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2.2.灰色塔(ガルン・デイトス)(1)
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ラズーン、ジーフォ公分領地西端、パディスよりほぼ真北に当たる灰色塔(がルン・デイトス)の地下広間には、錚々たる顔ぶれが集まっていた。
広間中央に置かれた石卓を囲んで、中央玉座の前にラズーン『第一正統後継者』アシャ・ラズーン、その右にセシ公ミダス公、左にジーフォ公アギャン公。ミダス公の隣は『銀羽根』の長シャイラ、アギャン公の隣が『鉄羽根』の長テッツェ。アシャの正面には野戦部隊(シーガリオン)の長、シートス・ツェイトスが不敵な面構えで座っている。テッツェが座を譲ろうとしたが、野を走る隊には野育ちの掟あり、とのことで一番の下座、けれども背後の戸口に悠々と背中を向けて席を占めている。
じじっと松明が音を立て、わずかに火の粉を散らす。熱気に押し付けられた煙は、ゆっくりと天井を這い、四隅にある通気孔から抜けて行く。
円卓の周りに陣取った16の眼は、今、卓上に広げられた地図に注がれていた。ラズーン全土を描いたもので、紺と緋、各々に縁取られた入り組んだ国々の国境が、明かりにくっきりと浮かんで見える。
「今朝、第1隊がここを発った」
アシャは口火を切った。
「ユーノ・セレディス、『星の剣士』(ニスフェル)を将とし、主力は『金羽根』の長リヒャルティ率いる1隊、他に野戦部隊(シーガリオン)の面々を加えての200余名、目的はネハルール、レトラデスの軍のラズーン侵入阻止にある。知っての通り、ネハルールのガデロ、レトラデスのレトリア・ル・レ共に『運命(リマイン)』の支配下(ロダ)にあり、その数、およそ850」
「っっ」
ぎょっとしたようにシャイラがアシャを見た。
「加えて先ほど、辺境の視察官(オペ)より連絡があった。ガデロより新たに300余名が『運命(リマイン)』側に合流、現在『黒の流れ』(デーヤ)に沿って北上中である、と」
「アシャ様!」
「加えて」
耐えかねたようなシャイラの声を、アシャは平然とした一言で抑えた。
「アギャン分領地の『白の流れ』(ソワルド)に沿って、シダルナン、モディスンが一軍を率いて同じく北上中、その数、1500余名」
「同時、か」
ジーフォ公が険しい顔で呟いた。セシ公は既にこの情報を知っていたのだろう、冷ややかな微笑を崩さす、じっと地図を眺めている。
「双方の最終目標は、『太皇(スーグ』おわす『氷の双宮』陥落にあると思われる……が、気になるのは動かない連中だ」
アシャは淡々と戦況の説明を続けた。
「スォーガを挟んでだが、べシャム・テ・ラのベシャオト2世、クェトロムトのシーラ・クェトロムトが未だに動いていない。軍を組織していないわけではなく、1200余名ほどが待機中と思われる」
「肝腎のギヌア・ラズーンはどうしています?」
ミダス公が控えめに口を挟んだ。
「ギヌアの気配は……ない」
アシャは目を光らせた。
「ない?」
「ギヌアばかりか、現在動いている軍のほとんどが一般人、『運命(リマイン)』の主力部隊が見つからない」
「どれぐらいの規模です?」
シートスが黄色の虹彩をゆっくりアシャに向ける。
「『運命(リマイン)』のみの構成で、ギヌアを将とし、数はおそらく……800~1000」
「…なかなか面倒な内容ですな」
シートスは溜息混じりに肩を竦めた。
広間中央に置かれた石卓を囲んで、中央玉座の前にラズーン『第一正統後継者』アシャ・ラズーン、その右にセシ公ミダス公、左にジーフォ公アギャン公。ミダス公の隣は『銀羽根』の長シャイラ、アギャン公の隣が『鉄羽根』の長テッツェ。アシャの正面には野戦部隊(シーガリオン)の長、シートス・ツェイトスが不敵な面構えで座っている。テッツェが座を譲ろうとしたが、野を走る隊には野育ちの掟あり、とのことで一番の下座、けれども背後の戸口に悠々と背中を向けて席を占めている。
じじっと松明が音を立て、わずかに火の粉を散らす。熱気に押し付けられた煙は、ゆっくりと天井を這い、四隅にある通気孔から抜けて行く。
円卓の周りに陣取った16の眼は、今、卓上に広げられた地図に注がれていた。ラズーン全土を描いたもので、紺と緋、各々に縁取られた入り組んだ国々の国境が、明かりにくっきりと浮かんで見える。
「今朝、第1隊がここを発った」
アシャは口火を切った。
「ユーノ・セレディス、『星の剣士』(ニスフェル)を将とし、主力は『金羽根』の長リヒャルティ率いる1隊、他に野戦部隊(シーガリオン)の面々を加えての200余名、目的はネハルール、レトラデスの軍のラズーン侵入阻止にある。知っての通り、ネハルールのガデロ、レトラデスのレトリア・ル・レ共に『運命(リマイン)』の支配下(ロダ)にあり、その数、およそ850」
「っっ」
ぎょっとしたようにシャイラがアシャを見た。
「加えて先ほど、辺境の視察官(オペ)より連絡があった。ガデロより新たに300余名が『運命(リマイン)』側に合流、現在『黒の流れ』(デーヤ)に沿って北上中である、と」
「アシャ様!」
「加えて」
耐えかねたようなシャイラの声を、アシャは平然とした一言で抑えた。
「アギャン分領地の『白の流れ』(ソワルド)に沿って、シダルナン、モディスンが一軍を率いて同じく北上中、その数、1500余名」
「同時、か」
ジーフォ公が険しい顔で呟いた。セシ公は既にこの情報を知っていたのだろう、冷ややかな微笑を崩さす、じっと地図を眺めている。
「双方の最終目標は、『太皇(スーグ』おわす『氷の双宮』陥落にあると思われる……が、気になるのは動かない連中だ」
アシャは淡々と戦況の説明を続けた。
「スォーガを挟んでだが、べシャム・テ・ラのベシャオト2世、クェトロムトのシーラ・クェトロムトが未だに動いていない。軍を組織していないわけではなく、1200余名ほどが待機中と思われる」
「肝腎のギヌア・ラズーンはどうしています?」
ミダス公が控えめに口を挟んだ。
「ギヌアの気配は……ない」
アシャは目を光らせた。
「ない?」
「ギヌアばかりか、現在動いている軍のほとんどが一般人、『運命(リマイン)』の主力部隊が見つからない」
「どれぐらいの規模です?」
シートスが黄色の虹彩をゆっくりアシャに向ける。
「『運命(リマイン)』のみの構成で、ギヌアを将とし、数はおそらく……800~1000」
「…なかなか面倒な内容ですな」
シートスは溜息混じりに肩を竦めた。
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******
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