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第3話 花咲姫と奔流王
19.使役(1)
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ぱちゃぱちゃと眩い日射しの中で砂浜に波が打ち寄せている。
水は手元に掬えば透明で、濁りも澱みも見えないが、少し離れただけで青々と深みを増していく。
「はい、この辺りから離れちゃだめだよ」
サリストアが声を掛けて制したから、シャルンは水の中を歩む足を止めた。
打ち寄せる、引いていく。
身につけている下着に似た薄いドレスが膝丈上で揺れ、ともすれば波に乱れて体を持ち去ろうとする。素足でも気持ち良さそうだと思ったが、これまた薄い布の靴下を穿かされた。何でも砂の中には尖った石が紛れ込んでいたり、貝殻の欠片なども見つかるから、足を傷つけることがあるらしい。
「そのままゆっくりしゃがみ込む」
「はいっ」
サリストアに促されて、静かに水、いや、海の中に腰を落とす。
迫り上がる澄んだ水に恐怖はなかったが、川と違ってふいにざぶりと寄せてくる波に一気に顎まで洗われ、慌てて立ち上がった。
「あ」
「シャルン」
強く踏んだ踵が砂に沈み込み、体が傾いで倒れ込み掛けたところを、咄嗟にレダンに腕を掴まれ支えられる。
「も、申し訳ございません」
「急に動くと足元が不安定だからね、レダンの腕に掴まってもう1回座ってごらん」
「はい」
サリストアに促されて、レダンの腕にしがみつきながら腰を下ろす。
「っん」
「あ、強すぎましたか」
「いや、その違う意味でこれは色々刺激的だな、うん」
レダンは妙な顔でぶつぶつ言いながら、シャルンの胸に抱え込まれた腕を見下ろしている。レダンはうまくはないが泳ぎの経験があるとのことで、上半身裸で腰を軽く覆う程度の下着姿、ずいぶん無防備な服装だと驚いたが、海に入る時はそういうものらしい。
「はい、そこで顔をつける」
「はい?」
「顔を水に浸ける」
「え、えっ」
薄化粧にしておけとはそういう意味だったのか。
うろたえながら、シャルンはそれでも必死に目をつぶって顔を水に寄せた。川で顔を洗う要領、その時に水の中を覗くように目を開けてみる感じで。事前に説明された通りに、息を止めてじゃぶりと顔が水に包まれた瞬間、目を開ける。
これは、何。
まるで水晶の中に突っ込んだような煌めきが視界全部を覆っている。そればかりではない、青く霞む遥か彼方に、なおどんどんと深みを増す鮮やかな光は、どこから放たれ輝いているのか。
ゆら、と右に何かが揺れた気がして、そちらを向くと、いつの間にかレダンの腕から手を離し、水を探るように伸ばしていた。
その手の甲に、光るものがある。揺らめく水とも、煌めく輝きとも違うもの、手の甲を薄水色の網のような、紋様のような、彩りを変えて揺蕩う繊細な線が、広がり包み指先へと辿っていく。
名を。
「っ」
耳の奥に声が響いて体が震えた。応じることなど考えなかったのに、口の中で塩辛い味が弾けて呟きが聞こえる。
シシュラグーン。
ぞわ、と指先の彼方の水が揺れた。
「…っっあ!」
「シャルン!」
叫んで跳ね起き、右手を水から引き抜いて、左手で掴まっていたレダンの腕にしがみつく。同時に、目を焼くような感覚に、思わず涙を溢れさせた。
「いったあ……いい」
水は手元に掬えば透明で、濁りも澱みも見えないが、少し離れただけで青々と深みを増していく。
「はい、この辺りから離れちゃだめだよ」
サリストアが声を掛けて制したから、シャルンは水の中を歩む足を止めた。
打ち寄せる、引いていく。
身につけている下着に似た薄いドレスが膝丈上で揺れ、ともすれば波に乱れて体を持ち去ろうとする。素足でも気持ち良さそうだと思ったが、これまた薄い布の靴下を穿かされた。何でも砂の中には尖った石が紛れ込んでいたり、貝殻の欠片なども見つかるから、足を傷つけることがあるらしい。
「そのままゆっくりしゃがみ込む」
「はいっ」
サリストアに促されて、静かに水、いや、海の中に腰を落とす。
迫り上がる澄んだ水に恐怖はなかったが、川と違ってふいにざぶりと寄せてくる波に一気に顎まで洗われ、慌てて立ち上がった。
「あ」
「シャルン」
強く踏んだ踵が砂に沈み込み、体が傾いで倒れ込み掛けたところを、咄嗟にレダンに腕を掴まれ支えられる。
「も、申し訳ございません」
「急に動くと足元が不安定だからね、レダンの腕に掴まってもう1回座ってごらん」
「はい」
サリストアに促されて、レダンの腕にしがみつきながら腰を下ろす。
「っん」
「あ、強すぎましたか」
「いや、その違う意味でこれは色々刺激的だな、うん」
レダンは妙な顔でぶつぶつ言いながら、シャルンの胸に抱え込まれた腕を見下ろしている。レダンはうまくはないが泳ぎの経験があるとのことで、上半身裸で腰を軽く覆う程度の下着姿、ずいぶん無防備な服装だと驚いたが、海に入る時はそういうものらしい。
「はい、そこで顔をつける」
「はい?」
「顔を水に浸ける」
「え、えっ」
薄化粧にしておけとはそういう意味だったのか。
うろたえながら、シャルンはそれでも必死に目をつぶって顔を水に寄せた。川で顔を洗う要領、その時に水の中を覗くように目を開けてみる感じで。事前に説明された通りに、息を止めてじゃぶりと顔が水に包まれた瞬間、目を開ける。
これは、何。
まるで水晶の中に突っ込んだような煌めきが視界全部を覆っている。そればかりではない、青く霞む遥か彼方に、なおどんどんと深みを増す鮮やかな光は、どこから放たれ輝いているのか。
ゆら、と右に何かが揺れた気がして、そちらを向くと、いつの間にかレダンの腕から手を離し、水を探るように伸ばしていた。
その手の甲に、光るものがある。揺らめく水とも、煌めく輝きとも違うもの、手の甲を薄水色の網のような、紋様のような、彩りを変えて揺蕩う繊細な線が、広がり包み指先へと辿っていく。
名を。
「っ」
耳の奥に声が響いて体が震えた。応じることなど考えなかったのに、口の中で塩辛い味が弾けて呟きが聞こえる。
シシュラグーン。
ぞわ、と指先の彼方の水が揺れた。
「…っっあ!」
「シャルン!」
叫んで跳ね起き、右手を水から引き抜いて、左手で掴まっていたレダンの腕にしがみつく。同時に、目を焼くような感覚に、思わず涙を溢れさせた。
「いったあ……いい」
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