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27.『爆弾』(2)
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「こいつ、こいつふざけてますよね、隊長っ」
「今日は出直しって、じゃあ、こいつ今夜もファローズさんとこ泊まる気なんすね」
「泊まるって、おい、そんな隊長の前でっ」
「あっ、いやっ、そんなつもりなくってですね」
「そんなつもりがなけりゃどんなつもりだよ、そんなこと言ってファローズさんがこいつと出来てたら」
「こらっ、すいやせんっ、隊長、今のなかったことにしてっ」
「そうですよっ、そんなほいほいファローズさんがこんな奴に」
「第一こいつがそんなことできるかって」
「できねえよな、こんな細っこいのが」
「あ、でもしちゃってますけど」
「えっ」
「しちゃったって、おいっ、てめえいい加減なこと言うとこの場で爆弾括りつけっぞ」
「隊長の前で何言い出すんだっ、てめっ」
「うるせえって言ってっだろがっ!!」
『隊長』が薄赤くなりながら怒鳴った。今度は一気に男達がテーブル向こうに退避する。ごほ、と咳き込んだ『隊長』が男達に、てめえらいいから黙ってろ、と命じてライヤーに向き直る。
「………あー、まー、そんなことはどうでもいい」
「どうでもいいんですか」
「…てめえが確認すんな」
「すみません」
「……俺が言いたいのはだな……」
「ダルクっ!」
『隊長』が話し掛けたとたんに、ドアがけたたましく開いて、一人の男が飛び込んできた。白髪の頭は染めているのか、黒づくめの格好に死神のような気配だ。
「覚悟っ!」
「はぁ?」
「なんだよ、てめ」
「ここを『ダルク』と知って……っ」
ごそごそ立ち上がりかけた男達が、相手の抱えているものに息を飲む。
「……んだ、てめえ」
「へ、へへ、あの世に行きやがれっ」
男がけたけたと笑い出して、左手に抱えた鞄にぎっしり詰め込んだ花火のようなものを見せびらかしながら、ライターを点ける。舌打ちした『隊長』が低い声で唸る。
「馬鹿やろう、そいつに火なんかつけたらてめえどころか、この建物ごと吹っ飛ぶぞ」
「でっかい花火を打ち上げてやら……っ、なんだ、てめえっっ」
「『花火』、か」
男が『隊長』と周囲に気を取られている間にするりと席を立ったライヤーは一気に間合いを詰めて、男の正面から覗き込んだ。ぎょっとしたように男が目を見開く、その一瞬で目から奥まで意識の腕を突っ込んで、男の焦点を掴む。にこり、と笑って爆弾に手を載せ、ゆっくり静かに繰り返した。
「『花火』、だね」
「て、てめえっ」
「それに火を点けたいの? いいね、助けてあげるよ」
「ライっ」
「さ、火を点けて」
「ばかやろっ、何をっ」
背後の悲鳴に笑みを深めて、男の中の『花火』を握り締める。男が操られたようにライヤーを見上げ、次第に細かく震え出す。じっとり冷や汗を滲ませながら、必死に手に力を込めようとするが叶わず、指先からライターを滑り落とした。
「ちいっ!」
がきっ。
床に落ちて滑ったライターを後ろの一人が蹴り飛ばし、すかさず『隊長』が駆け寄ってくるのをライヤーは軽く指先で制する。
「さあ」
「あ……あぅ……」
「点けてごらん?」
「う……う……」
男の目がすうっと細くなる。焦点が緩み虚ろになった瞬間、ライヤーは男の鞄を引っ張り、力の抜けた腕から奪った。背後へ無造作に投げる、それをうわ、と慌てて背後で受け取る気配を確認してから、男の耳元へ静かに囁いた。
「ほら………破裂した、ばん」
「ひ!」
「綺麗だったね?」
「………」
くるっと男が白目を剥いて、そのままぐずぐず崩れ落ちるのに、背後が静まり返る。
ライヤーはゆっくり振り返って『隊長』を見た。柔らかく笑って尋ねてみる。
「病院連れていきます? 手遅れかもしれないですけど」
「……何を……した……」
「何も? 『花火』を打ち上げるのを手伝っただけです」
蒼白な顔の『隊長』がのろのろと手を伸ばし、ぎゅ、とライヤーの腕を掴んだ。隊長っ、危ねえ、そいつっ、と声が上がるのを、
「るせえっ」
激しい一声で制す。男達が声も出ずに固まる。じっとライヤーを見つめたまま、『隊長』が低い声で呟いた。
「………ユンに何をした」
「……」
微笑むライヤーになお厳しい顔になる。
「お前の狙いは何だ」
「……ファローズさんじゃありませんよ。もう、ファローズさんには手を出さないって約束します」
安心させるように声に強さを込めると、相手の汗の滲んだ顔が軽くひきつった。
「……本当だな」
「ええ」
「……じゃあ、エバンスんところには俺が連れてってやるから、ここに居ろ」
「いいんですか?」
『隊長』は凍りつくような目でライヤーを凝視しながら吐いた。
「お前みたいな『仕掛け』は俺の方が専門だ」
「今日は出直しって、じゃあ、こいつ今夜もファローズさんとこ泊まる気なんすね」
「泊まるって、おい、そんな隊長の前でっ」
「あっ、いやっ、そんなつもりなくってですね」
「そんなつもりがなけりゃどんなつもりだよ、そんなこと言ってファローズさんがこいつと出来てたら」
「こらっ、すいやせんっ、隊長、今のなかったことにしてっ」
「そうですよっ、そんなほいほいファローズさんがこんな奴に」
「第一こいつがそんなことできるかって」
「できねえよな、こんな細っこいのが」
「あ、でもしちゃってますけど」
「えっ」
「しちゃったって、おいっ、てめえいい加減なこと言うとこの場で爆弾括りつけっぞ」
「隊長の前で何言い出すんだっ、てめっ」
「うるせえって言ってっだろがっ!!」
『隊長』が薄赤くなりながら怒鳴った。今度は一気に男達がテーブル向こうに退避する。ごほ、と咳き込んだ『隊長』が男達に、てめえらいいから黙ってろ、と命じてライヤーに向き直る。
「………あー、まー、そんなことはどうでもいい」
「どうでもいいんですか」
「…てめえが確認すんな」
「すみません」
「……俺が言いたいのはだな……」
「ダルクっ!」
『隊長』が話し掛けたとたんに、ドアがけたたましく開いて、一人の男が飛び込んできた。白髪の頭は染めているのか、黒づくめの格好に死神のような気配だ。
「覚悟っ!」
「はぁ?」
「なんだよ、てめ」
「ここを『ダルク』と知って……っ」
ごそごそ立ち上がりかけた男達が、相手の抱えているものに息を飲む。
「……んだ、てめえ」
「へ、へへ、あの世に行きやがれっ」
男がけたけたと笑い出して、左手に抱えた鞄にぎっしり詰め込んだ花火のようなものを見せびらかしながら、ライターを点ける。舌打ちした『隊長』が低い声で唸る。
「馬鹿やろう、そいつに火なんかつけたらてめえどころか、この建物ごと吹っ飛ぶぞ」
「でっかい花火を打ち上げてやら……っ、なんだ、てめえっっ」
「『花火』、か」
男が『隊長』と周囲に気を取られている間にするりと席を立ったライヤーは一気に間合いを詰めて、男の正面から覗き込んだ。ぎょっとしたように男が目を見開く、その一瞬で目から奥まで意識の腕を突っ込んで、男の焦点を掴む。にこり、と笑って爆弾に手を載せ、ゆっくり静かに繰り返した。
「『花火』、だね」
「て、てめえっ」
「それに火を点けたいの? いいね、助けてあげるよ」
「ライっ」
「さ、火を点けて」
「ばかやろっ、何をっ」
背後の悲鳴に笑みを深めて、男の中の『花火』を握り締める。男が操られたようにライヤーを見上げ、次第に細かく震え出す。じっとり冷や汗を滲ませながら、必死に手に力を込めようとするが叶わず、指先からライターを滑り落とした。
「ちいっ!」
がきっ。
床に落ちて滑ったライターを後ろの一人が蹴り飛ばし、すかさず『隊長』が駆け寄ってくるのをライヤーは軽く指先で制する。
「さあ」
「あ……あぅ……」
「点けてごらん?」
「う……う……」
男の目がすうっと細くなる。焦点が緩み虚ろになった瞬間、ライヤーは男の鞄を引っ張り、力の抜けた腕から奪った。背後へ無造作に投げる、それをうわ、と慌てて背後で受け取る気配を確認してから、男の耳元へ静かに囁いた。
「ほら………破裂した、ばん」
「ひ!」
「綺麗だったね?」
「………」
くるっと男が白目を剥いて、そのままぐずぐず崩れ落ちるのに、背後が静まり返る。
ライヤーはゆっくり振り返って『隊長』を見た。柔らかく笑って尋ねてみる。
「病院連れていきます? 手遅れかもしれないですけど」
「……何を……した……」
「何も? 『花火』を打ち上げるのを手伝っただけです」
蒼白な顔の『隊長』がのろのろと手を伸ばし、ぎゅ、とライヤーの腕を掴んだ。隊長っ、危ねえ、そいつっ、と声が上がるのを、
「るせえっ」
激しい一声で制す。男達が声も出ずに固まる。じっとライヤーを見つめたまま、『隊長』が低い声で呟いた。
「………ユンに何をした」
「……」
微笑むライヤーになお厳しい顔になる。
「お前の狙いは何だ」
「……ファローズさんじゃありませんよ。もう、ファローズさんには手を出さないって約束します」
安心させるように声に強さを込めると、相手の汗の滲んだ顔が軽くひきつった。
「……本当だな」
「ええ」
「……じゃあ、エバンスんところには俺が連れてってやるから、ここに居ろ」
「いいんですか?」
『隊長』は凍りつくような目でライヤーを凝視しながら吐いた。
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