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99.『昔日を懐かしむなかれ』(1)
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くるりと蒼銀の輪が記憶に巻かれた。
これは?
訝るオウライカの意識にレシンが微かに笑う。
なんだなんだ、『そういうもの』でしかないと思ってたのか?
これは精を漏らさぬもの。
そうか、生を洩らさないもの、だったのか。
あんたは気付いていなかったようだが、あの時あんたは、『斎京』に新しい意味を加えてくれたんだぜ。
繰り返しやってくる贄の主を見送るだけしかできない死に至る都だったこの都市に、初めて未来を臨ませた。
ただの一頭でいい。
俺達はこの人の蝶を辿り着かせてやりたい、長い旅路の果ての大地へ。
子孫を育み時間を紡げる巨木に。
無論、俺達の命は儚い。
竜が暴れれば、瞬時に消え去るしかない。
けれど罪悪感を引き換えに生きるのは、もういい加減飽きてきた。
消えてやろうじゃないか、この人の下で。
使い切ってやろうじゃないか、この命を。
後ひとつのきっかけさえあれば、事は成る。
記憶がレシンとかぶさりながら広がっていく。
拾ったライヤーが『夢喰い』に食まれた。
その知らせはすぐにオウライカに届いた。
生きる気力が日に日に落ちていた。仕事はしていたが、生きる意味を失っていた。
『入る』
『そりゃ無茶だ』
上着を脱ぎ捨てベスト姿で、床に横たわるライヤーを覗き込むオウライカをレシンは止めた。
『第一「夢喰い」にやられて戻った奴はいねえ』
止めながらレシンは内側で昂っていた。
オウライカは既に『紋章』の扱いも『斎京』の連中を越えている。
竜は中身を喰っていく。
残った外側は数時間内に朽ちていく。
『夢喰い』が竜に繋がっているのは『斎京』では知られた話だ。
ライヤーが『夢喰い』にやられて、しかもまだ消え失せてないと言うことは、一つの可能性を告げている。
ライヤーもまた贄に関わる存在で、しかもオウライカの代用となれるかもしれない。
このままライヤーを見殺しにすればいい、オウライカは生き残る、所詮ライヤーは『塔京』からの流れ者だ。
『違う』
オウライカは動じた様子さえなかった。
『既に私の支配下にある。あなたと同じように』
同じことではないのかと詰られた気がした。
他の命を引き換えに生き延びる、オウライカでないだけで違いはなかろうと。
それ、を止めるつもりではなかったのか。
『けれど、他の方法が見つからねえ』
『他の方法などはなから無い』
オウライカは切り捨てた。
『あれば、今まで誰も贄などになっていない』
それに、本当に正しいのか?
問われてレシンは困惑し、すぐに気づく。
『竜は本当に私でなくても満たされるのか?』
誰も試したことがない、保証がない、けれどオウライカが助かるならば、この『斎京』は皆の命を賭けてもいい。
『差し引きで十分じゃねえか』
『違う』
静かな黒い瞳が見返す。
『ライヤーが犠牲になっている』
『あ』
望みも納得もしていない運命に散々弄ばれて刻まれて、ようやくここまで生き延びたのに、叶うかどうかわからない賭けに再び差し出されているではないか。
『私は同意しない』
私が、このログ・オウライカが身柄を預かっているのだぞ?
『ライヤーが今竜に食まれつつあるのなら、それは私の代行を勤めてくれていると言うことだ。主が戻れば代行は引く、当然のことではないか』
さあ、取り戻してこよう、私の影を。
ライヤーに屈み込むオウライカを、レシンはもう止められなかった。
綺麗すぎる。
あんた、綺麗すぎるぜ、オウライカさん。
わかっていた、だからこそ、皆が覚悟を決めようとした、この人になら命を預けようと決心できた。
できるなら無傷で戻って欲しかった。
どれほど無茶な願いであっても、竜に繋がれることなく戻って欲しかった。
けれど。
『…すまん。…左手を持って行かれたようだ…』
『…オウライカ…さん…っ!!』
竜はオウライカの味を覚えた。
もう贄が誰かに代わることはない。
これは?
訝るオウライカの意識にレシンが微かに笑う。
なんだなんだ、『そういうもの』でしかないと思ってたのか?
これは精を漏らさぬもの。
そうか、生を洩らさないもの、だったのか。
あんたは気付いていなかったようだが、あの時あんたは、『斎京』に新しい意味を加えてくれたんだぜ。
繰り返しやってくる贄の主を見送るだけしかできない死に至る都だったこの都市に、初めて未来を臨ませた。
ただの一頭でいい。
俺達はこの人の蝶を辿り着かせてやりたい、長い旅路の果ての大地へ。
子孫を育み時間を紡げる巨木に。
無論、俺達の命は儚い。
竜が暴れれば、瞬時に消え去るしかない。
けれど罪悪感を引き換えに生きるのは、もういい加減飽きてきた。
消えてやろうじゃないか、この人の下で。
使い切ってやろうじゃないか、この命を。
後ひとつのきっかけさえあれば、事は成る。
記憶がレシンとかぶさりながら広がっていく。
拾ったライヤーが『夢喰い』に食まれた。
その知らせはすぐにオウライカに届いた。
生きる気力が日に日に落ちていた。仕事はしていたが、生きる意味を失っていた。
『入る』
『そりゃ無茶だ』
上着を脱ぎ捨てベスト姿で、床に横たわるライヤーを覗き込むオウライカをレシンは止めた。
『第一「夢喰い」にやられて戻った奴はいねえ』
止めながらレシンは内側で昂っていた。
オウライカは既に『紋章』の扱いも『斎京』の連中を越えている。
竜は中身を喰っていく。
残った外側は数時間内に朽ちていく。
『夢喰い』が竜に繋がっているのは『斎京』では知られた話だ。
ライヤーが『夢喰い』にやられて、しかもまだ消え失せてないと言うことは、一つの可能性を告げている。
ライヤーもまた贄に関わる存在で、しかもオウライカの代用となれるかもしれない。
このままライヤーを見殺しにすればいい、オウライカは生き残る、所詮ライヤーは『塔京』からの流れ者だ。
『違う』
オウライカは動じた様子さえなかった。
『既に私の支配下にある。あなたと同じように』
同じことではないのかと詰られた気がした。
他の命を引き換えに生き延びる、オウライカでないだけで違いはなかろうと。
それ、を止めるつもりではなかったのか。
『けれど、他の方法が見つからねえ』
『他の方法などはなから無い』
オウライカは切り捨てた。
『あれば、今まで誰も贄などになっていない』
それに、本当に正しいのか?
問われてレシンは困惑し、すぐに気づく。
『竜は本当に私でなくても満たされるのか?』
誰も試したことがない、保証がない、けれどオウライカが助かるならば、この『斎京』は皆の命を賭けてもいい。
『差し引きで十分じゃねえか』
『違う』
静かな黒い瞳が見返す。
『ライヤーが犠牲になっている』
『あ』
望みも納得もしていない運命に散々弄ばれて刻まれて、ようやくここまで生き延びたのに、叶うかどうかわからない賭けに再び差し出されているではないか。
『私は同意しない』
私が、このログ・オウライカが身柄を預かっているのだぞ?
『ライヤーが今竜に食まれつつあるのなら、それは私の代行を勤めてくれていると言うことだ。主が戻れば代行は引く、当然のことではないか』
さあ、取り戻してこよう、私の影を。
ライヤーに屈み込むオウライカを、レシンはもう止められなかった。
綺麗すぎる。
あんた、綺麗すぎるぜ、オウライカさん。
わかっていた、だからこそ、皆が覚悟を決めようとした、この人になら命を預けようと決心できた。
できるなら無傷で戻って欲しかった。
どれほど無茶な願いであっても、竜に繋がれることなく戻って欲しかった。
けれど。
『…すまん。…左手を持って行かれたようだ…』
『…オウライカ…さん…っ!!』
竜はオウライカの味を覚えた。
もう贄が誰かに代わることはない。
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