『segakiyui短編集』

segakiyui

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SSS81『不死族』

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記録No.200502
 今日初めて、かねてより探索中の不死族の手掛かりらしいものを掴んだ。
 先生はよく仰っていたものだが、インカの多くの男達は一体どこへ行ったのかと言うことは、私の研究テーマの一つになっていた。遺跡で見つかった体はあまりにも女性のものが多かった。スペイン侵略により、奴隷として連れ去られたのか? いや、そんな形跡は見つかっていない。
 先生は、考古学における深遠な見識と、詩人のような素朴で自由、豊かな想像力を備えた方だった。最近発掘されたデ・ヨング遺跡、ドリアヌル遺跡、そして我が日本における三楽山遺跡の岩石加工に極めて類似した、極限してしまえば全く同一の技術が使われていることを指摘された後、これは一つの仮定だがと前置きして、一つの『おとぎ話』をして下さった。
 インカ帝国における、あの素晴らしい岩石加工技術は万人が習得していたのではなく、ある特殊な集団によって行われていたものだった。インカがピサロの破壊を辞さぬ手にかかった時、国王は密かにその集団を逃した。一つは侵略者の手に素晴らしい技術を渡さぬため、もう一つは帝国再建のためである。結局王の願いの一つは虚しくインカは滅びたが、集団は生き永らえた。彼らが如何にして、インカを狙う大国の目から隠れおおせたかは明らかではないし、その時代に如何なる交通手段を用いたのかわからないが、彼らは世界中に逃げ延びた。
 彼らがもう安全だと見て、その技術を周囲の民に貸したのは、遺跡の技術を見るとそこから500年後だと思われる。彼らの技術は全く衰えていなかった。なぜなら、その500年後の彼らは、インカを脱出した彼らと同一人物、つまり彼らは不死族だったのだ………。
 私はこの『おとぎ話』に夢中になり、先生亡き後も一人で研究を続けていたが、本日不死族と思われる人々の出現前後に、大きな白い鳥が飛んだと言う記録が、一つの例外もなくあることを確認した。これはひょっとして、彼らが生き延び世界中に散った理由を示す何かではないだろうか。

記録No.200503
 たぶん、これが最後の記録になるだろう。
 第六次アジア局部戦争が勃発、アジアの規定範囲のものは全て戦争に巻き込まれることを覚悟しなくてはならない。忌むべき習慣だ。人類が、100年に1度以上、核戦争に発展しない戦争を必要とすると結論したのが、事もあろうに全世界平和会議だとは! 『競争意識』の抹消のために、人為的計画的に戦争を起こすことの愚かさよ! ああ、私はもっと早く、彼ら、不死族を発見するべきであった。そうすれば、会議の言うところの『競争意識』は不死族を対象としたものになり、世界はもう少し微妙な色合いになっていただろう。
 時間がない。私は急いで、今日見たことを書き留めておこう。
 断言する、私は先生の仮説の『如何にして大国の目から逃れ世界へ散ったか』を完全に説明できる。彼ら不死族の特性の一つに変身(メタモルフォーゼ)があったのだ。どのようなものにも、思うだけで、つまりは想念エネルギーによって、自らを変身させられるとすれば、大国の目どころか以前の自分を知る何ものからも逃れ得るし、鳥、あるいは翼が欲しいと願えば、どこへでも行ける。
 冗談ではない。私はこの目で見た。焼け跡から煤に汚れた顔をして出てきた男が、少しの間、太陽に向かい祈りを捧げた後、両手を広げた、その途端、男の逞しい褐色の腕に白い羽毛が密生し、のちには二つの翼となり、太陽の光の中で見る見る輝きを増しながら、一羽の大きな鳥となった。
 彼は少し躊躇った後、ふわりと舞い上がり、軽々と天空を駆け去ったのだ。
 こうして記録を残しながらも、未だに夢を見ている気分だ。彼らは、私達が必死の想いで呟くことを楽々と成してしまう。鳥になりたい、或いは永遠に生きたいと言う想いを。しかし、私は彼らを羨むまい。彼らは不死族の代償として、どこにも安住の地を見出せぬ悲しみを生涯抱え続けなくてはならないと考えるためだ。
 空が赤く燃えている。この辺りに砲弾が落ちてくるのも間も無くだろう。地球が滅びるとき、彼ら不死族はどこへ行くのか、限りあるこの身では問えないのが、科学者として残念だ。

                 終わり
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