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96.『天空で踊るなかれ』(1)
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ああ、俺死んじゃったのかな。
カザルがそう思ったのは、真っ暗な空間を飛翔していたからだ。
闇? ううん、何だろう、星、が見える?
周囲の空間は渺々と広く、凄まじい速さで移動しているようなのに、物音一つ、風の動きさえ感じない。遠く近くに点々と光る輝きは、一瞬にして飛び去るもの、あるいは全く動かないようにさえ見えるものと様々だが、どれ一つも瞬かない。
『あたりまえだよ、宇宙だから』
誰かが笑う。
宇宙?
『不思議じゃない? 大気の揺れがあの輝きを生み出すのよ』
窓に差し伸べられた細い指先を掴み、唇に含む。相手は溜め息をついて寝返りを打ち、こちらを振り向きながら微笑む。
『見えないものがきっと美しいものを守ってるのね』
『そらのように?』
『あなたのように』
寄せられた唇に体が疼く。
可哀想なあかね。
あかねって、誰。
カザルが瞬きすると映像は消えた。代わりに頬に伝わる熱い雫。
『失ってしまった』
頭を抱えて嘆く。
『僕は、そらを、失ってしまった』
大事だったのに。かけがえなかったのに。結びつく方法を探していたはずなのに、間違った方法で近づいてしまった。
馬鹿じゃん。
カザルは嘲笑う。
大事な人の女と寝たの。それで大事な人に近づいたつもりだったの。
『それしかなかった』
そんなことない。
『受け入れてもらえなかった』
間違ってるよ、あんた。
『一所懸命考えて頑張ってきたんだ』
わかる、けれど、馬鹿だ、あんた。
脳裏にオウライカの笑顔が浮かんだ。
俺はもう戻れないけど、俺はでもオウライカさんしか欲しがらなかった、そこは誇っていいと思うんだ。結ばれない運命とか満たされない体とか受け入れられない心とか、そりゃ切ないことは一杯あるけど、それでも俺はオウライカさんが一番欲しかった、それだけは間違わなかったから。
声はしばらく沈黙した。
再びカザルは駆け抜けていく星星に見とれる。
飛翔というより跳ね飛ばされているんだ、きっと。あの竜に銜えられて、そのまま空のうんと高いところへ飛ばされていっているんだ。
見回していた視線をふっと下に降ろすと青くてキラキラ光る丸い水滴が見えた。白い靄に包まれているところ、ところどころ薄茶色に煙っているところ、それでもその色が他のどんな星より蒼い。
と、唐突に光がその表面に走った。
あ、ひび割れる。
稲妻のように網となって光が水滴を取り囲む。まるで、金のネットに包まれた青い卵みたいだ。
中央に突然赤い光が瞬いた。ぎらぎらする光を放ちながら、花びらのように水滴の表面を覆って広がっていく。
『飢峡』みたい。あっちは青だけど。
オウライカが振り撒いた血を思い出した。花びら濡らし滴った紅蓮。
その華の中央に尖った金色の花弁のようなものが立ち上がった。眩く光りながら宇宙へ向かって、いや、カザルを目指すように駆け上がってくる。
黄金竜。
ふいに、そのことばが脳裏に閃いた途端、カザルは背中から激しく何かに叩きつけられた。
ぐ、わっっ。
背骨がへし折れるほどの衝撃。岩を跳ね飛ばし、埃を立ちのぼらせ、なお速度が衰えないまま押しつけられて背後の地面に捩じ込まれる。
うあっあっあっあっ。
皮膚が剥がれ身が裂かれた。骨が砕かれ、内蔵に突き刺さる。文字通り粉砕していく体に意識が飛ぶ。
『それってどういう話なんだ?』
『グッダのことか?』
あれ?
トラスフィの声、だよね?
『いや、黄金竜の話』
黄金竜。
ぶつっと嫌な音をたてて自分の首が転がった。
カザルがそう思ったのは、真っ暗な空間を飛翔していたからだ。
闇? ううん、何だろう、星、が見える?
周囲の空間は渺々と広く、凄まじい速さで移動しているようなのに、物音一つ、風の動きさえ感じない。遠く近くに点々と光る輝きは、一瞬にして飛び去るもの、あるいは全く動かないようにさえ見えるものと様々だが、どれ一つも瞬かない。
『あたりまえだよ、宇宙だから』
誰かが笑う。
宇宙?
『不思議じゃない? 大気の揺れがあの輝きを生み出すのよ』
窓に差し伸べられた細い指先を掴み、唇に含む。相手は溜め息をついて寝返りを打ち、こちらを振り向きながら微笑む。
『見えないものがきっと美しいものを守ってるのね』
『そらのように?』
『あなたのように』
寄せられた唇に体が疼く。
可哀想なあかね。
あかねって、誰。
カザルが瞬きすると映像は消えた。代わりに頬に伝わる熱い雫。
『失ってしまった』
頭を抱えて嘆く。
『僕は、そらを、失ってしまった』
大事だったのに。かけがえなかったのに。結びつく方法を探していたはずなのに、間違った方法で近づいてしまった。
馬鹿じゃん。
カザルは嘲笑う。
大事な人の女と寝たの。それで大事な人に近づいたつもりだったの。
『それしかなかった』
そんなことない。
『受け入れてもらえなかった』
間違ってるよ、あんた。
『一所懸命考えて頑張ってきたんだ』
わかる、けれど、馬鹿だ、あんた。
脳裏にオウライカの笑顔が浮かんだ。
俺はもう戻れないけど、俺はでもオウライカさんしか欲しがらなかった、そこは誇っていいと思うんだ。結ばれない運命とか満たされない体とか受け入れられない心とか、そりゃ切ないことは一杯あるけど、それでも俺はオウライカさんが一番欲しかった、それだけは間違わなかったから。
声はしばらく沈黙した。
再びカザルは駆け抜けていく星星に見とれる。
飛翔というより跳ね飛ばされているんだ、きっと。あの竜に銜えられて、そのまま空のうんと高いところへ飛ばされていっているんだ。
見回していた視線をふっと下に降ろすと青くてキラキラ光る丸い水滴が見えた。白い靄に包まれているところ、ところどころ薄茶色に煙っているところ、それでもその色が他のどんな星より蒼い。
と、唐突に光がその表面に走った。
あ、ひび割れる。
稲妻のように網となって光が水滴を取り囲む。まるで、金のネットに包まれた青い卵みたいだ。
中央に突然赤い光が瞬いた。ぎらぎらする光を放ちながら、花びらのように水滴の表面を覆って広がっていく。
『飢峡』みたい。あっちは青だけど。
オウライカが振り撒いた血を思い出した。花びら濡らし滴った紅蓮。
その華の中央に尖った金色の花弁のようなものが立ち上がった。眩く光りながら宇宙へ向かって、いや、カザルを目指すように駆け上がってくる。
黄金竜。
ふいに、そのことばが脳裏に閃いた途端、カザルは背中から激しく何かに叩きつけられた。
ぐ、わっっ。
背骨がへし折れるほどの衝撃。岩を跳ね飛ばし、埃を立ちのぼらせ、なお速度が衰えないまま押しつけられて背後の地面に捩じ込まれる。
うあっあっあっあっ。
皮膚が剥がれ身が裂かれた。骨が砕かれ、内蔵に突き刺さる。文字通り粉砕していく体に意識が飛ぶ。
『それってどういう話なんだ?』
『グッダのことか?』
あれ?
トラスフィの声、だよね?
『いや、黄金竜の話』
黄金竜。
ぶつっと嫌な音をたてて自分の首が転がった。
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