『segakiyui短編集』

segakiyui

文字の大きさ
上 下
112 / 117

SSS81『不死族』

しおりを挟む
記録No.200502
 今日初めて、かねてより探索中の不死族の手掛かりらしいものを掴んだ。
 先生はよく仰っていたものだが、インカの多くの男達は一体どこへ行ったのかと言うことは、私の研究テーマの一つになっていた。遺跡で見つかった体はあまりにも女性のものが多かった。スペイン侵略により、奴隷として連れ去られたのか? いや、そんな形跡は見つかっていない。
 先生は、考古学における深遠な見識と、詩人のような素朴で自由、豊かな想像力を備えた方だった。最近発掘されたデ・ヨング遺跡、ドリアヌル遺跡、そして我が日本における三楽山遺跡の岩石加工に極めて類似した、極限してしまえば全く同一の技術が使われていることを指摘された後、これは一つの仮定だがと前置きして、一つの『おとぎ話』をして下さった。
 インカ帝国における、あの素晴らしい岩石加工技術は万人が習得していたのではなく、ある特殊な集団によって行われていたものだった。インカがピサロの破壊を辞さぬ手にかかった時、国王は密かにその集団を逃した。一つは侵略者の手に素晴らしい技術を渡さぬため、もう一つは帝国再建のためである。結局王の願いの一つは虚しくインカは滅びたが、集団は生き永らえた。彼らが如何にして、インカを狙う大国の目から隠れおおせたかは明らかではないし、その時代に如何なる交通手段を用いたのかわからないが、彼らは世界中に逃げ延びた。
 彼らがもう安全だと見て、その技術を周囲の民に貸したのは、遺跡の技術を見るとそこから500年後だと思われる。彼らの技術は全く衰えていなかった。なぜなら、その500年後の彼らは、インカを脱出した彼らと同一人物、つまり彼らは不死族だったのだ………。
 私はこの『おとぎ話』に夢中になり、先生亡き後も一人で研究を続けていたが、本日不死族と思われる人々の出現前後に、大きな白い鳥が飛んだと言う記録が、一つの例外もなくあることを確認した。これはひょっとして、彼らが生き延び世界中に散った理由を示す何かではないだろうか。

記録No.200503
 たぶん、これが最後の記録になるだろう。
 第六次アジア局部戦争が勃発、アジアの規定範囲のものは全て戦争に巻き込まれることを覚悟しなくてはならない。忌むべき習慣だ。人類が、100年に1度以上、核戦争に発展しない戦争を必要とすると結論したのが、事もあろうに全世界平和会議だとは! 『競争意識』の抹消のために、人為的計画的に戦争を起こすことの愚かさよ! ああ、私はもっと早く、彼ら、不死族を発見するべきであった。そうすれば、会議の言うところの『競争意識』は不死族を対象としたものになり、世界はもう少し微妙な色合いになっていただろう。
 時間がない。私は急いで、今日見たことを書き留めておこう。
 断言する、私は先生の仮説の『如何にして大国の目から逃れ世界へ散ったか』を完全に説明できる。彼ら不死族の特性の一つに変身(メタモルフォーゼ)があったのだ。どのようなものにも、思うだけで、つまりは想念エネルギーによって、自らを変身させられるとすれば、大国の目どころか以前の自分を知る何ものからも逃れ得るし、鳥、あるいは翼が欲しいと願えば、どこへでも行ける。
 冗談ではない。私はこの目で見た。焼け跡から煤に汚れた顔をして出てきた男が、少しの間、太陽に向かい祈りを捧げた後、両手を広げた、その途端、男の逞しい褐色の腕に白い羽毛が密生し、のちには二つの翼となり、太陽の光の中で見る見る輝きを増しながら、一羽の大きな鳥となった。
 彼は少し躊躇った後、ふわりと舞い上がり、軽々と天空を駆け去ったのだ。
 こうして記録を残しながらも、未だに夢を見ている気分だ。彼らは、私達が必死の想いで呟くことを楽々と成してしまう。鳥になりたい、或いは永遠に生きたいと言う想いを。しかし、私は彼らを羨むまい。彼らは不死族の代償として、どこにも安住の地を見出せぬ悲しみを生涯抱え続けなくてはならないと考えるためだ。
 空が赤く燃えている。この辺りに砲弾が落ちてくるのも間も無くだろう。地球が滅びるとき、彼ら不死族はどこへ行くのか、限りあるこの身では問えないのが、科学者として残念だ。

                 終わり
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

隣の人妻としているいけないこと

ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。 そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。 しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。 彼女の夫がしかけたものと思われ…

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

♡ちょっとエッチなアンソロジー〜おっぱい編〜♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート詰め合わせ♡

処理中です...