、と思い出してみて、あ、違う、と気付いた。
 この鮮紅色のガラスは硬質な金属の中にあったものだ。囲まれ守られてきちんとまとまっていたはずのものが、今はなぜか外気に晒され引き延ばされて、しかもあちこち緩んでいる。
 あえて比較すれば、この儚さは風に舞うオウライカの『蝶』に似ているかもしれないが、オウライカの『蝶』は変態と無限の転生を含み魔性の空間を軽々翔び抜ける底知れなさが怖い。それを思うと、『隊長』の中にあるこのカークのガラスの鎖は指先で絡めれば一気に砕け落ちそうだ。おまけに、
「…あ」
「何だよ、さっきから」
「……まさか……ひょっとして」
 読み取った紋章を追い掛けていたライヤーは、含まれた甘い悲鳴に気付いて丁寧に拾い上げた。それはまぎれもなく、いつかの夢に聞いた声の響きを持っている。
『いいよ、いって』
『…あ……ぁあ……っっ』
 許可を与えたのに応じ、堪え切れないように悦びの喘ぎを漏らして仰け反った身体。
「繋がった、のかな」
 けれど、まだ顔も合わせていないのにどうして。ずっと昔『塔京』に忍び込もうとして打ち据えられたときに一瞬絡んだ視線だけでは、それほどの繋ぎはつけられないだろうに。
 僅かに眉を寄せるライヤーに、『隊長』はぼそぼそと呟いた。
「ま、いいけどよ。俺でもちょっとやばい時にはやばいから、カークの間近でうろうろしてる奴はクルだろうな、あれは。けど、そんな男じゃなかったんだ。そんな男なら『塔京』を仕切れていねえはずだ」
「ふぅん」
 そんなに危うげになっている、とは。オウライカの懸念も満更外れていないということか。
「けどよ、あれは手ぇ出すもんじゃねえと思うな」
 ふぅ、と『隊長』がコップを煽って息を吐き、結論するように言い切った。
「色っぽいとか権力とかじゃなくてよ」
「……どうして?」
「あれに手を出すと、こっちの領分を侵される」
 『隊長』は冷えた目の色になった。
「魔王じゃねえよ、今のあいつはまんま魔界の入り口みてえだ」
 手を出したら最後、一気に飲み込まれて破滅するまで逃れられねえ。
 『隊長』が殺気立って呟いた低い声音には、微かだが男の欲望が動いた気配がある。ふいとそれが不愉快になった。
「いいんですか、そんなこと言って」
「あん?」
「ファローズさんはずいぶん可愛かったけど」
「っ」
 睨みつける『隊長』をしらっと見返して、
「一度だけ、追い詰めたときにいい声で呼んだ名前があるんですけど」
「なに」
 ちょいちょい、と手招きする。『隊長』が不快そうな顔をずいと近付けてくる、その耳にこっそりとその名前を囁いてやった。
「…っっ! まっ、まじっ?」
「呼んだとたんに我に返って、真っ青になって口止めされちゃいましたけど、ほら、僕は酷い男だし、今夜は酒の席だし、相手は『隊長』さんだし、ね」
「いやっ、待てっ、待てっ、ってことは、えっ、何っ、ユン、実は俺……っ」
「ファローズさんは、ほんとは僕が欲しいんじゃないと思いますよ?」
 にっこり笑ってとどめを刺すと、真っ赤になった『隊長』はいきなりがたりと椅子を立った。
「?」
 奥からビールジョッキと『流れ盛』を一升下げて戻ってくる。
「あの…」
「飲め」
「はぁっ?」
 どぼどぼとジョッキに酒を注ぎ込み、縁までなみなみと満たしてから、『隊長』はそれをライヤーの前に押し出した。
「別れの盃だ」
「ジョッキですけど」
「もう二度と戻って来るな」
「水盃っていいませんか」
「俺のおごりだ、一気にいけ」
「え、そんなのとても………仕事中ですし」
「俺の酒が飲めねえってのか」
「……飲みます」
 深く溜め息をついてジョッキを抱えたライヤーに、『隊長』はそうだそうだ、きれいに飲んで二度と帰ってくんな、なんならカークにさっさと食われて地獄の底まで落ちてこい、と大笑いした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】孕まぬΩは皆の玩具【完結】

海林檎
BL
子宮はあるのに卵巣が存在しない。 発情期はあるのに妊娠ができない。 番を作ることさえ叶わない。 そんなΩとして生まれた少年の生活は 荒んだものでした。 親には疎まれ味方なんて居ない。 「子供できないとか発散にはちょうどいいじゃん」 少年達はそう言って玩具にしました。 誰も救えない 誰も救ってくれない いっそ消えてしまった方が楽だ。 旧校舎の屋上に行った時に出会ったのは 「噂の玩具君だろ?」 陽キャの三年生でした。

少年人形の調教録。

まぐろ
BL
お手伝いロボットを性処理用人形に堕とす。 ロボットに感情、心をつけたら人間みたいになってきたから心のあるものを合法的にモノ扱いしてみた。 ※♡喘ぎ

【R18】奴隷に堕ちた騎士

蒼い月
BL
気持ちはR25くらい。妖精族の騎士の美青年が①野盗に捕らえられて調教され②闇オークションにかけられて輪姦され③落札したご主人様に毎日めちゃくちゃに犯され④奴隷品評会で他の奴隷たちの特殊プレイを尻目に乱交し⑤縁あって一緒に自由の身になった両性具有の奴隷少年とよしよし百合セックスをしながらそっと暮らす話。9割は愛のないスケベですが、1割は救済用ラブ。サブヒロインは主人公とくっ付くまで大分可哀想な感じなので、地雷の気配を感じた方は読み飛ばしてください。 ※主人公は9割突っ込まれてアンアン言わされる側ですが、終盤1割は突っ込む側なので、攻守逆転が苦手な方はご注意ください。 誤字報告は近況ボードにお願いします。無理やり何となくハピエンですが、不幸な方が抜けたり萌えたりする方は3章くらいまでをおススメします。 ※無事に完結しました!

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

新しいパパは超美人??~母と息子の雌堕ち記録~

焼き芋さん
BL
ママが連れてきたパパは超美人でした。 美しい声、引き締まったボディ、スラリと伸びた美しいおみ足。 スタイルも良くママよりも綺麗…でもそんなパパには太くて立派なおちんちんが付いていました。 これは…そんなパパに快楽地獄に堕とされた母と息子の物語… ※DLsite様でCG集販売の予定あり

永遠の快楽

桜小路勇人/舘石奈々
BL
万引きをしたのが見つかってしまい脅された「僕」がされた事は・・・・・ ※タイトル変更しました※ 全11話毎日22時に続話更新予定です

僕の調教監禁生活。

まぐろ
BL
ごく普通の中学生、鈴谷悠佳(すずやはるか)。 ある日、見ず知らずのお兄さんに誘拐されてしまう! ※♡喘ぎ注意です 若干気持ち悪い描写(痛々しい?)あるかもです。

真・身体検査

RIKUTO
BL
とある男子高校生の身体検査。 特別に選出されたS君は保健室でどんな検査を受けるのだろうか?

処理中です...