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第3話 花咲姫と奔流王
25.鉱虫(4)
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「シャルン!」
さすがにこれ以上の悪趣味を重ねる気になれず、レダンは声を張り上げた。
「大丈夫だ。こいつら……ガーダスは、俺達に興味がないようだ!」
ことばだけでは足りないと思って、ごそごそ動き回るガーダスの合間をすり抜けて、シャルンの元へ駆け戻る。
「陛下……っ……レダン……っっ!」
飛びつくようにしがみついたシャルンは、全身震えていて、それほどの恐怖と不安を与えたのが辛く、同時にそれほどに自分を欲して案じてくれたのがたまらなく嬉しくて、唇が綻び…。
がつっ!
「つっ!」
「…何を嬉しそうにニヤニヤされているんですかこの変態俺様王は」
冷ややかな声とともに頭を抱えて蹲るほどの打撃が降ってきた。
「ルッカ!」
「ああそうじゃ今のは駄目じゃ殴られても仕方がない何なら私がもう一発殴っても良いと思うがどうじゃろうか?」
シャルンの声に被せるように大きな深い溜息をつき、ミラルシアも罵倒する
「…ミラルシア様まで! どうなさったのですか、一体」
シャルンが必死に庇ってくれる。
「陛下がご無事だったのですよ、なぜお二人とも陛下を叩かれるのですか?」
ああ可愛い。本当に可愛くてならない。
レダンは綻ぶ口元をさすがに覆った。
「…説明しなさい変態王」
「もちろん弁明するのじゃろうな、レダン」
ルッカとミラルシアの容赦ない糾弾に、レダンは頭を摩りながら立ち上がった。
「それよりもまず謝罪なんだろう? 済まなかった、シャルン。あなたを怯えさせたね?」
「わ…私は…」
何を思い出したのか、振り向いたシャルンの瞳に光る粒が膨れ上がる。悲しげに切なげに息を引くから、そっと目元にキスして舐め取っておく。驚いたのか、涙が止まったから、できるだけ笑顔を見せてレダンは話し出した。
「最初に剣を収めた時に、どうもガーダスはこちらに敵意がないようだと感じたんだよ。ガーダスにとって人間は、羽虫程度のもののようだ。側に居ても岩くれと変わらない……いや、岩くれだったら食べられるから、まあ、砂粒のようなものか」
「砂粒…ですか」
まだ涙に滲んだ声で応じて、シャルンは首を傾げた。
「まあ、あの大きさだしな。それに多分、ガーダスは見ることができないと思う。匂いか、動きみたいなもので、俺達を感じ取っているんじゃないかな」
レダンは広間を振り返った。
バラディオスとガストはまだ興味深そうにガーダスの側に立って、動きを眺めている。戻り始めたサリストアがシャルンに気づいて、明るい笑顔で手を振ってみせる。
「恐らく、あの広間にはガーダスが好む岩があちらこちらに埋まっているんだろう。ここはガーダスのお気に入りの餌場だということだな」
「餌場…」
「あちらこちらからやって来て、思い思いに岩を食べ、移動して行く。ほら、あそこの数匹はもうここを離れるようだ」
指差して見せると、シャルンは出て来た通路と違う通路へ入って行くガーダスをしげしげと眺めた。
「陛下…」
「もう大丈夫だよ、安心していい、シャルン」
「…いえ、あの…あの、少しくすんだ色のガーダスが、一匹だけ全く違う方に向かいます」
「違う方向?」
シャルンに示されてレダンは振り向く。ガストも気づいたようだ。確かに1匹だけ、他のガーダスと全く違う方へのろのろと向かって行く。しかも、並外れてゆっくりな速度、シャルンでさえ追い付けるぐらいに見える。
「…ひょっとすると」
レダンはルッカにこれまで通り、来た道に印をつけさせた。シャルンを伴い、広間に戻る。すぐ側でガーダスの巨体を見上げたシャルンが息を呑む。
近づいてレダンも気づいた。よく見ると体の表面がボロボロだ。えぐれたような傷もあり、どす黒く見えるほどの穴も空いている。
「ガスト、このガーダスは」
「ええそうです、他のものみたいに頻回に岩場を掘り込まない。むしろ、どんどん動きが鈍くなって来ている気がします。さっき触れて見ましたが、他のガーダスよりひんやりとした感触がある。ひょっとすると、こいつは」
「死にかけている、か?」
ガストが大きく頷く。
「死にかけたガーダスは墓場に向かうんじゃないでしょうか。こいつが向かう先に、アルシアで見たような繭があれば」
「その近くに巨大なミディルン鉱石と、龍、がいる可能性がある」
「はい」
レダンはシャルンを振り向いた。さっきまで涙で濡れていた瞳が、強くきらきらと光っている。
「シャルン、聞いたか?」
「聞いておりました。そこに、母が居るかも知れません」
レダンの愛してやまない暁の星を思わせる瞳で、シャルンはレダンをしっかり見上げた。
「陛下、そこへ私をお連れ下さいませんか」
「もちろんだ、シャルン……っってえっ!」
頼ってくれたことが嬉しいと唇を綻ばせたレダンは、再びルッカに蹴飛ばされた。
さすがにこれ以上の悪趣味を重ねる気になれず、レダンは声を張り上げた。
「大丈夫だ。こいつら……ガーダスは、俺達に興味がないようだ!」
ことばだけでは足りないと思って、ごそごそ動き回るガーダスの合間をすり抜けて、シャルンの元へ駆け戻る。
「陛下……っ……レダン……っっ!」
飛びつくようにしがみついたシャルンは、全身震えていて、それほどの恐怖と不安を与えたのが辛く、同時にそれほどに自分を欲して案じてくれたのがたまらなく嬉しくて、唇が綻び…。
がつっ!
「つっ!」
「…何を嬉しそうにニヤニヤされているんですかこの変態俺様王は」
冷ややかな声とともに頭を抱えて蹲るほどの打撃が降ってきた。
「ルッカ!」
「ああそうじゃ今のは駄目じゃ殴られても仕方がない何なら私がもう一発殴っても良いと思うがどうじゃろうか?」
シャルンの声に被せるように大きな深い溜息をつき、ミラルシアも罵倒する
「…ミラルシア様まで! どうなさったのですか、一体」
シャルンが必死に庇ってくれる。
「陛下がご無事だったのですよ、なぜお二人とも陛下を叩かれるのですか?」
ああ可愛い。本当に可愛くてならない。
レダンは綻ぶ口元をさすがに覆った。
「…説明しなさい変態王」
「もちろん弁明するのじゃろうな、レダン」
ルッカとミラルシアの容赦ない糾弾に、レダンは頭を摩りながら立ち上がった。
「それよりもまず謝罪なんだろう? 済まなかった、シャルン。あなたを怯えさせたね?」
「わ…私は…」
何を思い出したのか、振り向いたシャルンの瞳に光る粒が膨れ上がる。悲しげに切なげに息を引くから、そっと目元にキスして舐め取っておく。驚いたのか、涙が止まったから、できるだけ笑顔を見せてレダンは話し出した。
「最初に剣を収めた時に、どうもガーダスはこちらに敵意がないようだと感じたんだよ。ガーダスにとって人間は、羽虫程度のもののようだ。側に居ても岩くれと変わらない……いや、岩くれだったら食べられるから、まあ、砂粒のようなものか」
「砂粒…ですか」
まだ涙に滲んだ声で応じて、シャルンは首を傾げた。
「まあ、あの大きさだしな。それに多分、ガーダスは見ることができないと思う。匂いか、動きみたいなもので、俺達を感じ取っているんじゃないかな」
レダンは広間を振り返った。
バラディオスとガストはまだ興味深そうにガーダスの側に立って、動きを眺めている。戻り始めたサリストアがシャルンに気づいて、明るい笑顔で手を振ってみせる。
「恐らく、あの広間にはガーダスが好む岩があちらこちらに埋まっているんだろう。ここはガーダスのお気に入りの餌場だということだな」
「餌場…」
「あちらこちらからやって来て、思い思いに岩を食べ、移動して行く。ほら、あそこの数匹はもうここを離れるようだ」
指差して見せると、シャルンは出て来た通路と違う通路へ入って行くガーダスをしげしげと眺めた。
「陛下…」
「もう大丈夫だよ、安心していい、シャルン」
「…いえ、あの…あの、少しくすんだ色のガーダスが、一匹だけ全く違う方に向かいます」
「違う方向?」
シャルンに示されてレダンは振り向く。ガストも気づいたようだ。確かに1匹だけ、他のガーダスと全く違う方へのろのろと向かって行く。しかも、並外れてゆっくりな速度、シャルンでさえ追い付けるぐらいに見える。
「…ひょっとすると」
レダンはルッカにこれまで通り、来た道に印をつけさせた。シャルンを伴い、広間に戻る。すぐ側でガーダスの巨体を見上げたシャルンが息を呑む。
近づいてレダンも気づいた。よく見ると体の表面がボロボロだ。えぐれたような傷もあり、どす黒く見えるほどの穴も空いている。
「ガスト、このガーダスは」
「ええそうです、他のものみたいに頻回に岩場を掘り込まない。むしろ、どんどん動きが鈍くなって来ている気がします。さっき触れて見ましたが、他のガーダスよりひんやりとした感触がある。ひょっとすると、こいつは」
「死にかけている、か?」
ガストが大きく頷く。
「死にかけたガーダスは墓場に向かうんじゃないでしょうか。こいつが向かう先に、アルシアで見たような繭があれば」
「その近くに巨大なミディルン鉱石と、龍、がいる可能性がある」
「はい」
レダンはシャルンを振り向いた。さっきまで涙で濡れていた瞳が、強くきらきらと光っている。
「シャルン、聞いたか?」
「聞いておりました。そこに、母が居るかも知れません」
レダンの愛してやまない暁の星を思わせる瞳で、シャルンはレダンをしっかり見上げた。
「陛下、そこへ私をお連れ下さいませんか」
「もちろんだ、シャルン……っってえっ!」
頼ってくれたことが嬉しいと唇を綻ばせたレダンは、再びルッカに蹴飛ばされた。
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