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MIDNIGHT LADY(番外編)
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「女装?」
「そうだ」
俺はファレルをじっと見つめた。
「誰が」
「まあ、お前かスープのどっちかが」
「真面目に話せよ」
「真面目に話してる」
「何で張り込みなのに、女装なんだ?」
「仕方ねえだろ、そこがホテルで、ゲイお断りだから」
「他の奴らは?」
「出払ってる」
もう一度ファレルを見つめる。
「大晦日だぞ?」
「だな」
「何が悲しくて、そんなとこで」
「いいだろ、別に」
ファレルが妙な笑みを浮かべる。
「年末も正月も一緒にいられて、おまけにベッドまであるぞ?」
「殴るぞ?」
「やめろ」
俺は深く大きな溜息をついた。確かにここのところ、売春婦をターゲットにした強盗がうろついていて、しかもそれがホテルとつるんでるという噂はある。そのホテルが絞り込まれてて、そろそろ上げられそうだというのも知っている。
だからな、とファレルは言った。
「お前かスープのどっちかが『MIDNIGHT LADY』のふりをして、客をひっかけて、そこへ入り込むわけだ。常連は襲わないがお初は狙われるらしいからな」
うんざりした俺に、側にいたスープが淡々と同意する。
「いいですよ」
「スープ」
「俺が女装しましょう」
「いいのか?」
「あなたがしたいんですか?」
「げ」
「どうしてもというなら譲りますが」
「……頼む」
「はい」
夕暮れになると街は曖昧に霞む。年末の華やいだ雰囲気も、一つ通りを裏に潜れば、饐えた臭いの漂う壁にもたれる『LADY』達で吸いつくされてるように沈んでしまう。
『女』もいれば『男』もいるが、きっとその8~9割はROBOTで、その中の1~2割がDOLLなのだろう。酔っぱらった男女が迷い込んでは、壁に這う蜘蛛の巣にひっかかるように一人、また一人と『LADY』と路地裏のホテルに消えていく。
俺はくわえた煙草の煙をゆっくり吸い込んで投げ捨てた。数杯ひっかけた酒の匂いが消えないうちに、ふらついた足取りを装って通りを流す。
「おにいさん、買わない?」
「あん?」
「いい匂いで抱いてよ」
「そうだな」
「僕なんかいかが?」
「うん」
「どっちもいけるの、ならさ」
「ああ、んっ」
次々に媚びを含んだ声をかけて近づいてくる奴らを適当に相手してたら、突然腕を強く引かれて立ち止まる。
黒に近い紺色のドレスだった。身体にしっとり張りつくシルクみたいな光沢で、それだけでも十分周囲から浮いて見え、しかも柔らかそうな茶色の髪をくしゃくしゃと銀色の紐で絡めた下に、鮮やかな緑の目が光ってる。細い身体がしなやかに寄り添ってきて、真っ赤に塗ったルージュで否も応もなく、俺の口を塞いだ。
「っん」
「こら、ちょっとおっ!」
すぐ側で苛立った女が喚いた。
「いきなりやり出すのは御法度よお、知らないの、あんたっ」
「んっ」
「ごめんなさい」
さんざん舐めてようやく俺の口を放したスープは低い声で謝りながら女に振り返った。
「あんまりいい男だから、どうしても欲しくなっちゃって」
「……なによ、それ」
ごく、と周囲に居た『男』の一人が喉を鳴らしたほど妖しい声音。
笑う瞳が猛々しいのが暗がりでも見えたらしい。女が不安そうに瞬いて目を逸らせる。
「なによ、あんた、新参のくせに」
「だから、ごめんって」
「その人、あたしも狙ってたんだから」
「そう」
ひく、とスープの肩が揺れた。
「悪かったわね」
「よさそうじゃない?」
女はスープの殺気を必死に無視しながら居直る。
「酒の匂いはさせてるけどさ、腰もしっかりしてるし」
「……」
「目が死んでないし、身体も弛んでない」
「……」
ぼちぼちそこらでやめてほしい。
俺はスープにシャツを握られながら、きりきりしてくるやつの気配に不安になってきた。まさか、いくら何でも、こんなところで『オリーブ・ドラゴン』に変わったりはしないだろうが、それでも少しでもキレるような話題は避けたい。
だが、俺の祈りは通じなかった。
「あたし、その人ならタダでもいいかなって思ったんだから」
「……」
俺には見えないスープの顔がよほど強ばったのだろう、女がちらっとこちらへ目を移して顔を凍らせた。
「早いもの勝ちでしょ」
ゆっくりと冷ややかにスープは応じた。所有を知らしめるような傲然とした声で、
「あたしがもらうの」
「お金払ってもいいわよ?」
相手の女も引くに引けなくなったのだろう。唇を噛むと俺を見た。
「それとも、選んでもらう?」
「え?」
「選ぶ?」
相手の女が尋ねると同時に、くるんとスープが振り返る。
「選んでくれる?」
「おいおい」
「あたしか、あの人か」
「……あのな」
冗談はよせ、と言いたかったが、スープの視線は本気だ。
お前、何か勘違いしてねえか、何でこんなところで張り合ってんだよ、本来の仕事ってのを忘れてないか?
よほどそう怒鳴りたくなったが、ついこの間、自分の存在価値だの何だのに悩んだところだったし、不安がるのも仕方ないかと溜息をついた。そうだ、つまりはこんな仕事を回したファレルが悪い。
「わかった、選ぶ」
「あら、チャンスが巡ってきたわけ?」
はしゃぐ女と対照的にスープが一気に怯んだ顔になる。そんな顔をするぐらいなら、始めからこんなことをしなければいいのに。苦笑しながら口を開く。
「悪いな、俺は」
わあ、とふいに通りの向こうで騒ぎが起こった。派手な物音と、急に響きだしたサイレン、間近にあった目的のホテルに一気に駆け込む警官が見える。
「あれ?」
「あっ!」
鋭い声を上げて走り出したのは、目の前の女だ。ホテルの方へ駆け寄りかけて、はっとしたように身を翻し、側の路地に逃げ込もうとする。だが、それより早く、建物の影から飛び出してきたファレルが相手の女を掴まえ、俺はあっけに取られた。
「ファレル?」
「おお、おつかれさん」
「何だよ、これは」
「あん? 囮捜査だよ、囮捜査」
「何?」
「お前とスープがいちゃついてくれたから、そっちに目を集めておけたしな。この女があのホテルの元締めなんだ」
「はあ?」
「なかなかシッポ掴まさねえし、ホテルだけ張っても逃げるし、それでまあ」
「はああ?」
「ということで、うん、助かった、もう帰っていいぞ」
「はあああ?」
「報告書は明日な」
「明日って……新年…………休むなって?」
騒ぐ女を車に押し込め、意気揚々と引き上げるファレルに呆れ返る。
「ひでえやつだなあ……署長になってから、扱いが前の署長に似てきてねえか?」。
溜まっていた『LADY』達もあっという間に姿を消し、裏通りにはいつの間にか、スープと俺だけが取り残されてる。
「ったく……仕方ねえなあ。スープ」
「……」
「スープ?」
「あ、はい」
女が消えた方向を見送っていたスープがはっとしたように振り返った。
「帰っていいとよ。帰ろうぜ」
「はい」
「着替えるのも、もう家でいいだろ」
「……でも」
「ん?」
「嫌じゃない、ですか?」
「何が」
「俺、こんな格好ですし」
「え?」
「『MIDNIGHT LADY』拾ったみたいで」
ぼそぼそつぶやいて俯いた。
「さっきの人……ルシアに似てましたよね」
「は?」
ようやくやつが何を気にしていたかに気づく。
「ばか」
「……」
「帰ろうぜ、熱いものでも呑んで寝よう」
「……」
「こんなとこで、そんな薄物着てるから、気持ちまで冷えたんだろ」
家に戻っても沈んだ顔のスープは、そうそうにドレスのままで浴室に消えた。何だか一人になりたそうだったんで、ニ階のシャワーを使ってから、下のリビングに戻ると、スウェット上下でスープはぼんやりとソファに腰かけている。コーヒーを入れてから、隣に腰を降ろして笑いかけた。
「似合ってたのに、惜しかったな」
「え?」
「ほらよ」
「あ、すみません」
コップを渡すと受け取ったものの、それで自分を温めるように両手で包んでじっとしている。
「どうした?」
「はい?」
「何を悩んでる?」
「いえ」
覗き込むと瞳を揺らして少し赤くなった。
「ん?」
「あの」
「うん」
「俺」
「うん?」
「何か、寒くて」
滑らせてきた視線が人恋しそうで、俺はやつの頬に唇を押し付けた。
「俺もだ」
「!」
「さっさとそれ飲んじまえ」
「シーン」
「そいつより熱いものを飲みにいこう」
「っ」
誘うとスープは慌てたようにコップの中身を飲み干した。やけどしたのか、あつ、と小さな声をあげて涙目になる。
「舌見せろ」
「は」
「ここ?」
「っん」
薄赤くなった部分を舐めると、びく、と震えた。口を開き、ゆっくりと舌を突き出す。
「もっと奥?」
問いかけながら口を重ねて舌を滑り込ませる。すぐに必死に絡みついてきた舌をきつく吸うと、小さく悲鳴を上げた。
「姑息なことすんな」
「う」
「上行ってから、幾らでも吸ってやるから」
「は、い」
ベッドになだれ込んだときは、もう十分スープの身体が揺れていた。吐息を零しながら、俺の手が服を剥ぐのをじれったそうに手伝う。
キスを重ね、掌で触り、胸で固くなってきたのを舌でくすぐると、耐えかねたように甘い声をあげて身体をうねらせた。勃ちあがったものが柔らかな熱を放ちながら、微かに光る蜜を溢れさせ始める。誘われて股間に顔を埋める俺を迎えながら、スープが途切れ途切れに何かをつぶやいた。
「んう?」
「ああ」
くわえたままうなると、かなりきつかったみたいで仰け反りながら、首を振る。
「何だって?」
零れた分だけは十分に舐め取って、舌舐めずりしながら顔をあげる。
「俺、女装、してましょうか」
「はあ?」
呼吸を乱しながら、スープが奇妙なことを言い出して、俺はぽかんとした。
「何だって?」
「俺……っは、女装、してたほうが……っん」
こみ上げてくる快感に我慢できないのか、腰を揺らせながら、スープが続ける。
「ドレス、着てた、ほうが、あなたはその気になってくれるんですか?」
「はあ? なんで?」
「だって」
滲んだ甘い声が訴える。
「ここずっと、あなたは、抱かせて……っく、ふ……っ……くれなかったし」
「あ」
確かにそう言えば、遠回しに俺を抱きたい、と言ったのを何度か断った覚えがある。
そこへ今回女装してから俺がその気になったから、スープは俺がやっぱり女にしか興味がないのかと思い出してしまったらしい。
「お、俺はっ……っん、抱かれるっ……の、いい、ですけど……っ、でも……それっ……なんか……っ」
喘ぎながらスープが辛そうにこちらを見つめてきて気づいた。
自分の身体が『人』を引き付けるようにできているのをスープは自覚している。けれど、それはDOLLである以上、特性でしかない。俺がスープの中から滲む甘い体液を吸っているのも、気持ちよりも食われてる感じが強いのかもしれない。
「で、でも、な?」
「はい?」
「いや、その、やっぱり」
俺は口ごもった。身体を離してベッドの上に座り込む。
「あれ……痛いんだ」
「は、い?」
「だから、その、やられるの、痛いんだ」
「あ、ああ」
瞬きしたスープが汗に濡れた髪をかきあげながら起き上がった。
「気持ちよくない?」
「うん……そのやっといて、そんなこと言うの卑怯だが」
「いいえ。なんだ」
「なんだ?」
「わかりました」
にこ、とふいにスープが笑ってどきりとした。
「それなら大丈夫」
「は?」
「俺が嫌なわけじゃないんですね?」
「……お前以外とするなんてのは考えたことないぞ?」
「なら、話は簡単じゃないですか」
「っ!」
ふわりといきなり抱き寄せられて、俺はスープの上に倒れた。拒む間もなくゆっくりと口を重ねられ、滑らかな指であちこち探られ始めて、身体がみるみる熱くなる。勃ちあがろうとしたものが押さえられて苦しくなると、手を添えてなおされ優しく扱かれて俺は忙しくなる呼吸を必死に紡いだ。
「シーン」
「っう」
「前のときは、ここはよかったでしょう?」
「っあぅ」
汗ばみ出した背中を滑り降りた指が、脚を割って後ろから入り込む。それほど抵抗もなくスープの指を呑み込むと、そのままニ本に増やされて思わず声を上げた。
「スー……プっ……」
「もう、こんなに柔らかい」
「っああっ」
ずぶりと埋め込まれた指に仰け反る。
「痛い?」
「っう、ううんっ」
「痛かったらすぐに教えて下さい」
「っく」
「そこでやめてあげますから」
「っあ、っ」
指はゆっくりと前後に動いた。前を扱く指も同じような柔らかさで動く。前と後ろを同じような動きで責められて、俺は無意識に身体を揺らし、その瞬間、ずれ動いた感触に腹の中で弾けるうねりを感じた。
「っあああ」
「なに」
「っう、んっ」
「痛いの?」
「う、ううっ」
首を振る。痛みはない。ただ、うねりがどんどん振幅を増して、身体の中からはみ出そうな気がして、それが少し……怖い。
いつかの蹂躙された記憶の方が甦って、竦んだ身体がスープの指を拒むように締めた。だは、それは後ろを犯されている感覚を一気に強めるだけだ。
「は、うっ」
「シーン」
「あっああっ」
悲鳴のような、けれどどこかにすがりつくような甘い声が喉を突いて、勃ちあがったものがとろりと濡れたのを感じた。濡れたものに絡んだスープの指先が上下する。締めながら、強弱をつけながら絞り上げ、握り込む。
「っは、あっ」
「シーン」
「っう、う」
「こっちも」
「っん、んんっ!」
口を塞がれ、舌を滑り込まされた。口の奥までスープの舌に這い込まれて、一緒に深く後ろに突き立てられた指に、自分がまっすぐ貫き通されたような感覚で硬直する。
「んっ、あっあああっ」
口を解放されたとたん、指がまた増やされて俺は声を上げた。増やされた指がどこか酷く敏感なところに当たってる。
「スー……プっ……」
「痛いですか?」
「うっく、ぅっ」
「イきそう?」
「あっあっあっ」
またものを腹に挟まれて、腰を掴まれ、脚を割られて揺すり上げられた。尻を開く指が次々と入り込んでくるような感覚に、身体中が総毛立つ。
「あっあうっ、うっ」
前を摩り上げるスープの肌の感触が中途半端で辛い。もっと強く押しつけてほしいのに、背後を暴かれてるせいか、最後の線が越えられない。何度か掠めては過ぎる敏感な部分を、もっとちゃんと触ってほしい。
頭が白く過熱し始めたときに、唐突に全ての刺激を止められた。
「は、あっ?」
「シーン」
「あ、う」
「こっちを向いて」
揺らめき波打ってる身体を放っておかれ、スープの顔をぼんやりと見返す。凄い早さで打っている鼓動が空回りしていくようで辛い。
「スープ……っ」
「なに?」
「イかせて、くれ」
「だめです」
「……は……?」
スープの答えがよくわからなくて瞬きした。
「だめ」
「だめ……? ど……して」
「あなたから来てください」
「……え……」
「ほら、ここへ」
スープが自分の下半身を指さした。勃ちあがっているそれが、薄赤い液体にぬめっている。
「ここ……?」
「ええ、でも逆です」
「え……?」
「腰はこっち」
俺は霞みがかった頭で朦朧としながら向きを変え、スープの顔を跨いでやつの股間にもう一度顔を埋めた。甘くねっとりした蜜に吸いつきしゃぶりあげる。口の中へ深く迎え入れたとき、もう一度背後から指が滑り込んで目を見開いた。
「っんぐ」
「シーン」
「んっん」
「舌を動かして」
「んんっ?」
「そう、そうしたら、同じように、ここと」
「っ!」
痛いほど張り詰めたものを撫でられた。
「ここを」
「うぐっ」
今度は後ろで指が動く。
「触ってあげる」
「ん、んんっ、んぁ」
「もっと舌を」
「あんむ、んう」
我ながら、やばい、と思った。舌が止まらない。甘い蜜にぬめるもので口の中を犯されながら、後ろを指で暴かれる。その指の動きがじれったくて、腰を揺らしている自分がいる。ぴちゃ、と濡れた音が響いた。指を突っ込まれた部分にスープが舌を這わせている。そう気づくと堪え切れずに声が漏れた。
「んう……っ」
「ん、ふ」
「ふっ……んぅっ」
指が前後しながら温かな唾液を送り込んでくる。ぬめる感触に助けられて、スープの指がどんどん深く、奥へ入り込む。
「痛い?」
「っん」
「シーン?」
「ん、んうっ」
首を振るともっと深く犯され、俺はぞくぞくしながら震えた。どろどろになった中をかき回すよう指を動かされ、口を止める。滴った唾液が汗と混じってスープのものを伝い落ちる。同じぐらい濡れそぼった俺のものからも雫がしたたって、その感触に脳が焼き切れそうだ。
「もういいかな」
「んうっ」
ふいに指が引かれ、口からものが抜かれ、身体を引き起こされた。茫然としながら振り返ると、スープが優しく笑いながら促す。
「今度は後ろで」
「……え……っ」
「自分で来れば、痛かったらやめられるでしょう?」
「は……?」
「だから、そのまま、ここへ来て?」
スープが何を言っているのか理解したとたんに、全身が熱くなった。
「俺、が?」
「そう」
「……自分で?」
「うん」
「そんな……あ!」
スープがぬるりと後ろから前へ指を這わせる。駆け上がりかけた快感をその寸前でまた止められて、俺は喘ぎながら首を振った。もう少しなのに、そこまで追い上げてくれない。苦しくてそのまま股間に手を伸ばそうとしたら、その手を掴まれ、代わりに後ろに舌を突っ込まれた。
「は、ああっう!」
「だめですよ、シーン」
「う、うくっ」
「こっち向いて」
とろけるような甘い感覚、けれどそれもイくにはぜんぜん足りない。腰を押されて向きを変え、またスープの身体を跨ぐ。息を荒げる俺の口にスープが唇を合わせ、舌で口の中を嬲る。
「っふ、んっんっ」
「辛いでしょう?」
「んっあっんぅっん」
「嫌なら」
「っんっん」
後ろと同じように容赦なく差し込まれ舐め回されて、俺は何度も呻いた。膝が震える。弾けそうになっているものが触られもしないでびくびくする。もう、腰を支え切れない、そう思ったときにふいにスープが両手首を掴んだ。『グランドファーム』で付け替えたばかりの滑らかな両手で、俺の手を一本ずつ握る。必死に目を開けると、微笑んだ口が低く囁いた。
「ずっと、このまま、です」
「え、え……っ」
震えはもう全身に広がっている。ずきずきと股間が痛む。
「スープ」
もう限界まで膨れ上がっていて、後少しでイけそうなのに、スープは黙ったままで俺を見ている。
「スープ……っ」
「だめです」
「無理だ」
「できますよ」
「痛い」
「途中でやめればいいから」
「でも」
「いいんですか、このままで」
「っく!」
手首を引かれて身体を起こされる。股間がスープの腹に触れただけで悪寒に似たものが走り上がる。
「あ、はっ!」
そこにふう、と微かに股間に息を当てられて、俺は跳ね上がった。そのままイければよかったんだが、そこまで俺の身体は敏感じゃない。腰を揺らせて動きで何とかしようとしたら、それも巧みにタイミングを合わせられて、ほとんど刺激にならない。じんじんと頭が痛くなり始めて、俺は顔を歪めた。
だめだ、もう、耐え切れない。今ならどんな酷いことも受け入れてしまうかもしれない。
「どうやって……やる、んだ?」
声はみっともなく掠れ切っていた。
「そのまま、俺の上に降りてください」
「……く、ぅ」
「力を抜いて。息吐いて」
「ふ、ぅ」
眉をしかめて目を閉じ、できるだけ腰を緩めながら落としていく。
「う」
「少し入った」
「くふっ」
「そのまま」
「う、うあっ」
ずぶんと入り込んだ塊に背中を内側から舐められるような感覚が這い上がる。それに気を取られて膝が緩み、一気に落ちた。ぞぶり。ぐ、ちゅっ……。耳を音に犯される。
「う、ああっ」
いきなり敏感なところを思いきり抉られた。咄嗟に浮かそうとした腰を、スープが押さえつけた。
「ひ、……っう、あっ」
「痛い?」
「あ、あうっ、うっ」
うなずこうとしてなお脚を開かれ、また深々と突き刺さる。
「あ、あああーっ」
声を限りに放つと込み上げた熱いものが顔を流れた。固くて大きな塊が俺の中を押し広げている。その質量に慣れる間もなく揺らされる。横に揺さぶられ、縦に揺すられ、温かな塊が熱いものを俺の中に吐き出しながら塗り込めていく。
「はうっっ、うっ、うああっ」
「シーンっ」
「あっ、あっ、あああっ、あああああ」
痛い。痛い。痛い。スープのばかやろう、やっぱ痛いだけじゃねえか。
目を閉じるとぼろぼろ涙が零れる。痛みに切り刻まれるような感覚を、胸の中で罵倒を繰り返して必死に堪えていると、やがて痛いけど、その奥に、身体を自分で揺すらなくては耐えられないような波が生まれた。
それは俺を追い込み押し詰め押しやってくる。放っておくととんでもないところに流されてしまいそうな気がして、それから逃れるように俺は腰を振った。波に合うと一瞬勢いが弱まる気がする。それに気づいて、押し上げてくる波を読み取り、必死に腰を揺らせる。
「いいです、シーン」
「うっ、うっ」
「とても、いい」
「くふっう、うう、っ」
だが、やがて腰を振れば振るほど、その次の波が高まり大きく膨れ上がっていき、俺は怯えて悲鳴を上げた。いつも感じるイく感覚より、もっと底の方、もっと奥の方からすさまじいものが駆け上がってくる。
「シーン……」
掠れた声が耳を打つ。
「俺を、もっと、欲しがって」
「はぁ……っ」
「俺の全部を、欲しがって」
「ふ……」
「俺が、あなたを、欲しがるぐらい……っ」
スープの身体から突然波を煽る熱い風が吹き上がってきて、俺は震えた。波に揺らされ開かれていた身体が、その風を待ち望んでいたようになお開く。そこへまっすぐ強くて激しい風が吹き込み、俺は悲鳴を上げてスープを掴んだ。身体が全部どこかへ吹き飛ばされていく。怖くて怖くてしがみついて懇願する。
「スー……っ」
「はい…っ」
「俺を……っ離す……なっ……あ」
スープの汗に濡れた身体から指が滑った。すがるものがなくなってふわっと浮いた身体をスープがぎゅ、と押さえてくれる。だが、それはより深く風を引き受けることになって。
「ひ、ぅっ」
ずんっ、と重く深く貫かれた。熱風が俺の中を焼きながら駆け抜け、俺は目を見開いた。耳鳴りがするような痛みと快楽、涙が吹き零れる。
「スー……プ……っ」
意識を失いそうになって朦朧としながらつぶやいた。見下ろす顔が歪んで滲む。
「も、う……」
視線を絡めたスープの目がかっと開き、猛々しい光を放った。
「……っ……くぅおっ!」
聞いたことのない雄叫びを上げ、身動きできずに凍る俺を容赦なくもう一度、スープが高く突き上げる。
「シーンンっ!」
「、い……っっっっ!」
仰け反る俺の口から聞いたことのない高い悲鳴が響き渡った。
「……やっぱ痛えじゃねえか」
「すみません」
翌朝、運転を代わったスープが助手席に沈む俺に謝った。
「あんまり色っぽかったんで」
「なんだよ」
「俺まで吹っ飛んじゃいました」
「……あのなあ」
「次は加減しますね?」
「……まだやんの?」
半泣きになった俺にキスを落としてくる。
「あのね」
「あん?」
「そんな顔すると逆効果ですよ?」
「は?」
「絶対またやりたいって思いますから」
「……あ、あのな……」
「でも、痛いばっかりじゃなかったでしょ?」
「……まあ……な」
「そのうち慣れますから」
「慣れる前に」
「え?」
「いや、こっちの話」
腰が壊れたらどうしてくれるんだ、いや、その前に俺が壊れたら?
夕べの自分を思い出して思わず赤面した。途中から、腰振ってたの俺だったよな?
……もう壊れてるのかも。
「よう、夕べは済まなかったな」
「いえ」
署に出ると、ファレルは上機嫌だった。スープを優しくいたわる。
いいけどな、いいんだけどな、本当に酷い目に合ったのは俺なんだぞ? お前、俺が一方的にスープをやってるとか思ってないだろうな? ほんとはな、ほんとはだぞ、こいつはこんな優しい顔しといて、すごく意地悪で酷いやつなんだぞ?
口に出せない文句を胸の中に並べてると、むすっとしてる俺に配慮したのか、ファレルがコーヒーを含みながらなだめにかかる。
「仕方ねえだろ、スープなら十分女に見えるし」
「……」
「そりゃ、せっかくのこんなハンサムに、妙な役割させて悪かったけどな」
「いえ、いいんです」
にっこり笑ったスープが、ファレルに負けず劣らずの上機嫌で応じた。
「夕べはシーンが『LADY』でしたから」
ぶはあああっ。
ファレルが派手にコーヒーを吹いた。
「そうだ」
俺はファレルをじっと見つめた。
「誰が」
「まあ、お前かスープのどっちかが」
「真面目に話せよ」
「真面目に話してる」
「何で張り込みなのに、女装なんだ?」
「仕方ねえだろ、そこがホテルで、ゲイお断りだから」
「他の奴らは?」
「出払ってる」
もう一度ファレルを見つめる。
「大晦日だぞ?」
「だな」
「何が悲しくて、そんなとこで」
「いいだろ、別に」
ファレルが妙な笑みを浮かべる。
「年末も正月も一緒にいられて、おまけにベッドまであるぞ?」
「殴るぞ?」
「やめろ」
俺は深く大きな溜息をついた。確かにここのところ、売春婦をターゲットにした強盗がうろついていて、しかもそれがホテルとつるんでるという噂はある。そのホテルが絞り込まれてて、そろそろ上げられそうだというのも知っている。
だからな、とファレルは言った。
「お前かスープのどっちかが『MIDNIGHT LADY』のふりをして、客をひっかけて、そこへ入り込むわけだ。常連は襲わないがお初は狙われるらしいからな」
うんざりした俺に、側にいたスープが淡々と同意する。
「いいですよ」
「スープ」
「俺が女装しましょう」
「いいのか?」
「あなたがしたいんですか?」
「げ」
「どうしてもというなら譲りますが」
「……頼む」
「はい」
夕暮れになると街は曖昧に霞む。年末の華やいだ雰囲気も、一つ通りを裏に潜れば、饐えた臭いの漂う壁にもたれる『LADY』達で吸いつくされてるように沈んでしまう。
『女』もいれば『男』もいるが、きっとその8~9割はROBOTで、その中の1~2割がDOLLなのだろう。酔っぱらった男女が迷い込んでは、壁に這う蜘蛛の巣にひっかかるように一人、また一人と『LADY』と路地裏のホテルに消えていく。
俺はくわえた煙草の煙をゆっくり吸い込んで投げ捨てた。数杯ひっかけた酒の匂いが消えないうちに、ふらついた足取りを装って通りを流す。
「おにいさん、買わない?」
「あん?」
「いい匂いで抱いてよ」
「そうだな」
「僕なんかいかが?」
「うん」
「どっちもいけるの、ならさ」
「ああ、んっ」
次々に媚びを含んだ声をかけて近づいてくる奴らを適当に相手してたら、突然腕を強く引かれて立ち止まる。
黒に近い紺色のドレスだった。身体にしっとり張りつくシルクみたいな光沢で、それだけでも十分周囲から浮いて見え、しかも柔らかそうな茶色の髪をくしゃくしゃと銀色の紐で絡めた下に、鮮やかな緑の目が光ってる。細い身体がしなやかに寄り添ってきて、真っ赤に塗ったルージュで否も応もなく、俺の口を塞いだ。
「っん」
「こら、ちょっとおっ!」
すぐ側で苛立った女が喚いた。
「いきなりやり出すのは御法度よお、知らないの、あんたっ」
「んっ」
「ごめんなさい」
さんざん舐めてようやく俺の口を放したスープは低い声で謝りながら女に振り返った。
「あんまりいい男だから、どうしても欲しくなっちゃって」
「……なによ、それ」
ごく、と周囲に居た『男』の一人が喉を鳴らしたほど妖しい声音。
笑う瞳が猛々しいのが暗がりでも見えたらしい。女が不安そうに瞬いて目を逸らせる。
「なによ、あんた、新参のくせに」
「だから、ごめんって」
「その人、あたしも狙ってたんだから」
「そう」
ひく、とスープの肩が揺れた。
「悪かったわね」
「よさそうじゃない?」
女はスープの殺気を必死に無視しながら居直る。
「酒の匂いはさせてるけどさ、腰もしっかりしてるし」
「……」
「目が死んでないし、身体も弛んでない」
「……」
ぼちぼちそこらでやめてほしい。
俺はスープにシャツを握られながら、きりきりしてくるやつの気配に不安になってきた。まさか、いくら何でも、こんなところで『オリーブ・ドラゴン』に変わったりはしないだろうが、それでも少しでもキレるような話題は避けたい。
だが、俺の祈りは通じなかった。
「あたし、その人ならタダでもいいかなって思ったんだから」
「……」
俺には見えないスープの顔がよほど強ばったのだろう、女がちらっとこちらへ目を移して顔を凍らせた。
「早いもの勝ちでしょ」
ゆっくりと冷ややかにスープは応じた。所有を知らしめるような傲然とした声で、
「あたしがもらうの」
「お金払ってもいいわよ?」
相手の女も引くに引けなくなったのだろう。唇を噛むと俺を見た。
「それとも、選んでもらう?」
「え?」
「選ぶ?」
相手の女が尋ねると同時に、くるんとスープが振り返る。
「選んでくれる?」
「おいおい」
「あたしか、あの人か」
「……あのな」
冗談はよせ、と言いたかったが、スープの視線は本気だ。
お前、何か勘違いしてねえか、何でこんなところで張り合ってんだよ、本来の仕事ってのを忘れてないか?
よほどそう怒鳴りたくなったが、ついこの間、自分の存在価値だの何だのに悩んだところだったし、不安がるのも仕方ないかと溜息をついた。そうだ、つまりはこんな仕事を回したファレルが悪い。
「わかった、選ぶ」
「あら、チャンスが巡ってきたわけ?」
はしゃぐ女と対照的にスープが一気に怯んだ顔になる。そんな顔をするぐらいなら、始めからこんなことをしなければいいのに。苦笑しながら口を開く。
「悪いな、俺は」
わあ、とふいに通りの向こうで騒ぎが起こった。派手な物音と、急に響きだしたサイレン、間近にあった目的のホテルに一気に駆け込む警官が見える。
「あれ?」
「あっ!」
鋭い声を上げて走り出したのは、目の前の女だ。ホテルの方へ駆け寄りかけて、はっとしたように身を翻し、側の路地に逃げ込もうとする。だが、それより早く、建物の影から飛び出してきたファレルが相手の女を掴まえ、俺はあっけに取られた。
「ファレル?」
「おお、おつかれさん」
「何だよ、これは」
「あん? 囮捜査だよ、囮捜査」
「何?」
「お前とスープがいちゃついてくれたから、そっちに目を集めておけたしな。この女があのホテルの元締めなんだ」
「はあ?」
「なかなかシッポ掴まさねえし、ホテルだけ張っても逃げるし、それでまあ」
「はああ?」
「ということで、うん、助かった、もう帰っていいぞ」
「はあああ?」
「報告書は明日な」
「明日って……新年…………休むなって?」
騒ぐ女を車に押し込め、意気揚々と引き上げるファレルに呆れ返る。
「ひでえやつだなあ……署長になってから、扱いが前の署長に似てきてねえか?」。
溜まっていた『LADY』達もあっという間に姿を消し、裏通りにはいつの間にか、スープと俺だけが取り残されてる。
「ったく……仕方ねえなあ。スープ」
「……」
「スープ?」
「あ、はい」
女が消えた方向を見送っていたスープがはっとしたように振り返った。
「帰っていいとよ。帰ろうぜ」
「はい」
「着替えるのも、もう家でいいだろ」
「……でも」
「ん?」
「嫌じゃない、ですか?」
「何が」
「俺、こんな格好ですし」
「え?」
「『MIDNIGHT LADY』拾ったみたいで」
ぼそぼそつぶやいて俯いた。
「さっきの人……ルシアに似てましたよね」
「は?」
ようやくやつが何を気にしていたかに気づく。
「ばか」
「……」
「帰ろうぜ、熱いものでも呑んで寝よう」
「……」
「こんなとこで、そんな薄物着てるから、気持ちまで冷えたんだろ」
家に戻っても沈んだ顔のスープは、そうそうにドレスのままで浴室に消えた。何だか一人になりたそうだったんで、ニ階のシャワーを使ってから、下のリビングに戻ると、スウェット上下でスープはぼんやりとソファに腰かけている。コーヒーを入れてから、隣に腰を降ろして笑いかけた。
「似合ってたのに、惜しかったな」
「え?」
「ほらよ」
「あ、すみません」
コップを渡すと受け取ったものの、それで自分を温めるように両手で包んでじっとしている。
「どうした?」
「はい?」
「何を悩んでる?」
「いえ」
覗き込むと瞳を揺らして少し赤くなった。
「ん?」
「あの」
「うん」
「俺」
「うん?」
「何か、寒くて」
滑らせてきた視線が人恋しそうで、俺はやつの頬に唇を押し付けた。
「俺もだ」
「!」
「さっさとそれ飲んじまえ」
「シーン」
「そいつより熱いものを飲みにいこう」
「っ」
誘うとスープは慌てたようにコップの中身を飲み干した。やけどしたのか、あつ、と小さな声をあげて涙目になる。
「舌見せろ」
「は」
「ここ?」
「っん」
薄赤くなった部分を舐めると、びく、と震えた。口を開き、ゆっくりと舌を突き出す。
「もっと奥?」
問いかけながら口を重ねて舌を滑り込ませる。すぐに必死に絡みついてきた舌をきつく吸うと、小さく悲鳴を上げた。
「姑息なことすんな」
「う」
「上行ってから、幾らでも吸ってやるから」
「は、い」
ベッドになだれ込んだときは、もう十分スープの身体が揺れていた。吐息を零しながら、俺の手が服を剥ぐのをじれったそうに手伝う。
キスを重ね、掌で触り、胸で固くなってきたのを舌でくすぐると、耐えかねたように甘い声をあげて身体をうねらせた。勃ちあがったものが柔らかな熱を放ちながら、微かに光る蜜を溢れさせ始める。誘われて股間に顔を埋める俺を迎えながら、スープが途切れ途切れに何かをつぶやいた。
「んう?」
「ああ」
くわえたままうなると、かなりきつかったみたいで仰け反りながら、首を振る。
「何だって?」
零れた分だけは十分に舐め取って、舌舐めずりしながら顔をあげる。
「俺、女装、してましょうか」
「はあ?」
呼吸を乱しながら、スープが奇妙なことを言い出して、俺はぽかんとした。
「何だって?」
「俺……っは、女装、してたほうが……っん」
こみ上げてくる快感に我慢できないのか、腰を揺らせながら、スープが続ける。
「ドレス、着てた、ほうが、あなたはその気になってくれるんですか?」
「はあ? なんで?」
「だって」
滲んだ甘い声が訴える。
「ここずっと、あなたは、抱かせて……っく、ふ……っ……くれなかったし」
「あ」
確かにそう言えば、遠回しに俺を抱きたい、と言ったのを何度か断った覚えがある。
そこへ今回女装してから俺がその気になったから、スープは俺がやっぱり女にしか興味がないのかと思い出してしまったらしい。
「お、俺はっ……っん、抱かれるっ……の、いい、ですけど……っ、でも……それっ……なんか……っ」
喘ぎながらスープが辛そうにこちらを見つめてきて気づいた。
自分の身体が『人』を引き付けるようにできているのをスープは自覚している。けれど、それはDOLLである以上、特性でしかない。俺がスープの中から滲む甘い体液を吸っているのも、気持ちよりも食われてる感じが強いのかもしれない。
「で、でも、な?」
「はい?」
「いや、その、やっぱり」
俺は口ごもった。身体を離してベッドの上に座り込む。
「あれ……痛いんだ」
「は、い?」
「だから、その、やられるの、痛いんだ」
「あ、ああ」
瞬きしたスープが汗に濡れた髪をかきあげながら起き上がった。
「気持ちよくない?」
「うん……そのやっといて、そんなこと言うの卑怯だが」
「いいえ。なんだ」
「なんだ?」
「わかりました」
にこ、とふいにスープが笑ってどきりとした。
「それなら大丈夫」
「は?」
「俺が嫌なわけじゃないんですね?」
「……お前以外とするなんてのは考えたことないぞ?」
「なら、話は簡単じゃないですか」
「っ!」
ふわりといきなり抱き寄せられて、俺はスープの上に倒れた。拒む間もなくゆっくりと口を重ねられ、滑らかな指であちこち探られ始めて、身体がみるみる熱くなる。勃ちあがろうとしたものが押さえられて苦しくなると、手を添えてなおされ優しく扱かれて俺は忙しくなる呼吸を必死に紡いだ。
「シーン」
「っう」
「前のときは、ここはよかったでしょう?」
「っあぅ」
汗ばみ出した背中を滑り降りた指が、脚を割って後ろから入り込む。それほど抵抗もなくスープの指を呑み込むと、そのままニ本に増やされて思わず声を上げた。
「スー……プっ……」
「もう、こんなに柔らかい」
「っああっ」
ずぶりと埋め込まれた指に仰け反る。
「痛い?」
「っう、ううんっ」
「痛かったらすぐに教えて下さい」
「っく」
「そこでやめてあげますから」
「っあ、っ」
指はゆっくりと前後に動いた。前を扱く指も同じような柔らかさで動く。前と後ろを同じような動きで責められて、俺は無意識に身体を揺らし、その瞬間、ずれ動いた感触に腹の中で弾けるうねりを感じた。
「っあああ」
「なに」
「っう、んっ」
「痛いの?」
「う、ううっ」
首を振る。痛みはない。ただ、うねりがどんどん振幅を増して、身体の中からはみ出そうな気がして、それが少し……怖い。
いつかの蹂躙された記憶の方が甦って、竦んだ身体がスープの指を拒むように締めた。だは、それは後ろを犯されている感覚を一気に強めるだけだ。
「は、うっ」
「シーン」
「あっああっ」
悲鳴のような、けれどどこかにすがりつくような甘い声が喉を突いて、勃ちあがったものがとろりと濡れたのを感じた。濡れたものに絡んだスープの指先が上下する。締めながら、強弱をつけながら絞り上げ、握り込む。
「っは、あっ」
「シーン」
「っう、う」
「こっちも」
「っん、んんっ!」
口を塞がれ、舌を滑り込まされた。口の奥までスープの舌に這い込まれて、一緒に深く後ろに突き立てられた指に、自分がまっすぐ貫き通されたような感覚で硬直する。
「んっ、あっあああっ」
口を解放されたとたん、指がまた増やされて俺は声を上げた。増やされた指がどこか酷く敏感なところに当たってる。
「スー……プっ……」
「痛いですか?」
「うっく、ぅっ」
「イきそう?」
「あっあっあっ」
またものを腹に挟まれて、腰を掴まれ、脚を割られて揺すり上げられた。尻を開く指が次々と入り込んでくるような感覚に、身体中が総毛立つ。
「あっあうっ、うっ」
前を摩り上げるスープの肌の感触が中途半端で辛い。もっと強く押しつけてほしいのに、背後を暴かれてるせいか、最後の線が越えられない。何度か掠めては過ぎる敏感な部分を、もっとちゃんと触ってほしい。
頭が白く過熱し始めたときに、唐突に全ての刺激を止められた。
「は、あっ?」
「シーン」
「あ、う」
「こっちを向いて」
揺らめき波打ってる身体を放っておかれ、スープの顔をぼんやりと見返す。凄い早さで打っている鼓動が空回りしていくようで辛い。
「スープ……っ」
「なに?」
「イかせて、くれ」
「だめです」
「……は……?」
スープの答えがよくわからなくて瞬きした。
「だめ」
「だめ……? ど……して」
「あなたから来てください」
「……え……」
「ほら、ここへ」
スープが自分の下半身を指さした。勃ちあがっているそれが、薄赤い液体にぬめっている。
「ここ……?」
「ええ、でも逆です」
「え……?」
「腰はこっち」
俺は霞みがかった頭で朦朧としながら向きを変え、スープの顔を跨いでやつの股間にもう一度顔を埋めた。甘くねっとりした蜜に吸いつきしゃぶりあげる。口の中へ深く迎え入れたとき、もう一度背後から指が滑り込んで目を見開いた。
「っんぐ」
「シーン」
「んっん」
「舌を動かして」
「んんっ?」
「そう、そうしたら、同じように、ここと」
「っ!」
痛いほど張り詰めたものを撫でられた。
「ここを」
「うぐっ」
今度は後ろで指が動く。
「触ってあげる」
「ん、んんっ、んぁ」
「もっと舌を」
「あんむ、んう」
我ながら、やばい、と思った。舌が止まらない。甘い蜜にぬめるもので口の中を犯されながら、後ろを指で暴かれる。その指の動きがじれったくて、腰を揺らしている自分がいる。ぴちゃ、と濡れた音が響いた。指を突っ込まれた部分にスープが舌を這わせている。そう気づくと堪え切れずに声が漏れた。
「んう……っ」
「ん、ふ」
「ふっ……んぅっ」
指が前後しながら温かな唾液を送り込んでくる。ぬめる感触に助けられて、スープの指がどんどん深く、奥へ入り込む。
「痛い?」
「っん」
「シーン?」
「ん、んうっ」
首を振るともっと深く犯され、俺はぞくぞくしながら震えた。どろどろになった中をかき回すよう指を動かされ、口を止める。滴った唾液が汗と混じってスープのものを伝い落ちる。同じぐらい濡れそぼった俺のものからも雫がしたたって、その感触に脳が焼き切れそうだ。
「もういいかな」
「んうっ」
ふいに指が引かれ、口からものが抜かれ、身体を引き起こされた。茫然としながら振り返ると、スープが優しく笑いながら促す。
「今度は後ろで」
「……え……っ」
「自分で来れば、痛かったらやめられるでしょう?」
「は……?」
「だから、そのまま、ここへ来て?」
スープが何を言っているのか理解したとたんに、全身が熱くなった。
「俺、が?」
「そう」
「……自分で?」
「うん」
「そんな……あ!」
スープがぬるりと後ろから前へ指を這わせる。駆け上がりかけた快感をその寸前でまた止められて、俺は喘ぎながら首を振った。もう少しなのに、そこまで追い上げてくれない。苦しくてそのまま股間に手を伸ばそうとしたら、その手を掴まれ、代わりに後ろに舌を突っ込まれた。
「は、ああっう!」
「だめですよ、シーン」
「う、うくっ」
「こっち向いて」
とろけるような甘い感覚、けれどそれもイくにはぜんぜん足りない。腰を押されて向きを変え、またスープの身体を跨ぐ。息を荒げる俺の口にスープが唇を合わせ、舌で口の中を嬲る。
「っふ、んっんっ」
「辛いでしょう?」
「んっあっんぅっん」
「嫌なら」
「っんっん」
後ろと同じように容赦なく差し込まれ舐め回されて、俺は何度も呻いた。膝が震える。弾けそうになっているものが触られもしないでびくびくする。もう、腰を支え切れない、そう思ったときにふいにスープが両手首を掴んだ。『グランドファーム』で付け替えたばかりの滑らかな両手で、俺の手を一本ずつ握る。必死に目を開けると、微笑んだ口が低く囁いた。
「ずっと、このまま、です」
「え、え……っ」
震えはもう全身に広がっている。ずきずきと股間が痛む。
「スープ」
もう限界まで膨れ上がっていて、後少しでイけそうなのに、スープは黙ったままで俺を見ている。
「スープ……っ」
「だめです」
「無理だ」
「できますよ」
「痛い」
「途中でやめればいいから」
「でも」
「いいんですか、このままで」
「っく!」
手首を引かれて身体を起こされる。股間がスープの腹に触れただけで悪寒に似たものが走り上がる。
「あ、はっ!」
そこにふう、と微かに股間に息を当てられて、俺は跳ね上がった。そのままイければよかったんだが、そこまで俺の身体は敏感じゃない。腰を揺らせて動きで何とかしようとしたら、それも巧みにタイミングを合わせられて、ほとんど刺激にならない。じんじんと頭が痛くなり始めて、俺は顔を歪めた。
だめだ、もう、耐え切れない。今ならどんな酷いことも受け入れてしまうかもしれない。
「どうやって……やる、んだ?」
声はみっともなく掠れ切っていた。
「そのまま、俺の上に降りてください」
「……く、ぅ」
「力を抜いて。息吐いて」
「ふ、ぅ」
眉をしかめて目を閉じ、できるだけ腰を緩めながら落としていく。
「う」
「少し入った」
「くふっ」
「そのまま」
「う、うあっ」
ずぶんと入り込んだ塊に背中を内側から舐められるような感覚が這い上がる。それに気を取られて膝が緩み、一気に落ちた。ぞぶり。ぐ、ちゅっ……。耳を音に犯される。
「う、ああっ」
いきなり敏感なところを思いきり抉られた。咄嗟に浮かそうとした腰を、スープが押さえつけた。
「ひ、……っう、あっ」
「痛い?」
「あ、あうっ、うっ」
うなずこうとしてなお脚を開かれ、また深々と突き刺さる。
「あ、あああーっ」
声を限りに放つと込み上げた熱いものが顔を流れた。固くて大きな塊が俺の中を押し広げている。その質量に慣れる間もなく揺らされる。横に揺さぶられ、縦に揺すられ、温かな塊が熱いものを俺の中に吐き出しながら塗り込めていく。
「はうっっ、うっ、うああっ」
「シーンっ」
「あっ、あっ、あああっ、あああああ」
痛い。痛い。痛い。スープのばかやろう、やっぱ痛いだけじゃねえか。
目を閉じるとぼろぼろ涙が零れる。痛みに切り刻まれるような感覚を、胸の中で罵倒を繰り返して必死に堪えていると、やがて痛いけど、その奥に、身体を自分で揺すらなくては耐えられないような波が生まれた。
それは俺を追い込み押し詰め押しやってくる。放っておくととんでもないところに流されてしまいそうな気がして、それから逃れるように俺は腰を振った。波に合うと一瞬勢いが弱まる気がする。それに気づいて、押し上げてくる波を読み取り、必死に腰を揺らせる。
「いいです、シーン」
「うっ、うっ」
「とても、いい」
「くふっう、うう、っ」
だが、やがて腰を振れば振るほど、その次の波が高まり大きく膨れ上がっていき、俺は怯えて悲鳴を上げた。いつも感じるイく感覚より、もっと底の方、もっと奥の方からすさまじいものが駆け上がってくる。
「シーン……」
掠れた声が耳を打つ。
「俺を、もっと、欲しがって」
「はぁ……っ」
「俺の全部を、欲しがって」
「ふ……」
「俺が、あなたを、欲しがるぐらい……っ」
スープの身体から突然波を煽る熱い風が吹き上がってきて、俺は震えた。波に揺らされ開かれていた身体が、その風を待ち望んでいたようになお開く。そこへまっすぐ強くて激しい風が吹き込み、俺は悲鳴を上げてスープを掴んだ。身体が全部どこかへ吹き飛ばされていく。怖くて怖くてしがみついて懇願する。
「スー……っ」
「はい…っ」
「俺を……っ離す……なっ……あ」
スープの汗に濡れた身体から指が滑った。すがるものがなくなってふわっと浮いた身体をスープがぎゅ、と押さえてくれる。だが、それはより深く風を引き受けることになって。
「ひ、ぅっ」
ずんっ、と重く深く貫かれた。熱風が俺の中を焼きながら駆け抜け、俺は目を見開いた。耳鳴りがするような痛みと快楽、涙が吹き零れる。
「スー……プ……っ」
意識を失いそうになって朦朧としながらつぶやいた。見下ろす顔が歪んで滲む。
「も、う……」
視線を絡めたスープの目がかっと開き、猛々しい光を放った。
「……っ……くぅおっ!」
聞いたことのない雄叫びを上げ、身動きできずに凍る俺を容赦なくもう一度、スープが高く突き上げる。
「シーンンっ!」
「、い……っっっっ!」
仰け反る俺の口から聞いたことのない高い悲鳴が響き渡った。
「……やっぱ痛えじゃねえか」
「すみません」
翌朝、運転を代わったスープが助手席に沈む俺に謝った。
「あんまり色っぽかったんで」
「なんだよ」
「俺まで吹っ飛んじゃいました」
「……あのなあ」
「次は加減しますね?」
「……まだやんの?」
半泣きになった俺にキスを落としてくる。
「あのね」
「あん?」
「そんな顔すると逆効果ですよ?」
「は?」
「絶対またやりたいって思いますから」
「……あ、あのな……」
「でも、痛いばっかりじゃなかったでしょ?」
「……まあ……な」
「そのうち慣れますから」
「慣れる前に」
「え?」
「いや、こっちの話」
腰が壊れたらどうしてくれるんだ、いや、その前に俺が壊れたら?
夕べの自分を思い出して思わず赤面した。途中から、腰振ってたの俺だったよな?
……もう壊れてるのかも。
「よう、夕べは済まなかったな」
「いえ」
署に出ると、ファレルは上機嫌だった。スープを優しくいたわる。
いいけどな、いいんだけどな、本当に酷い目に合ったのは俺なんだぞ? お前、俺が一方的にスープをやってるとか思ってないだろうな? ほんとはな、ほんとはだぞ、こいつはこんな優しい顔しといて、すごく意地悪で酷いやつなんだぞ?
口に出せない文句を胸の中に並べてると、むすっとしてる俺に配慮したのか、ファレルがコーヒーを含みながらなだめにかかる。
「仕方ねえだろ、スープなら十分女に見えるし」
「……」
「そりゃ、せっかくのこんなハンサムに、妙な役割させて悪かったけどな」
「いえ、いいんです」
にっこり笑ったスープが、ファレルに負けず劣らずの上機嫌で応じた。
「夕べはシーンが『LADY』でしたから」
ぶはあああっ。
ファレルが派手にコーヒーを吹いた。
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