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第3章
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まず触ってほしい、そう言われたから、脚を開いた真崎の前に正座して、揺れているものに手を伸ばす。
どうしよう。
いきなり触れと言われてもよくわからない。
柔らかな色をたたえている部分はどうすれば気持ちいいのだろう、と考えて、さっき真崎が触れていたように触れてみればいいと気がついた。
気持ちいいから、ああやってたんだよね。
でも、強さは? 程度は?
何度か指を伸ばしてためらっているのにじれったくなったのか、たまたまよし、と勢いをつけて指を突き出した矢先、真崎が腰を突き出してきて、まともにするりと撫でてしまったのが切っ掛け、一旦は腰を引いた真崎がそれでもとろんとした目で見上げてきて、ああ、これでいいのかとわかる。
それからゆっくり、真崎の表情を見ながら指先を動かしていくと、眉を潜めて真崎が息を弾ませた。
「っう」
「あの」
「なにっ」
呼吸を乱しても美並の指先から逃げ切らない位置で腰を揺らせている真崎に、気持ちはよさそうだなと思いながらも逆方向から確認してみる。
「痛そうなんだけど」
「え…っ」
「もう、真っ赤になってて、なんか先から」
「ば、かっ」
濡れてくる指先でそのまま撫で続けていいのか確かめようとしたのを、一気に耳まで赤くなって顔を引き寄せられ、口を塞がれる。驚いたけれど、震える舌に照れ隠しだと気付いて、そのまま舌をくすぐりながら指を動かす。
「っ、っ、っっ」
ぞくぞくと身体を震わせた真崎が両膝を閉じようとして閉じ切れず、慌てて口を離し、身体を遠ざけようとするように両肩を掴んでくる。喘ぐような甘い息に思わず誘われて、その部分を指を揃えて撫で回した。
「や……あ…っ……」
真崎が明らかに跳ねて身体を引くのに、気持ちいい、と聞き取って、何度も何度もそこを指で触れる。撫でるだけではつまらないかと、軽く指をたてて擦ると、真崎が上ずった声を上げながら腰を揺らせてしがみついてきた。
「っい……っあ」
開いたままで喘ぎ続ける唇が濡れて光を放っている。揺れた舌から雫が滴る、それは美並の指に絡み付かれている部分も同様で、時々痙攣するような動きが加わり出した真崎にそっと呼び掛ける。
「京介…」
「は…っ」
「返事して?」
「…は…っい……っ」
朦朧とした顔を上げてきた口元が寂しそうで、思わず唇を重ねて舌を吸った。
くぅ、と小さな呻きが口の中で弾けて、眉を寄せた真崎が仰け反りながら逃れようとする。逃すまいと舌を絡める、なお逃げようとする、また追っていく。
その最中にも真崎が何度か強く震える場所があって、そこを繰り返しなぞってみる。拒むように逃げる舌を追い、弱いと知らせてきた部分に愛撫を繰り返す。
攻防に夢中になっていると、耐えかねたように真崎が口を振り放して声を上げた。
「はっ……あっ…」
「気持ちいいの?」
必死に頷く真崎に、これでいいの、と震えている場所を指先で摘む。
「…っう、あ」
びくん、と真崎が凍りついた。見開いた目が潤んで蕩けている。なおも触り続けると、もう一人で座っていられないと言いたげに、切ない声を上げてすがりついてくる。
可愛い。
美並の指に与えられる快感に夢中になっている真崎がたとえようもなく可愛い。涙を滲ませている瞳が時折不安そうに揺れて、美並を探しているのがわかる。
「京介」
「は…い…っ」
「可愛いですね」
「っ、う」
震えて俯く真崎の、汗に濡れている髪の匂いを嗅ぎながら、美並は感覚を澄ませて内側の気配を感じ取る。
一番奥で閉ざされていた扉が、少しずつたわみ、揺れながらきしみ始めている。真崎が声を上げるたび、鋭く震えるたびに、その扉が押し開かれ、向こうから銀色の光が零れる。
その光は朝日のように清冽ではない。さっきの蝶の羽化を思わせる色合いだが、それより遥かに密度が高く濃い気配、隙間からとろりと粘度をもって溢れ出し、光に指を触れて扉の隙間を撫で上げると、真崎が甘い声で啼く。
その扉の片隅に、深く澱む青黒い霞みを感じ取った。
やっぱり懸念なんかじゃない。真崎が話してくれないものには、大輔が深く関わっている。これほど揺らぎながらも開いてくれない扉には、大輔という名の鎖がかかっている。
ちり、とまた強くて痛い波が美並の中に蠢いた。
美並以外の制御を受け入れる真崎への苛立ちと、なおも影響を残す大輔への怒り。我を失っているように見える真崎は、今もなお大輔に心の奥を縛られたままだ。
「何をされたの?」
「……え…?」
「大輔さんに、何をされたの?」
「あ……」
呼吸を乱して真崎が顔を上げた。
どうしよう。
いきなり触れと言われてもよくわからない。
柔らかな色をたたえている部分はどうすれば気持ちいいのだろう、と考えて、さっき真崎が触れていたように触れてみればいいと気がついた。
気持ちいいから、ああやってたんだよね。
でも、強さは? 程度は?
何度か指を伸ばしてためらっているのにじれったくなったのか、たまたまよし、と勢いをつけて指を突き出した矢先、真崎が腰を突き出してきて、まともにするりと撫でてしまったのが切っ掛け、一旦は腰を引いた真崎がそれでもとろんとした目で見上げてきて、ああ、これでいいのかとわかる。
それからゆっくり、真崎の表情を見ながら指先を動かしていくと、眉を潜めて真崎が息を弾ませた。
「っう」
「あの」
「なにっ」
呼吸を乱しても美並の指先から逃げ切らない位置で腰を揺らせている真崎に、気持ちはよさそうだなと思いながらも逆方向から確認してみる。
「痛そうなんだけど」
「え…っ」
「もう、真っ赤になってて、なんか先から」
「ば、かっ」
濡れてくる指先でそのまま撫で続けていいのか確かめようとしたのを、一気に耳まで赤くなって顔を引き寄せられ、口を塞がれる。驚いたけれど、震える舌に照れ隠しだと気付いて、そのまま舌をくすぐりながら指を動かす。
「っ、っ、っっ」
ぞくぞくと身体を震わせた真崎が両膝を閉じようとして閉じ切れず、慌てて口を離し、身体を遠ざけようとするように両肩を掴んでくる。喘ぐような甘い息に思わず誘われて、その部分を指を揃えて撫で回した。
「や……あ…っ……」
真崎が明らかに跳ねて身体を引くのに、気持ちいい、と聞き取って、何度も何度もそこを指で触れる。撫でるだけではつまらないかと、軽く指をたてて擦ると、真崎が上ずった声を上げながら腰を揺らせてしがみついてきた。
「っい……っあ」
開いたままで喘ぎ続ける唇が濡れて光を放っている。揺れた舌から雫が滴る、それは美並の指に絡み付かれている部分も同様で、時々痙攣するような動きが加わり出した真崎にそっと呼び掛ける。
「京介…」
「は…っ」
「返事して?」
「…は…っい……っ」
朦朧とした顔を上げてきた口元が寂しそうで、思わず唇を重ねて舌を吸った。
くぅ、と小さな呻きが口の中で弾けて、眉を寄せた真崎が仰け反りながら逃れようとする。逃すまいと舌を絡める、なお逃げようとする、また追っていく。
その最中にも真崎が何度か強く震える場所があって、そこを繰り返しなぞってみる。拒むように逃げる舌を追い、弱いと知らせてきた部分に愛撫を繰り返す。
攻防に夢中になっていると、耐えかねたように真崎が口を振り放して声を上げた。
「はっ……あっ…」
「気持ちいいの?」
必死に頷く真崎に、これでいいの、と震えている場所を指先で摘む。
「…っう、あ」
びくん、と真崎が凍りついた。見開いた目が潤んで蕩けている。なおも触り続けると、もう一人で座っていられないと言いたげに、切ない声を上げてすがりついてくる。
可愛い。
美並の指に与えられる快感に夢中になっている真崎がたとえようもなく可愛い。涙を滲ませている瞳が時折不安そうに揺れて、美並を探しているのがわかる。
「京介」
「は…い…っ」
「可愛いですね」
「っ、う」
震えて俯く真崎の、汗に濡れている髪の匂いを嗅ぎながら、美並は感覚を澄ませて内側の気配を感じ取る。
一番奥で閉ざされていた扉が、少しずつたわみ、揺れながらきしみ始めている。真崎が声を上げるたび、鋭く震えるたびに、その扉が押し開かれ、向こうから銀色の光が零れる。
その光は朝日のように清冽ではない。さっきの蝶の羽化を思わせる色合いだが、それより遥かに密度が高く濃い気配、隙間からとろりと粘度をもって溢れ出し、光に指を触れて扉の隙間を撫で上げると、真崎が甘い声で啼く。
その扉の片隅に、深く澱む青黒い霞みを感じ取った。
やっぱり懸念なんかじゃない。真崎が話してくれないものには、大輔が深く関わっている。これほど揺らぎながらも開いてくれない扉には、大輔という名の鎖がかかっている。
ちり、とまた強くて痛い波が美並の中に蠢いた。
美並以外の制御を受け入れる真崎への苛立ちと、なおも影響を残す大輔への怒り。我を失っているように見える真崎は、今もなお大輔に心の奥を縛られたままだ。
「何をされたの?」
「……え…?」
「大輔さんに、何をされたの?」
「あ……」
呼吸を乱して真崎が顔を上げた。
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