205 / 259
第4章
64
しおりを挟む
わたしのいみはなんですか。
「美並?」
真崎が先に立ってマンションに入り、外の廊下に立ったままの美並を振り向く。
「美並」
手を握り、動かない美並を部屋の中へ引き入れていく。
「終電まで、あまり時間ないよ?」
コーヒーを飲もう。
それは二人の間で交わされた了解、今夜は真崎の部屋で過ごす。
わたしのいみはなんですか。
あなたの性欲を満たし孤独を埋め持て余す時間をやり過ごすための道具でしょうか。
それで真崎が幸せになるなら正しい?
引き寄せられて抱き締められて、口づけを受ける、髪にこめかみに頬に閉じた睫毛に。
「入って。すぐ……部屋を暖めるから、その間にシャワーする?」
抱かせてくれ、快感を与えてくれ、そういうあからさまな誘いに凝視を返す。
「京介」
部屋の準備を進める真崎に呼びかけて、ためらう。求められているのに、なぜ拒もうとしている。
「……何」
真崎が警戒したような顔で動きを止める。
体の奥深くで何かにじっと耳を傾けている自分が居る。
「私は………ここに居て、いいんでしょうか」
「っ」
堪えかねたように真崎が戻ってきた。のろのろと三和土から上がる体を抱き寄せられ、壁に押し付けられて口を塞がれる。熱い掌で顔を包まれ、何度も何度も啄まれ、我慢できなくなったように唇に噛みつかれ、開いた瞬間舌を押し込まれた。
「ん」
腕を抑えようとしたが無理だった。足を踏み込まれ壁に貼り付けられ、舌を吸い取られて甘噛みされる。声は飲み込まれ、溢れる唾液も奪われる。吸い込もうとした空気さえも。
息ができない。
加熱した頭が朦朧とする。
真崎の胸に当てていた手が、突然引き下ろされ熱の籠った塊に添わされた。思わず目を開くと、じっと見下ろしていたのだろう、大きく開かれた瞳がきらきら潤みながら見返してきて細められる。
視界を覆う欲情の光。
「……み…なみ…」
口を離され思わず喘いだ。額から汗、いやいつの間にか体が熱くて吹き出す汗に濡れている。
「おね…がい…」
掠れた声がこめかみのキスに続いた。
「おねが……っ」
掌に委ねられた塊は熱を増して重くなっていく。支えきれなくなりそうで思わず指をずらすと、切ない声をあげて真崎が肩に顔を伏せた。
「みなみ…っ」
荒い息に消えそうな声がねだる。
「おねがい…っ」
抱き締めて来た真崎の首筋が濡れている。思わず舌先で触れた。
「あ…っあ」
声が華やいだ。もっと、と聞こえたから、そのまま唇を当てて吸い、舌を動かしながら顎の線を辿る。ざらつく感触を通り過ぎ、熱を帯びていく喉へと辿ると、真崎が喘ぎながら仰け反った。
「み……なみ…っ」
喉仏が弱いのか。
冷えた思考のまま、含んで舐めると美並の両肩を掴んだ真崎が腰を押し付けてくる。美並の掌に一杯になったものを包んで欲しくなったのだろう、動かない手に業を煮やしたように、片手を壁についてもう片手でネクタイを引き抜いた。シャツを脱ごうとスラックスへ手を伸ばすのに気がついて、シャツを引き抜くのを手伝って、その下の肌に触れた。
柔らかくはない。張り詰めていて、緩みはない、けれど皮膚がしっとりと掌に張り付いてくる。
両手を当てて、そっと胸へと撫で上げた。
「は…、っ…、あ」
切れ切れに吐き出す呼吸、手が這い上がるたびに震えが全身を走っていく。見上げると俯いている眉をひそめ顔を歪めて堪える表情、唇が蕩けそうな光に濡れて開いている。泣き出しそうな瞳をもっと見たくてメガネを外し、ぽとりと落ちる前に、唇を寄せて雫を吸い取った。
「気持ちいい?」
真崎が頷く。
「じゃあ……そのまま壁に手をついてて下さいね?」
自分が薄笑いをしている。
眼鏡を折り畳み、シャツのポケットに入れる。不安そうに美並の両側の壁に手をついて体を支える真崎がキスをしてくる。答えながらシャツに入れた手で指先を立てて撫で上げる。
「あ、っふ…っ」
驚いた顔で瞬きした真崎が激しく震えるのに要求した。
「そのまま……動かないで? …頑張って体を支えて下さい?」
できなければここで終わり。
意味を真崎は読み取った。拳を握って壁にすがり、美並の指先を必死に堪える。
「みな…っ」
シャツの下の皮膚は、まるで手触りのいいビロードのようだった。滑らかで柔らかで、指先を受け止め追いすがるように撓みながら、切り開かれる鋭さにひくひくと震える。腰が揺れている。スラックスで押さえつけられながら、感触を少しでも増やそうとするように前後し、美並の腰にすり寄せる。
「みなみ……もっと……ちゃんと、触って」
懇願が繰り返される。
「ちが…う………あ、っ」
一瞬体を強張らせて仰け反り、真崎がきつく歯を食いしばった。駆け上がろうとするのをずらせて息を吐き、首を振りながら呻く。
「や……」
肌は汗に濡れ熱を帯び震え続けている。シャツが張り付き膨らんだ粒が目に飛び込んで、思わず舌で愛したくなって呼びかける。
「京介?」
「は…い………あ、あ…」
真崎が二つの場所を見つめた。促されるように下半身の切っ先と尖った頂きに指を触れた瞬間、赤くなった顔を歪めて深く屈み込んでくる。逃げたいと欲しい、両方訴えられ、迷うことなく欲しい、に応じた。
「あ、ああっっ」
声が高く上がった。足りない足りないと腰を振ってくる相手に快感の中枢を指で弄びながら、なぜだろう、どんどん自分の中心が冷えてくるのを感じ取って美並は訝った。
真崎は感じ続けている。美並の拙い指先にも十分な快感を拾って、じりじりと駆け上がっていくのが見ていてもわかる。汗に濡れた髪が張り付く額、苦痛を感じているように寄せている眉、忙しなく吐き出される呼吸、時々びくりと跳ねる体を持て余し、壁にすがりついて倒れるのを堪えている。
わたしのいみはなんですか。
今していることは何だろう。
「美並?」
真崎が先に立ってマンションに入り、外の廊下に立ったままの美並を振り向く。
「美並」
手を握り、動かない美並を部屋の中へ引き入れていく。
「終電まで、あまり時間ないよ?」
コーヒーを飲もう。
それは二人の間で交わされた了解、今夜は真崎の部屋で過ごす。
わたしのいみはなんですか。
あなたの性欲を満たし孤独を埋め持て余す時間をやり過ごすための道具でしょうか。
それで真崎が幸せになるなら正しい?
引き寄せられて抱き締められて、口づけを受ける、髪にこめかみに頬に閉じた睫毛に。
「入って。すぐ……部屋を暖めるから、その間にシャワーする?」
抱かせてくれ、快感を与えてくれ、そういうあからさまな誘いに凝視を返す。
「京介」
部屋の準備を進める真崎に呼びかけて、ためらう。求められているのに、なぜ拒もうとしている。
「……何」
真崎が警戒したような顔で動きを止める。
体の奥深くで何かにじっと耳を傾けている自分が居る。
「私は………ここに居て、いいんでしょうか」
「っ」
堪えかねたように真崎が戻ってきた。のろのろと三和土から上がる体を抱き寄せられ、壁に押し付けられて口を塞がれる。熱い掌で顔を包まれ、何度も何度も啄まれ、我慢できなくなったように唇に噛みつかれ、開いた瞬間舌を押し込まれた。
「ん」
腕を抑えようとしたが無理だった。足を踏み込まれ壁に貼り付けられ、舌を吸い取られて甘噛みされる。声は飲み込まれ、溢れる唾液も奪われる。吸い込もうとした空気さえも。
息ができない。
加熱した頭が朦朧とする。
真崎の胸に当てていた手が、突然引き下ろされ熱の籠った塊に添わされた。思わず目を開くと、じっと見下ろしていたのだろう、大きく開かれた瞳がきらきら潤みながら見返してきて細められる。
視界を覆う欲情の光。
「……み…なみ…」
口を離され思わず喘いだ。額から汗、いやいつの間にか体が熱くて吹き出す汗に濡れている。
「おね…がい…」
掠れた声がこめかみのキスに続いた。
「おねが……っ」
掌に委ねられた塊は熱を増して重くなっていく。支えきれなくなりそうで思わず指をずらすと、切ない声をあげて真崎が肩に顔を伏せた。
「みなみ…っ」
荒い息に消えそうな声がねだる。
「おねがい…っ」
抱き締めて来た真崎の首筋が濡れている。思わず舌先で触れた。
「あ…っあ」
声が華やいだ。もっと、と聞こえたから、そのまま唇を当てて吸い、舌を動かしながら顎の線を辿る。ざらつく感触を通り過ぎ、熱を帯びていく喉へと辿ると、真崎が喘ぎながら仰け反った。
「み……なみ…っ」
喉仏が弱いのか。
冷えた思考のまま、含んで舐めると美並の両肩を掴んだ真崎が腰を押し付けてくる。美並の掌に一杯になったものを包んで欲しくなったのだろう、動かない手に業を煮やしたように、片手を壁についてもう片手でネクタイを引き抜いた。シャツを脱ごうとスラックスへ手を伸ばすのに気がついて、シャツを引き抜くのを手伝って、その下の肌に触れた。
柔らかくはない。張り詰めていて、緩みはない、けれど皮膚がしっとりと掌に張り付いてくる。
両手を当てて、そっと胸へと撫で上げた。
「は…、っ…、あ」
切れ切れに吐き出す呼吸、手が這い上がるたびに震えが全身を走っていく。見上げると俯いている眉をひそめ顔を歪めて堪える表情、唇が蕩けそうな光に濡れて開いている。泣き出しそうな瞳をもっと見たくてメガネを外し、ぽとりと落ちる前に、唇を寄せて雫を吸い取った。
「気持ちいい?」
真崎が頷く。
「じゃあ……そのまま壁に手をついてて下さいね?」
自分が薄笑いをしている。
眼鏡を折り畳み、シャツのポケットに入れる。不安そうに美並の両側の壁に手をついて体を支える真崎がキスをしてくる。答えながらシャツに入れた手で指先を立てて撫で上げる。
「あ、っふ…っ」
驚いた顔で瞬きした真崎が激しく震えるのに要求した。
「そのまま……動かないで? …頑張って体を支えて下さい?」
できなければここで終わり。
意味を真崎は読み取った。拳を握って壁にすがり、美並の指先を必死に堪える。
「みな…っ」
シャツの下の皮膚は、まるで手触りのいいビロードのようだった。滑らかで柔らかで、指先を受け止め追いすがるように撓みながら、切り開かれる鋭さにひくひくと震える。腰が揺れている。スラックスで押さえつけられながら、感触を少しでも増やそうとするように前後し、美並の腰にすり寄せる。
「みなみ……もっと……ちゃんと、触って」
懇願が繰り返される。
「ちが…う………あ、っ」
一瞬体を強張らせて仰け反り、真崎がきつく歯を食いしばった。駆け上がろうとするのをずらせて息を吐き、首を振りながら呻く。
「や……」
肌は汗に濡れ熱を帯び震え続けている。シャツが張り付き膨らんだ粒が目に飛び込んで、思わず舌で愛したくなって呼びかける。
「京介?」
「は…い………あ、あ…」
真崎が二つの場所を見つめた。促されるように下半身の切っ先と尖った頂きに指を触れた瞬間、赤くなった顔を歪めて深く屈み込んでくる。逃げたいと欲しい、両方訴えられ、迷うことなく欲しい、に応じた。
「あ、ああっっ」
声が高く上がった。足りない足りないと腰を振ってくる相手に快感の中枢を指で弄びながら、なぜだろう、どんどん自分の中心が冷えてくるのを感じ取って美並は訝った。
真崎は感じ続けている。美並の拙い指先にも十分な快感を拾って、じりじりと駆け上がっていくのが見ていてもわかる。汗に濡れた髪が張り付く額、苦痛を感じているように寄せている眉、忙しなく吐き出される呼吸、時々びくりと跳ねる体を持て余し、壁にすがりついて倒れるのを堪えている。
わたしのいみはなんですか。
今していることは何だろう。
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
連続寸止めで、イキたくて泣かされちゃう女の子のお話
まゆら
恋愛
投稿を閲覧いただき、ありがとうございます(*ˊᵕˋ*)
「一日中、イかされちゃうのと、イケないままと、どっちが良い?」
久しぶりの恋人とのお休みに、食事中も映画を見ている時も、ずっと気持ち良くされちゃう女の子のお話です。
【R18】エリートビジネスマンの裏の顔
白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます───。
私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。
同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが……
この生活に果たして救いはあるのか。
※完結済み、手直ししながら随時upしていきます
※サムネにAI生成画像を使用しています
彼女の母は蜜の味
緋山悠希
恋愛
ある日、彼女の深雪からお母さんを買い物に連れて行ってあげて欲しいと頼まれる。密かに綺麗なお母さんとの2人の時間に期待を抱きながら「別にいいよ」と優しい彼氏を演じる健二。そんな健二に待っていたのは大人の女性の洗礼だった…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる