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101.『炎熱に侵されるなかれ』(1)
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「あれは、もう一つの時間だったんじゃないかと思う」
床に横たえられたカザルの枕元で、オウライカはレシン、ミコト、トラスフィに口を開く。
「うまく言えないが、二つに分かれた竜がそれぞれに持っていた別の世界の結末、というか」
レシンと一緒に見た『紋章』は現実と僅かにずれていたが、全く違う現実ではなかった、とレシンも認めた。
もし、オウライカが目覚めなければ起こっていた、もう一つの展開。
「竜が六体居るってことか?」
「いや…一体の竜は双頭だった、という可能性だ」
それは『塔京』の白竜ではないし、『斎京』の赤竜でもない。
「カザルは竜に属する贄の一人で、『黒竜』か『青竜』か、ということか?」
「想像でしかないが」
そしてこれもうまく説明できないが、
「カザルの中身は、あそこにあるような気がする」
「あそこって……え、あの」
「お月様…?」
「ああ…なるほど」
レシンだけがはっとした顔で頷く。
「そういう読み解きか」
「いや待て、待てって」
トラスフィが混乱した様子で手を振った。
「中身がってのも随分な話けどよ、月にあるって言われても、どうやって取り返すよ?」
さすがにお月さんまで打ち出せる銃なんてのはねえしよ。
「外側はお前が連れ戻してくれた」
「ああ、蔦のジャングルに宙ぶらりんになってて大変だったけどな」
「呼吸はしている、体温もある、まだ今は」
「『夢喰い』にやられたようなもんだよな」
「そうだ」
取り戻さなければ、遅かれ早かれ全てが持っていかれる。
オウライカはそっとカザルの額に触れた。
凍ったように冷たい、だがまだ固まったりしていない。
「…取り戻す」
「わかった、けど、どうやって」
「幸に通路がある」
にやりと笑って左目の眼帯を指先で叩いて見せると、トラスフィががくんと口を開いた。
「待て」
「左半分手渡し済みだ、嫌とは言うまい」
「嫌どころか諸手上げて迎えるだろうさ、けどよ、オウライカ」
トラスフィが必死に言葉を継ぐ。
「カザルが帰って来た時、あんたがいなけりゃ同じことだぜ?」
「…」「…」
「何、何だよ、おかしな顔して、レシン、オウライカ」
同時にトラスフィを見た二人は、またも同時にお互いを見遣った。
「同じこと、か」
「だな、見事に重なってるぜ」
「どういうことだってよ!」
「はいはい、子どもはきゃんきゃん騒がないの」
ミコトがひらひらと手を振った。
「あんたにしちゃ、珍しくまともなことを言ったと思ったのに、無意識だったのね、かわいそうに」
「可哀想って何だよ!」
「安心しろ、トラスフィ」
オウライカは微笑んだ。
「やるべきことも手法もわかっている。ちゃんとカザルを連れて戻ってくる」
「お、おう」
「それまで『斎京』の護りを頼めるか」
時間がかかるかも知れない。
言い放つと、トラスフィは一瞬口を噤み、座り直した。正座した両膝に拳を置き、深々と頭を下げる。
「『紅蓮』隊長、シード・トラスフィ、確かに『斎京』の守護を請け負った。主オウライカ帰還まで、『塔京』は元より、この『斎京』には如何なる敵も侵入を許さない」
「頼む」
オウライカは立ち上がった。
「ミコト」
「はい」
「湯を整えてくれ」
「ご用意しております」
着替えてきたミコトの薄紫の着物に、オウライカは静かに頷いた。
床に横たえられたカザルの枕元で、オウライカはレシン、ミコト、トラスフィに口を開く。
「うまく言えないが、二つに分かれた竜がそれぞれに持っていた別の世界の結末、というか」
レシンと一緒に見た『紋章』は現実と僅かにずれていたが、全く違う現実ではなかった、とレシンも認めた。
もし、オウライカが目覚めなければ起こっていた、もう一つの展開。
「竜が六体居るってことか?」
「いや…一体の竜は双頭だった、という可能性だ」
それは『塔京』の白竜ではないし、『斎京』の赤竜でもない。
「カザルは竜に属する贄の一人で、『黒竜』か『青竜』か、ということか?」
「想像でしかないが」
そしてこれもうまく説明できないが、
「カザルの中身は、あそこにあるような気がする」
「あそこって……え、あの」
「お月様…?」
「ああ…なるほど」
レシンだけがはっとした顔で頷く。
「そういう読み解きか」
「いや待て、待てって」
トラスフィが混乱した様子で手を振った。
「中身がってのも随分な話けどよ、月にあるって言われても、どうやって取り返すよ?」
さすがにお月さんまで打ち出せる銃なんてのはねえしよ。
「外側はお前が連れ戻してくれた」
「ああ、蔦のジャングルに宙ぶらりんになってて大変だったけどな」
「呼吸はしている、体温もある、まだ今は」
「『夢喰い』にやられたようなもんだよな」
「そうだ」
取り戻さなければ、遅かれ早かれ全てが持っていかれる。
オウライカはそっとカザルの額に触れた。
凍ったように冷たい、だがまだ固まったりしていない。
「…取り戻す」
「わかった、けど、どうやって」
「幸に通路がある」
にやりと笑って左目の眼帯を指先で叩いて見せると、トラスフィががくんと口を開いた。
「待て」
「左半分手渡し済みだ、嫌とは言うまい」
「嫌どころか諸手上げて迎えるだろうさ、けどよ、オウライカ」
トラスフィが必死に言葉を継ぐ。
「カザルが帰って来た時、あんたがいなけりゃ同じことだぜ?」
「…」「…」
「何、何だよ、おかしな顔して、レシン、オウライカ」
同時にトラスフィを見た二人は、またも同時にお互いを見遣った。
「同じこと、か」
「だな、見事に重なってるぜ」
「どういうことだってよ!」
「はいはい、子どもはきゃんきゃん騒がないの」
ミコトがひらひらと手を振った。
「あんたにしちゃ、珍しくまともなことを言ったと思ったのに、無意識だったのね、かわいそうに」
「可哀想って何だよ!」
「安心しろ、トラスフィ」
オウライカは微笑んだ。
「やるべきことも手法もわかっている。ちゃんとカザルを連れて戻ってくる」
「お、おう」
「それまで『斎京』の護りを頼めるか」
時間がかかるかも知れない。
言い放つと、トラスフィは一瞬口を噤み、座り直した。正座した両膝に拳を置き、深々と頭を下げる。
「『紅蓮』隊長、シード・トラスフィ、確かに『斎京』の守護を請け負った。主オウライカ帰還まで、『塔京』は元より、この『斎京』には如何なる敵も侵入を許さない」
「頼む」
オウライカは立ち上がった。
「ミコト」
「はい」
「湯を整えてくれ」
「ご用意しております」
着替えてきたミコトの薄紫の着物に、オウライカは静かに頷いた。
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