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『まいごのルシュカ』(1)
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「いい加減に片付けなさい」
お母さんに叱られて、ひろしは屋根裏部屋に上がってきた。
ここは倉庫になっている。ひろしが小さかった時のおもちゃや、もう着られなくなった服なんかが、いっぱい箱に残っている。
(半分はお母さんが残してるんだから、お母さんも片付ければいいのに)
ひろしは胸の中で呟きながら、持ってきたゴミ袋を広げた。
おもちゃがごっちゃり入ってる箱の中に手を突っ込んで、要るものと要らないものに分けていく。
(紙飛行機。飛ばなかったから要らない)
(プラモデル。部品を失くしたから、もう作れないや)
(わあ、なんてひどい絵なんだ。何が書いてあるのかわかんないぞ)
(ああ、この箱は覚えてる。初めて作った秘密基地だ。窓を作ろうと思って、穴を開けたら破れてしまった)
(これはどうしようか)
その時だ。
くすん、くすん、と部屋の隅から啜り泣く声が聞こえて、ひろしは飛び上がった。
(なんだ? おばけ?)
学校でみんなと話していたような、気味の悪いものをいっぺんに思い出して、ひろしはじっとそちらを見た。
部屋の隅に、ぼうっと青い光が灯っている。泣き声は、そこから聞こえてくるようだ。
そのまましばらく待っていても、くすんくすんと泣き続けるだけだ。
ひろしはこわごわ声を掛けた。
「誰?」
「ぼく、ルシュカ」
声は答えた。
立ち上がったのは小さな男の子。
真っ青な髪の毛と真っ青な目、真っ青なシャツに真っ青なズボン。靴も靴下も、鮮やかな青色だ。
「ルシュカ?」
「まいごになったの。かえるところがわからないの」
男の子はそういうと、また悲しそうに泣き出した。
「どこにいたか、覚えてないのか?」
ひろしはそっと近寄った。
ルシュカは首を振った。
ひろしの肩よりも小さな男の子。
「しろいところにいたの。でも、わかんない。ぼく、どこへかえればいいの? ねえ、おにいちゃん、どこへかえればいいの」
ルシュカは顔を上げた。
涙で潤んだ大きな青い目が、じっとひろしを見つめた。
「帰りたいの?」
「うん。でも、わかんなくなっちゃった。どうしよう」
ルシュカは前よりも悲しそうに泣き出した。
ひろしは一つ頷いた。
「ちょっと待ってな、友達を連れてくるから」
「ともだち?」
「うん。さとるの方が俺より賢いから。待ってろよ」
「うん」
ルシュカはようやくにっこり笑った。
ひろしは急いで階段を駆け下り、隣のさとるを呼びに家を飛び出した。
「うーん」
ひろしに連れてこられたさとるは、ルシュカを見るなり、腕を組んで唸った。
「日本人、じゃないよな」
「名前もルシュカって言うんだ」
「苗字は?」
「わかんない」
ルシュカは首を振った。
「地球人じゃないのかな」
「宇宙人?」
ひろしとさとるに覗き込まれて、ルシュカは困った顔で首を振った。
「わかんない」
「困ったな。いつからいたの?」
「わかんない」
「わかんないばっかりじゃ、わかんないだろ」
「だって…」
またルシュカが泣き出しそうになって、ひろしは慌てた。
「さとる、そんなこと言ってやるなよ。まだ小さいんだし」
「ちぇっ、そう言うけど、お前だろ、僕を呼んできたの」
「それはそうだけど」
「手がかりなしか、困ったな」
さとるは腕を組んで唸ったが、ふと思いついたように言った。
「ひょっとして、おもちゃ屋に居たとか」
「どうして、おもちゃ屋?」
「だって、こんな青い髪の毛、見たことある? きっとおもちゃ屋に居て、何かの表紙に紛れ込んだんだよ」
「そうか、そうかも知れない」
ひろしはルシュカの手を握って立ち上がった、
「じゃあ、おもちゃ屋へ行って、聞いてみよう」
「わかった」
さとるも立ち上がった。
二人でルシュカを挟むようにして、そっと裏部屋から脱け出した。
お母さんは洗濯物を干している。
今なら、大丈夫。
ひろしとさととルシュカは、町のおもちゃ屋へ行った。
「すみません」
「す・み・ま・せ・ん」
「はあい」
おもちゃ屋の奥から、歳取ったおじいさんが出てきた。
「何が欲しいのかな」
「違うんです」
「ちょっと見て欲しいんんです。この子なんだけど、おじいさん、見覚えありませんか?」
ひろしが2人の後ろに隠れていたルシュカをそっと押し出した。
「ほほう、これは、これは」
おじいさんは一瞬目を大きく開けて、それから細めた。
「なんときれいな髪の毛じゃな。一体どこの子かな」
「知らないんですか。このお店には居ませんでしたか」
「知らないな。うちの子じゃないよ。じゃが」
おじいさんは、ルシュカに優しく微笑んだ。
「行く所がないなら、うちに来るかい?」
ルシュカは黙って首を振った。
「じゃあ、また、いつでもおいで」
「ありがとうございました」
「ありがとー、ございました」
さとるがぺこりと頭を下げて、ひろしも急いで頭を下げた。ルシュカも慌てて真似をする。
3人はおもちゃ屋を出た。
お母さんに叱られて、ひろしは屋根裏部屋に上がってきた。
ここは倉庫になっている。ひろしが小さかった時のおもちゃや、もう着られなくなった服なんかが、いっぱい箱に残っている。
(半分はお母さんが残してるんだから、お母さんも片付ければいいのに)
ひろしは胸の中で呟きながら、持ってきたゴミ袋を広げた。
おもちゃがごっちゃり入ってる箱の中に手を突っ込んで、要るものと要らないものに分けていく。
(紙飛行機。飛ばなかったから要らない)
(プラモデル。部品を失くしたから、もう作れないや)
(わあ、なんてひどい絵なんだ。何が書いてあるのかわかんないぞ)
(ああ、この箱は覚えてる。初めて作った秘密基地だ。窓を作ろうと思って、穴を開けたら破れてしまった)
(これはどうしようか)
その時だ。
くすん、くすん、と部屋の隅から啜り泣く声が聞こえて、ひろしは飛び上がった。
(なんだ? おばけ?)
学校でみんなと話していたような、気味の悪いものをいっぺんに思い出して、ひろしはじっとそちらを見た。
部屋の隅に、ぼうっと青い光が灯っている。泣き声は、そこから聞こえてくるようだ。
そのまましばらく待っていても、くすんくすんと泣き続けるだけだ。
ひろしはこわごわ声を掛けた。
「誰?」
「ぼく、ルシュカ」
声は答えた。
立ち上がったのは小さな男の子。
真っ青な髪の毛と真っ青な目、真っ青なシャツに真っ青なズボン。靴も靴下も、鮮やかな青色だ。
「ルシュカ?」
「まいごになったの。かえるところがわからないの」
男の子はそういうと、また悲しそうに泣き出した。
「どこにいたか、覚えてないのか?」
ひろしはそっと近寄った。
ルシュカは首を振った。
ひろしの肩よりも小さな男の子。
「しろいところにいたの。でも、わかんない。ぼく、どこへかえればいいの? ねえ、おにいちゃん、どこへかえればいいの」
ルシュカは顔を上げた。
涙で潤んだ大きな青い目が、じっとひろしを見つめた。
「帰りたいの?」
「うん。でも、わかんなくなっちゃった。どうしよう」
ルシュカは前よりも悲しそうに泣き出した。
ひろしは一つ頷いた。
「ちょっと待ってな、友達を連れてくるから」
「ともだち?」
「うん。さとるの方が俺より賢いから。待ってろよ」
「うん」
ルシュカはようやくにっこり笑った。
ひろしは急いで階段を駆け下り、隣のさとるを呼びに家を飛び出した。
「うーん」
ひろしに連れてこられたさとるは、ルシュカを見るなり、腕を組んで唸った。
「日本人、じゃないよな」
「名前もルシュカって言うんだ」
「苗字は?」
「わかんない」
ルシュカは首を振った。
「地球人じゃないのかな」
「宇宙人?」
ひろしとさとるに覗き込まれて、ルシュカは困った顔で首を振った。
「わかんない」
「困ったな。いつからいたの?」
「わかんない」
「わかんないばっかりじゃ、わかんないだろ」
「だって…」
またルシュカが泣き出しそうになって、ひろしは慌てた。
「さとる、そんなこと言ってやるなよ。まだ小さいんだし」
「ちぇっ、そう言うけど、お前だろ、僕を呼んできたの」
「それはそうだけど」
「手がかりなしか、困ったな」
さとるは腕を組んで唸ったが、ふと思いついたように言った。
「ひょっとして、おもちゃ屋に居たとか」
「どうして、おもちゃ屋?」
「だって、こんな青い髪の毛、見たことある? きっとおもちゃ屋に居て、何かの表紙に紛れ込んだんだよ」
「そうか、そうかも知れない」
ひろしはルシュカの手を握って立ち上がった、
「じゃあ、おもちゃ屋へ行って、聞いてみよう」
「わかった」
さとるも立ち上がった。
二人でルシュカを挟むようにして、そっと裏部屋から脱け出した。
お母さんは洗濯物を干している。
今なら、大丈夫。
ひろしとさととルシュカは、町のおもちゃ屋へ行った。
「すみません」
「す・み・ま・せ・ん」
「はあい」
おもちゃ屋の奥から、歳取ったおじいさんが出てきた。
「何が欲しいのかな」
「違うんです」
「ちょっと見て欲しいんんです。この子なんだけど、おじいさん、見覚えありませんか?」
ひろしが2人の後ろに隠れていたルシュカをそっと押し出した。
「ほほう、これは、これは」
おじいさんは一瞬目を大きく開けて、それから細めた。
「なんときれいな髪の毛じゃな。一体どこの子かな」
「知らないんですか。このお店には居ませんでしたか」
「知らないな。うちの子じゃないよ。じゃが」
おじいさんは、ルシュカに優しく微笑んだ。
「行く所がないなら、うちに来るかい?」
ルシュカは黙って首を振った。
「じゃあ、また、いつでもおいで」
「ありがとうございました」
「ありがとー、ございました」
さとるがぺこりと頭を下げて、ひろしも急いで頭を下げた。ルシュカも慌てて真似をする。
3人はおもちゃ屋を出た。
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