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第5章
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「まず、赤来と言う男は、『羽鳥』と言う別名を持っていて、その名前の元に大学時代に女性を食い物にするサークルを運営管理していた。真崎大輔もその一味だ。但し、今表沙汰になって裁かれようとしているのは真崎大輔一人で、関わっていた喜多村会長の圧力で、『羽鳥』にたどり着けないまま事件が終わりそうになっている」
「はい」
高山はちらりと気がかりそうに真崎を見たが、冷ややかに続けた。
「真崎の親友の難波孝は売春組織に所属していて緑川に『提供』されていた。難波はコンビニ強盗事件騒ぎで職を失ったのが転落の原因だが、その事件は『羽鳥』が開催していたゲームのようなもので『料金』を払った奴らが参加したものだ。このゲームは繰り返し行われ、飯島と言う男も関わっていた」
「はい」
「コンビニ強盗事件の『参加料金』では女性を食い物にするような合コンが開かれていた。赤来が居たサークルでの事件と酷似していて、そこにやはり真崎大輔も加わっている。恐らくはそれが緑川の関わった組織だと思われる」
「はい」
「難波はホテルで何者かに殺害されていて、コンビニ強盗事件で『羽鳥』と仲間だった飯島も既に殺害されている。両方とも犯人は捕まっていない。。事件を追いかけている向田署の有沢という刑事は、大輔逮捕だけに止まらず、余命数ヶ月を賭けて、人の気持ちが『見える』伊吹の力を使い、『羽鳥』を特定し、捕まえようとしている。有沢は『羽鳥』=赤来が、大学時代からコンビニ強盗事件を主催し、サークルと真崎大輔を利用して売春組織を運営し、難波孝、飯島の殺害に関わっていると考えているが、司法が踏み込める証拠も状況も見つかっていないからだ」
「はい」
高山はゆっくり息を吐いた。
「……赤来が『羽鳥』であることを立証し、捕まえて罪を認めさせるのか」
確認するように呟く。
「その前に、赤来は本当に『羽鳥』なのか……今の決め手は伊吹の『赤い』印象だけだろう」
「それと警察で見せられた映像の時計ね」
難しい顔の高山に石塚も眉を寄せる。
「…もし、飯島の隠し持っていたカード・キーと赤来課長の指紋が同じならば」
美並は目を上げた。
「少なくとも飯島との関係性について、映像に写った時計のことや、今警察で情報を集めているホテルへの出入りの件について、話を持ち出すことができます」
「そうだな」
突破口はそのあたりしかないか。
「指紋を取る気か」
「…今ならば、大輔さんが捕まったことで緩みがあるかもしれない」
険しい顔になった高山に頷く。
「飯島さん孝さんが殺され、大輔さんは捕まり、緑川さんは直接『羽鳥』の顔を知りません。有沢さん檜垣さんでは桜木通販に突入することはできないし、自分へのルートは全てなくなったと思っているかも知れない」
「だが、危険なはずだ」
高山が不審そうに首を傾げる。
「真崎大輔なら自分を売りかねないと知っているだろうに、なぜのこのこと事の渦中に残っている?」
それは赤来が『羽鳥』ではないからじゃないのか?
「何のためにここに居る?」
美並はためらった。
真崎が落ち着くまでの間、緑川の残した映像を一つ一つ見て行った。
孝の酷い映像は大輔あたりからの『プレゼント』だったのか、他にも入っていた際どいエロ画像と同様、お楽しみの一つだったのだろう、犯罪に絡む映像はもうなかった。
けれど、社内旅行だろうか、見覚えのある顔が肩を寄せ合い写っている画像が目を引いた。
緑溢れる鮮やかな光景の中、石塚や阿倍野、富崎や細田がカメラに向かって笑っている。元子も笑顔でピースを掲げ、他の面々もはしゃぐ中、真崎は目を細めているだけだ。
けれど何より息を呑んだ顔は赤来だった。
静けさを湛えた満足げな笑顔。
奇妙だったからではなかった。全く同じものを、遠い昔、無情に閉ざされたコンビニのガラス扉の向こうで見たからだ。
その旅行が、赤来が計画し調整したものだと聞かされて、疑問が一つ溶け去るのを感じた。
「……見ていたいのだと思います」
「?」
美並も同じものを抱えているのかも知れない、闇を楽しむ冷ややかな喜びを。
訝しげな高山と石塚に繰り返す。
「自分の立てた計画が、思った通りに動いていく様子を。計画にどんな異分子が入り、どこに再調整が必要になり、いつ頃どんな手を加えれば、予定通りに進むのかを、見ていたいのだと思います」
「…金じゃないのか」
高山が吐き捨てる。
「望んでいるのは金でも権力でも女でもない。ただ『仕事』の進展と成功を見守っている、立派なビジネスマンだと言うのか」
最低だな。
「それじゃあ、俺達と変わらない」
「その通りです」
美並は静かに応じた。
「『羽鳥』は私達と変わらない。だから、誰にも捕まらなかった、悪意さえ見せていませんから」
けれどもその『仕事』は、命を奪い、未来を壊す。大事な人を傷つけ、人への信頼を粉々にする。
石塚が強い視線で美並を見返す。
「今も『悪いこと』をしているなんて、思ってはいないでしょう」
『あなたには義務がある!』
有沢の叫びが聞こえた。
『あなたには、その力を使わなくてはならない責務があるんだ、見殺しにされようとしている正義のために!』
「私がしようとしていることは正義なんかじゃありません」
悲痛な響きを聴きながら言い捨てる。
「自分の弱さの始末です」
「はい」
高山はちらりと気がかりそうに真崎を見たが、冷ややかに続けた。
「真崎の親友の難波孝は売春組織に所属していて緑川に『提供』されていた。難波はコンビニ強盗事件騒ぎで職を失ったのが転落の原因だが、その事件は『羽鳥』が開催していたゲームのようなもので『料金』を払った奴らが参加したものだ。このゲームは繰り返し行われ、飯島と言う男も関わっていた」
「はい」
「コンビニ強盗事件の『参加料金』では女性を食い物にするような合コンが開かれていた。赤来が居たサークルでの事件と酷似していて、そこにやはり真崎大輔も加わっている。恐らくはそれが緑川の関わった組織だと思われる」
「はい」
「難波はホテルで何者かに殺害されていて、コンビニ強盗事件で『羽鳥』と仲間だった飯島も既に殺害されている。両方とも犯人は捕まっていない。。事件を追いかけている向田署の有沢という刑事は、大輔逮捕だけに止まらず、余命数ヶ月を賭けて、人の気持ちが『見える』伊吹の力を使い、『羽鳥』を特定し、捕まえようとしている。有沢は『羽鳥』=赤来が、大学時代からコンビニ強盗事件を主催し、サークルと真崎大輔を利用して売春組織を運営し、難波孝、飯島の殺害に関わっていると考えているが、司法が踏み込める証拠も状況も見つかっていないからだ」
「はい」
高山はゆっくり息を吐いた。
「……赤来が『羽鳥』であることを立証し、捕まえて罪を認めさせるのか」
確認するように呟く。
「その前に、赤来は本当に『羽鳥』なのか……今の決め手は伊吹の『赤い』印象だけだろう」
「それと警察で見せられた映像の時計ね」
難しい顔の高山に石塚も眉を寄せる。
「…もし、飯島の隠し持っていたカード・キーと赤来課長の指紋が同じならば」
美並は目を上げた。
「少なくとも飯島との関係性について、映像に写った時計のことや、今警察で情報を集めているホテルへの出入りの件について、話を持ち出すことができます」
「そうだな」
突破口はそのあたりしかないか。
「指紋を取る気か」
「…今ならば、大輔さんが捕まったことで緩みがあるかもしれない」
険しい顔になった高山に頷く。
「飯島さん孝さんが殺され、大輔さんは捕まり、緑川さんは直接『羽鳥』の顔を知りません。有沢さん檜垣さんでは桜木通販に突入することはできないし、自分へのルートは全てなくなったと思っているかも知れない」
「だが、危険なはずだ」
高山が不審そうに首を傾げる。
「真崎大輔なら自分を売りかねないと知っているだろうに、なぜのこのこと事の渦中に残っている?」
それは赤来が『羽鳥』ではないからじゃないのか?
「何のためにここに居る?」
美並はためらった。
真崎が落ち着くまでの間、緑川の残した映像を一つ一つ見て行った。
孝の酷い映像は大輔あたりからの『プレゼント』だったのか、他にも入っていた際どいエロ画像と同様、お楽しみの一つだったのだろう、犯罪に絡む映像はもうなかった。
けれど、社内旅行だろうか、見覚えのある顔が肩を寄せ合い写っている画像が目を引いた。
緑溢れる鮮やかな光景の中、石塚や阿倍野、富崎や細田がカメラに向かって笑っている。元子も笑顔でピースを掲げ、他の面々もはしゃぐ中、真崎は目を細めているだけだ。
けれど何より息を呑んだ顔は赤来だった。
静けさを湛えた満足げな笑顔。
奇妙だったからではなかった。全く同じものを、遠い昔、無情に閉ざされたコンビニのガラス扉の向こうで見たからだ。
その旅行が、赤来が計画し調整したものだと聞かされて、疑問が一つ溶け去るのを感じた。
「……見ていたいのだと思います」
「?」
美並も同じものを抱えているのかも知れない、闇を楽しむ冷ややかな喜びを。
訝しげな高山と石塚に繰り返す。
「自分の立てた計画が、思った通りに動いていく様子を。計画にどんな異分子が入り、どこに再調整が必要になり、いつ頃どんな手を加えれば、予定通りに進むのかを、見ていたいのだと思います」
「…金じゃないのか」
高山が吐き捨てる。
「望んでいるのは金でも権力でも女でもない。ただ『仕事』の進展と成功を見守っている、立派なビジネスマンだと言うのか」
最低だな。
「それじゃあ、俺達と変わらない」
「その通りです」
美並は静かに応じた。
「『羽鳥』は私達と変わらない。だから、誰にも捕まらなかった、悪意さえ見せていませんから」
けれどもその『仕事』は、命を奪い、未来を壊す。大事な人を傷つけ、人への信頼を粉々にする。
石塚が強い視線で美並を見返す。
「今も『悪いこと』をしているなんて、思ってはいないでしょう」
『あなたには義務がある!』
有沢の叫びが聞こえた。
『あなたには、その力を使わなくてはならない責務があるんだ、見殺しにされようとしている正義のために!』
「私がしようとしていることは正義なんかじゃありません」
悲痛な響きを聴きながら言い捨てる。
「自分の弱さの始末です」
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