霊道開き

segakiyui

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「あれ」
 ドアの外の灰色の廊下に、まるで私の部屋に向かって立つように、一組の足跡があった。
 大きさはそう、小学生ぐらいの子どものようなものか。とても小柄な女性のようでもある。まるで、わざわざ泥靴を抱えてきて、そこにぺたりと押し付け、またそそくさと持ち去ったような感じで、その一組の足跡だけが残っている。
 がたん。
 慌てたようなドアの閉まる音が響いて、右隣を振り向いた。
 隣の部屋のドアの中央で、小さな赤い帽子に花束をあしらった飾りがゆらゆら揺れている。今開いてたのは確かなようだ。そのまま目線をずらすと、忌引の灰色と白の紙が見える。
 畑中さんの一人娘が交通事故で死んだのは数日前。溺愛していた母親の号泣は、マンションの集会場で行われた葬儀の間中、部屋のコンクリートに跳ね返っていた。
 私はもう一度目の前の靴の跡を見た。
 やだな、うっとうしい。
 眉をしかめて、溜め息をつき、ドアを閉めて部屋に戻る。まっすぐで短い廊下、ガラスの入った扉を経て、ダイニングキッチン、その奥の居間へのろのろと戻った。
 超常現象は基本的に信じていない。たぶん、あの足跡は隣の奥さんがつけたものだろう。
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